お遣い中の私は、桜の君に囚われる

茂栖 もす

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お遣いの章

お遣い中のサプライズはご遠慮願います①

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 端的にまとめた私の質問に対してシュウトは、あろうことか心外だと言わんばかりに、これみよがしに溜息を付いた。その瞬間、私の眉はピクリと撥ねたのは言うまでもない。

「……シュウトさん、見え透いた演技はこの際置いといて、まずはこの状況を説明してください」

 いつぞやのように声を張り上げ、子供のように地団駄を踏みたくなる衝動を大きく息を吐いて何とか堪える。なのにシュウトは───。

「ん?見たままだ。瑠璃を手放すつもりはないから、私がついて行くことにした」

 と、あっさりと答えてくれた。

 その素直さは見習いたいところだけれど、この状況については、そんな言葉では納得できない。更に問い詰めるべく口を開きかけた私だったけれど、それより早くシュウトが口を開いた。

「それより瑠璃、なぜ今更【さん付け】で呼ぶのだ?いつも通り、シュウトと呼んでくれ」
「……………………それはいつも通りとは言えない状況だからです」

 シュウトを見習う訳ではないが素直にこたえてみる。けれど、ほか諸々というか、肝心な件についての言葉が上手く口にできない。そんな苛立ちと問い詰めたい気持が入り混じり、じっとシュウトを見つめていたら……。

「瑠璃、そう見つめられると、たまらない気持ちになる。できれば誰もいない時にそうしてくれ」

 と、斜め上、いや的外れなことをのたまったのだ。
 しかもシュウトの頬は少し赤みがさしている。……こんなことで赤面する理由がわからない。詳細はかたらないけれど、それ以上のことを散々してきたくせに、これこそ何を今更だ。

「シュウトさん、それでは答えになってないです。今まで外に出なかったのはそれなりの理由があるんですよね?なのに、急に外に出たりして大丈夫なんですか?」

 シュウトは今度は、煩いと言わんばかりに耳を塞いだ。……絶対にわざとやってる。

 むっとした表情を隠すことはせず、力いっぱいシュウトを睨み付けたら、こちらを見るシュウトは何故かさらに顔を赤くする。

「そんなの………瑠璃のことが好きだからだ………。それ以外に何の理由がいるのだ?惚れた相手のそばにいたいと思うのは当然のことだし、それを取り巻く面倒なことなど、大丈夫と呼ばれる状態にすればいいだけのこと。瑠璃が心配する必要などない」

 そう言って、シュウトは騎乗したまま私に手を伸ばす。
 条件反射というべき素早さで、寸前のところで身をかわすことができたけれど、靡いた髪はどうすることもできず、シュウトの手の中に一房掴まってしまった。

 そして私の髪に口付けを一つ落として、とんでもない事をぬかした。

「いずれ私達は夫婦になるとはいえ、既成事実では後々、瑠璃殿が傷つく場合があるかもしれない。この際、瑠璃殿の知人に仲人になってもらったほうが都合が良いだろ?」

 ……お遣いに向かっているはずなのに、どうして仲人を依頼するという件にすり替わってしまったのだあろうか。色んなところが間違ってる。あと、なぜ私に同意を求めるのだろうか。ついでに夫婦になるという前提になっているけれど私は初耳だ。と、どこから突っ込みを入れて良いのかわからない程に疑問が溢れてくる。

 そんな気持ちを隠すつもりがない私は眉に深い皺を一本くっきりと浮かばせてみた。

 シュウトと並んでいたヒノエも、さすがに、押し掛け同行者の問題発言にピクリと眉が跳ねる。正直言って、私では暖簾に腕押し状態。なのでヒノエからきつい一言をお見舞いされれば良いと、ヒノエに向かって一つ頷いてみる。

「黙って聞いていれば、ぬけぬけとそのようなことが言えますわね」

 私からGOサインを受け取ったヒノエはそう呟くと同時に、懐から物騒な暗器を取り出した。無表情に暗器を構えるヒノエに背筋が凍りつく。ちなみにシュウトも受けて立つと言わんばかりに、太刀の柄に手を掛けている。駄目だ、これは間違いなく血を見る結果になりそうだ。慌てて一触即発の二人に割って入る。

「あの・・・ヒノエさん、それ、洒落にならなくなりそうだから、一旦、しまって下さい」 

 慌てて止めた私に、ヒノエはしぶしぶといった体だが、すぐに暗器を懐におさめてくれた。シュウトも何事もなかったかのような表情に戻る。

 ほっとしたのも束の間、結局、現状は何も変わっていない事に気付き、がっくりと肩を落とす。無駄に疲れただけだった。

 やっぱりこのまま【そういうもの】として、先に進んだほうが良いのたろうか。

 忘れていたけれどシュウトは、人の話を聞かないタイプの人間だった。こうと決めたことに対しては何を言っても無駄だし、他力本願でどうにかしてもらうには危険すぎる。

 でも、最後の悪あがきとして、あと一人だけ問い詰めたい人物がいる。

「ナギさん、ちょっと良いですか?」

 私の問い掛けに、並んで歩く青年は涼やかな目元をこちらに向けてくれる。その青年ことシュウトの小姓の同意を得る前に、私はその腕を掴んで脇道に逸れた。
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