司令官さま、絶賛失恋中の私を口説くのはやめてください!

茂栖 もす

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私と司令官さまのすれ違い

尋問会は本音で臨みます④

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 今なお言い争いをしている3人を無視して私は静かに立ち上がった。

 そうすれば、警備兵達はあっという間にマーカス達を黙らせた。……どんな方法でとは聞かないで欲しい。いわゆる手っ取り早い手段だ。

 そして騒がしかった部屋は嘘のように静まり返る。

「シンシア殿、もう一度聞く。君はこの窃盗団の共犯者か?」 
「いいえ、違います」

 きっぱりと言い切った途端、尋問席から尖った声が飛んできた。

「あんた、嘘言ってんじゃないわよっ。私、あんたがマーカスに貢いでいるのちゃんと知っているんだからね。どうせ、あんただって、私と同じようにやってたんでしょ!?自分だけ良い子ちゃんでいるんじゃないわよっ」

 髪を振り乱しながらそう叫ぶジェーンは、夜に出会ったらガチでお化けと思うくらい醜い姿だった。

 でも、思うのはそれだけだ。

 そしてチラリとマーカスを見れば、縋るような眼差しを私に向けている。どうやら、この期に及んでまだ私が助けてくれることを期待しているようだ。お前、大概にしろよ。

「シンシア殿、今の言葉に何か反論はあるか?」

 司令官さまの声で私は、ズレた意識を元に戻す。そしてしっかりと頷いた。

「はい」

 そりゃ、もう。たんと。

 そう目で訴えれば、司令官さまは続きを促してくれた。

「私が過去、マーカスに金銭の援助をしていたことは認めます。でも、」

 そこまで言って私は言葉を止める。そして、身体の向きを変え、司令官さまと向き合う。

好きじゃなかったんです」

 ちょっと小首を傾げながら私はあっけらかんとそう言い放った。

 すぐさまジェーンの罵声と、マーカスからの悲痛な声が聞こえていたけれど、もう気にならない。

「私が好きだったのは、マーカスに恋する私が好きだったんです。好きな人の力になりたい、そしてそうしている自分が好きだっただけなんです。まぁ、はっきり言って自分に酔っていただけなんです。だから自分の身を危険にさらすようなことなんてしません」

 そう。これが、この恋の落としどころ。

 マーカスのことなんかもう好きじゃないと言いながら、それでも、この想いを捨てきれなかったのは、私が過去の私に執着していただけ。

 ただ単に私は、頑張った過去の私を、否定したくなかった。自分から斬り捨てたくなかっただけなのだ。

 でも、もう良いや。もったいないなんてこれっぽっちも思わない。もう、これはいらない。

 そんな気持ちで凛と背筋を伸ばして言い切れば、司令官さまは満足そうに頷いた。言葉にするなら【大変良くできました】といったところだろう。

 でも、まだ伝えないといけないことがある。すっと肺に息を送り込んで私は再び口を開く。

「それに、会って5分で解散。そしてお給料を手渡す時しか会えない相手には、そこまでの情は持てませんから」

 これはマーカスに向けて言い放つ。にっこりと笑みを浮かべて私が言いきれば、マーカスはバツが悪い表情を浮かべ私から目を逸らした。

 そして私は、とっておきの証拠があったことを遅ればせながら思い出し、それを主張しようと思ったのだけれど、なぜだか、周りがざわざわとし始める。ちなみにざわついているのは、窃盗団ではなく軍人さん達。

『───……アイツ、マジ最低だな』
『───……オイ、俺、ぶっ殺していいか?』
『───……駄目だ、俺がやる』
『───……は?ふざけんな。俺の獲物だ』

 皆さん囁いているつもりだと思うけれど、もともと軍人さんの地声はでかい。丸聞こえだ。

 そしてもちろんマーカスにもその声はきちんと届いているようで、カタカタと小刻みに身体が震えている。無様という言葉がこれほど似合う人はそうそういないだろう。

 そんなざわめきの中、司令官さまはこの場を一層するような凛とした声を出す。
 
「静粛に。シンシア殿。続きがあるなら言いなさい」 
「はい」

 司令官さまに促され、私は自分の無実を宣言した。
 
「私、ここの面接の際に、司令官さまに職務経歴書を提出しました。あれを見てもらえば、私が、そんな悪どいことをする時間なんてなかったことを証明しています。なんなら、全部の元職場に聞き込みしてください」

 ぴしりと背筋を伸ばして言い切れば、ここでやっと司令官さまは笑った。

「君の主張は良く分かった。そして、既に調査済みだ。疑わしい部分は何一つ出てこなかった。よってこの件についても、私は君の無実を認めよう」
「はい。ありがとうございます」

 私は司令官さまに向かって深々と一礼した。

 そして腰を落とすようにストンと着席したとたん、どっと疲れが出た。

 でも、これはアレだ。やり切ったあとの解放感からくる疲労感だ。あと、眠気がじわりじわりと押し寄せてきているのもある。

 堪えきれず小さくあくびを噛み殺したら、タナトフ技術部少尉が飴をもう一個くれた。ただ、ミルク味だったのが微妙。乳製品とって、乳を育てろと言いたいのだろうか。余計なお世話です。でも、食べます。後で。

 ということは口には出さず、タナトフ技術部少尉に向かって、今回もへへっと愛想笑いをしてポケットにそれをしまい込んだ瞬間、司令官さまは、今回の尋問会を締めくくる言葉を口にした。

「ジェーン、君には虚偽告訴等罪を追加する。以上、これで尋問会を終了とする。さて、」

 学生のノリで一同礼をするためスタンバっていた私は、ここで、ん?と首を傾げる。

 なんか変なところで区切ったな、と。でも、それはすぐにわかった。

「これより尋問会はフルール近辺での窃盗集団における審判に切り替える」

 司令官さまのその言葉で部屋の空気が一変した。強い緊張感が大きな波となって、この部屋を覆う。

 そして、ここにいる軍人さん達の表情も一変した。

 先程までの観察と好奇心が混ざり合ったものは消え失せ、鋭利で容赦のない視線を拘束した3人に向けている。 

 ああ……大人が、いや軍事組織に所属している人達が本気で怒るとこうなるんだ。 

 そして、これまでは彼らにとって前座のようなもの。ここから、本番だということを知った。
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