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寄り道の章
イケメン?のお迎えが来ました
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シュウトの腕の中、捕まったと焦る私を無視して、その腕の持ち主は口を開いた。
「盗み聴きとは無粋な者だ。用があるなら、ここに来い」
さっきまでの甘い口調が一変してシュウトの声は、凍りつくように冷たかった。でも私はシュウトの身体で視界が遮られているので、まだ状況を理解できていない。
しかし、すぐに理解できた。私を抱くシュウトの腕が一層強まった時、すとんと二つの着地をする気配が伝わったからだ。次いでシュウトとは正反対に全く緊張感のない二人の声が、飛び込んでくる。
「あ~スイマセン~。何か、良い雰囲気だったんで、気を利かせたんですが……」
「まあ……バレてしまっては、気を利かせた事にはなりませんわね、ごめんなさいね」
声を聞く限りでは、男女の二人。男性のほうが、のんびりとした口調で、緊張感がない。女性のほうは、抑揚はないけれど気品があって、まるでどこかの姫のようだ。
とはいえ、この乱入者は一体どこから現れたのだろう。ふと湧いた疑問に上書きされるように、もう一人乱入者が現れた。
「動かないで下さい」
その声は、ナギの声だった。足音なんて全然しなかったのにと慄く私だったけれど、声だけのやり取りでは、この厩に5人居て一触即発という状況しかわからない。そしてどうでも良いかもしれないが、私以外の全員が足音を立てずこの厩に入ってたきている。もしかして皆、忍者というスキルを持っているのかもしれないという疑問が追加されてしまった。
一応私だって忍者のスキルは持ってはいないけれども渦中の人間なのだ。なのに置いてきぼりを食らっている。忍者というスキルを持っていないからだという差別はなしにして即刻説明を受けたいものだ。
わからないことがあったら直ぐに聞きなさいという正論は今は置いておくことにする。なぜなら『え?なになにぃ~どぉ~したのぉ』なんて、緩くこの輪の中に入る勇気など持ち合わせていないから。
そんな風によそに思考を飛ばしている間、ここにいる全員に沈黙が落ちている。それは永遠に続くと思われたけれど───。
「あっ初めまして。手前はタツミって言います。で、隣にいるのが、妹のヒノエって言います。あと、どうでもいいかもしれないっすが、こう見えて双子なんすよ~。ついでに二人とも二十歳を超えてるんすけど、それが全然見えないってのが、最近の悩みっす」
最初に口を切ったのは、タツミという男性だった。自己紹介までは要らなかったけど、これで名前だけは把握することができた。
あとは、この二人がどういう理由でここに来たかということなのだが───そう思った瞬間、タツミさんは急に口調を改めて私の疑問に答えてくれた。
「うちら二人、シュスイの秘境から、姫を迎えにやって来ました」
え、姫って誰?と、とぼけてみたいけど、ここで該当するのは私しかいない。ナギも、まぁまぁ頑張れば姫に該当するけど。シュウトは……うん、無理だ。
こんな状況でシュウトの女装を想像してみたりして、うげっと思ってみたけど、それは私の現実逃避に過ぎない。だって、この二人は、風神さんのお遣いに来た私を迎えに来てくれた人達なのだ。そして、二人が来たということは───穏やかな時間の終焉を迎える時だった。
「お引取りねがいます!」
ナギの噛み付くように叫ぶ声が聞こえる。早すぎる───そう、ナギ呟いてくれた。私と同じ気持ちでいてくれて嬉しい。
私だって早すぎると思うし、この現実を認めたくなかった。そして、シュウトも同じ気持でいてくれた。
「否、とは言わせない。即刻、ここから去れ」
シュウトは私を抱く腕に一層力を込める。気持ちは嬉しい、けれど束縛が厳しくて息苦しい。それは気持ちが重いということではなく、単純に物理的な問題で。でも、さすがにここで『苦しいから離して』とは言えない。
「あの~、姫さま、死にそうっすよ~」
あと2秒遅かったら落ちるというところで、タツミさんが私の気持ちを代弁してくれた。
すぐにシュウトは、むっとしながらも無言で腕を緩めてくれる。ただシュウトが、こっそり腕を緩めてくれたのは、指摘されたことが悔しかったからということで……それについては、私は気付かなかったことにする。
さて、これでやっと状況がわかるようになった。私はシュウトの腕からそっと顔を出した……けれど、すぐに顔を引っ込めてしまった。それは一言で言うなら【ヤバイ状況】だった。
目に飛び込んできた光景は、シュウトもナギも、太刀を構えていた。それは以前、私が桃木の丘で太刀を突きつけられた状況とは違う。二人は太刀を斜めに構えている。それが指し示すところは、話し合いなど必要なく、去らないなら斬るということ。
反対にお迎えに来た二人も、小ぶりの武器を構えている。武器の名前は良くわからないけど、良く斬れそうだ。
両者そろって攻戦する気満々の状況で、その原因を作ったのは他ならぬ私。だから、それを止めることができるのも、きっと私だけ。
「あの二人とも、勝手なこと言わないでください!」
シュウトの腕から抜け出して、私は一歩前に出てそう叫ぶ。
「そうだろう。さっさと、お引取り願おう」
「……え?違いますよ」
私の言葉に同意を見せてくれる同意を示してくれるシュウトだけど、違う、同意して欲しいのはそこじゃない。
けれど、それを説明する間もなくシュウトが再び口を開く。
「瑠璃殿は、そなたの主とは会わないといっておるのだ。今すぐ去れ」
「ですから、違います」
「……へ?」
シュウトは私の発言に理解ができず、太刀を構えたまま間抜けな声をだした。ナギも、呆然と瞬きを繰り返している。
私は各々が構えている武器の合間を縫って、ガシッとお迎えに来た二人の腕を掴んだ。色んな感情がごちゃ混ぜになって、それを全部振り払うように大きく息を吸う。
そして、迷いを振り切るように声の限り叫んだ。
「是非、連れて行ってください!」
腕を掴まれた二人はもとより、シュウトとナギも、そろってぽかんと口を開けた。
「─────────────────────────────……へぇ?」
四人の間抜けな声は、むなしく厩に木霊した。
予想通りに4人の鳩が豆鉄砲を食らった表情になってくれて、私は満足げに笑みを浮かべる。これで4人が太刀を合わせることはないはずだ。
でも、手を強く握り、掌に爪を食い込ませる。それを気付かれぬよう、反対の手で覆い隠す。
痛い、痛い、痛い、痛い───胸が、痛い。
動揺を隠しきれないシュウトとナギを見つめ、首を横に振る。二人は傷付いたように、悲しい顔をした。
次いで、お迎えに来た、タツミとヒノエを見つめ小さく頷いた。二人も何故か、シュウトとナギと同じように悲しい顔をした。
それは多分、私が無理して笑っているからなんだろう。
この一週間、一度だけ私がこの屋敷にずっといることを想像してみた。
ささやかだけど憧れていた、眩しくて当たり前の毎日が続いていく。それは、目眩がするほど幸せで───慌てて、その想像を打ち消した。考えてはいけない。願ってもいけない。
私は風神さんと約束したのだ。お遣いに行く代わりに、神結家から自由にしてもらう、と。これは契約で、取引で、等価交換なのだ。だから、私はシュウトとナギと別れて、お遣いを再開しないといけない。
一緒にお遣いに行ってほしいという願いは胸の内に秘めてままで。
風神さん、お待たせしてごめんなさい。今から、お遣いを再開します。
「盗み聴きとは無粋な者だ。用があるなら、ここに来い」
さっきまでの甘い口調が一変してシュウトの声は、凍りつくように冷たかった。でも私はシュウトの身体で視界が遮られているので、まだ状況を理解できていない。
しかし、すぐに理解できた。私を抱くシュウトの腕が一層強まった時、すとんと二つの着地をする気配が伝わったからだ。次いでシュウトとは正反対に全く緊張感のない二人の声が、飛び込んでくる。
「あ~スイマセン~。何か、良い雰囲気だったんで、気を利かせたんですが……」
「まあ……バレてしまっては、気を利かせた事にはなりませんわね、ごめんなさいね」
声を聞く限りでは、男女の二人。男性のほうが、のんびりとした口調で、緊張感がない。女性のほうは、抑揚はないけれど気品があって、まるでどこかの姫のようだ。
とはいえ、この乱入者は一体どこから現れたのだろう。ふと湧いた疑問に上書きされるように、もう一人乱入者が現れた。
「動かないで下さい」
その声は、ナギの声だった。足音なんて全然しなかったのにと慄く私だったけれど、声だけのやり取りでは、この厩に5人居て一触即発という状況しかわからない。そしてどうでも良いかもしれないが、私以外の全員が足音を立てずこの厩に入ってたきている。もしかして皆、忍者というスキルを持っているのかもしれないという疑問が追加されてしまった。
一応私だって忍者のスキルは持ってはいないけれども渦中の人間なのだ。なのに置いてきぼりを食らっている。忍者というスキルを持っていないからだという差別はなしにして即刻説明を受けたいものだ。
わからないことがあったら直ぐに聞きなさいという正論は今は置いておくことにする。なぜなら『え?なになにぃ~どぉ~したのぉ』なんて、緩くこの輪の中に入る勇気など持ち合わせていないから。
そんな風によそに思考を飛ばしている間、ここにいる全員に沈黙が落ちている。それは永遠に続くと思われたけれど───。
「あっ初めまして。手前はタツミって言います。で、隣にいるのが、妹のヒノエって言います。あと、どうでもいいかもしれないっすが、こう見えて双子なんすよ~。ついでに二人とも二十歳を超えてるんすけど、それが全然見えないってのが、最近の悩みっす」
最初に口を切ったのは、タツミという男性だった。自己紹介までは要らなかったけど、これで名前だけは把握することができた。
あとは、この二人がどういう理由でここに来たかということなのだが───そう思った瞬間、タツミさんは急に口調を改めて私の疑問に答えてくれた。
「うちら二人、シュスイの秘境から、姫を迎えにやって来ました」
え、姫って誰?と、とぼけてみたいけど、ここで該当するのは私しかいない。ナギも、まぁまぁ頑張れば姫に該当するけど。シュウトは……うん、無理だ。
こんな状況でシュウトの女装を想像してみたりして、うげっと思ってみたけど、それは私の現実逃避に過ぎない。だって、この二人は、風神さんのお遣いに来た私を迎えに来てくれた人達なのだ。そして、二人が来たということは───穏やかな時間の終焉を迎える時だった。
「お引取りねがいます!」
ナギの噛み付くように叫ぶ声が聞こえる。早すぎる───そう、ナギ呟いてくれた。私と同じ気持ちでいてくれて嬉しい。
私だって早すぎると思うし、この現実を認めたくなかった。そして、シュウトも同じ気持でいてくれた。
「否、とは言わせない。即刻、ここから去れ」
シュウトは私を抱く腕に一層力を込める。気持ちは嬉しい、けれど束縛が厳しくて息苦しい。それは気持ちが重いということではなく、単純に物理的な問題で。でも、さすがにここで『苦しいから離して』とは言えない。
「あの~、姫さま、死にそうっすよ~」
あと2秒遅かったら落ちるというところで、タツミさんが私の気持ちを代弁してくれた。
すぐにシュウトは、むっとしながらも無言で腕を緩めてくれる。ただシュウトが、こっそり腕を緩めてくれたのは、指摘されたことが悔しかったからということで……それについては、私は気付かなかったことにする。
さて、これでやっと状況がわかるようになった。私はシュウトの腕からそっと顔を出した……けれど、すぐに顔を引っ込めてしまった。それは一言で言うなら【ヤバイ状況】だった。
目に飛び込んできた光景は、シュウトもナギも、太刀を構えていた。それは以前、私が桃木の丘で太刀を突きつけられた状況とは違う。二人は太刀を斜めに構えている。それが指し示すところは、話し合いなど必要なく、去らないなら斬るということ。
反対にお迎えに来た二人も、小ぶりの武器を構えている。武器の名前は良くわからないけど、良く斬れそうだ。
両者そろって攻戦する気満々の状況で、その原因を作ったのは他ならぬ私。だから、それを止めることができるのも、きっと私だけ。
「あの二人とも、勝手なこと言わないでください!」
シュウトの腕から抜け出して、私は一歩前に出てそう叫ぶ。
「そうだろう。さっさと、お引取り願おう」
「……え?違いますよ」
私の言葉に同意を見せてくれる同意を示してくれるシュウトだけど、違う、同意して欲しいのはそこじゃない。
けれど、それを説明する間もなくシュウトが再び口を開く。
「瑠璃殿は、そなたの主とは会わないといっておるのだ。今すぐ去れ」
「ですから、違います」
「……へ?」
シュウトは私の発言に理解ができず、太刀を構えたまま間抜けな声をだした。ナギも、呆然と瞬きを繰り返している。
私は各々が構えている武器の合間を縫って、ガシッとお迎えに来た二人の腕を掴んだ。色んな感情がごちゃ混ぜになって、それを全部振り払うように大きく息を吸う。
そして、迷いを振り切るように声の限り叫んだ。
「是非、連れて行ってください!」
腕を掴まれた二人はもとより、シュウトとナギも、そろってぽかんと口を開けた。
「─────────────────────────────……へぇ?」
四人の間抜けな声は、むなしく厩に木霊した。
予想通りに4人の鳩が豆鉄砲を食らった表情になってくれて、私は満足げに笑みを浮かべる。これで4人が太刀を合わせることはないはずだ。
でも、手を強く握り、掌に爪を食い込ませる。それを気付かれぬよう、反対の手で覆い隠す。
痛い、痛い、痛い、痛い───胸が、痛い。
動揺を隠しきれないシュウトとナギを見つめ、首を横に振る。二人は傷付いたように、悲しい顔をした。
次いで、お迎えに来た、タツミとヒノエを見つめ小さく頷いた。二人も何故か、シュウトとナギと同じように悲しい顔をした。
それは多分、私が無理して笑っているからなんだろう。
この一週間、一度だけ私がこの屋敷にずっといることを想像してみた。
ささやかだけど憧れていた、眩しくて当たり前の毎日が続いていく。それは、目眩がするほど幸せで───慌てて、その想像を打ち消した。考えてはいけない。願ってもいけない。
私は風神さんと約束したのだ。お遣いに行く代わりに、神結家から自由にしてもらう、と。これは契約で、取引で、等価交換なのだ。だから、私はシュウトとナギと別れて、お遣いを再開しないといけない。
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