サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第二話 サングレアルを探す男

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「ちょ、ちょっと待ってくれって!俺ほんとにそんなつもりないんだ!」

男は慌てて彼女の後を追った。

細い路地を早足で進む彼女の背中に、必死に声を投げる。

「命の恩人だぞ?感謝くらいさせてくれよ!」

女は振り返らない。

「もういいです」

歩きながら、淡々と言う。

「初対面の人にあんな言い方してしまった私も悪かったです。だから、これで終わりにしましょう」

「いや終わらせないで!?俺、迷子なんだって!ここ抜けないとマジで死ぬ!」

女の歩みが一瞬だけ止まった。

だが振り返らない。

「……勝手にしてください」

「いやいやいや、勝手にできないから困ってるんだって!」

男は頭を抱えながら叫ぶ。

迷路のような路地は、どこも似たような景色だ。
一人で歩けば、本当に抜け出せなくなる気がする。

女は深くため息をついた。

「……迷路地区を抜けたら」

ゆっくりと言う。

「絶対ついて来ないでください」

「え、なんで?」

少し間が空いた。

女は足を止め、振り返る。

その目には、さっきまでとは違う感情が宿っていた。

「私は――」

小さく息を吐く。

「権力とか財力にものを言わせる人間が、大嫌いなんです」

男がきょとんとする。

女は続けた。

「お金と力を持ってる人ほど、偉そうにする」

拳がわずかに震える。

「……サングレアルなんて、その最たるものじゃない」

その声には、はっきりとした嫌悪が混じっていた。

「だから嫌いなんです」

少しだけ目を伏せる。

「サングレアルなんて……」

そして吐き捨てるように言った。

「死ねばいい」

その瞬間だった。

男の目がぱっと開く。

「えっ、サングレアル!?」

さっきまでの疲れた様子が嘘のように、声の調子が跳ね上がる。

「マジで!?どこ!?」

女は一瞬、呆然とした。

「……は?」

「俺さ、サングレアル探してるんだよ!」

男は一歩詰め寄る。

さっきまで死にかけていたとは思えない食いつきだ。

「ちょっとでも情報くれない?頼む!」

女は完全に呆れた顔になった。

「……変な人」

少し沈黙してから、ぽつりと言う。

「私の町にいるわよ」

その言葉を口にする時だけ、声が硬くなる。

「バロンドーム」

男の表情が止まった。

「バロンドーム……」

その名前を口の中で転がすように繰り返す。

女は冷たく続けた。

「会いに行ったら殺されるわよ」

ちらりと男を見る。

「少なくとも、あんたみたいなのじゃ」

男は少し考えたあと――

あっさり言った。

「でも行く」

即答だった。

女が眉をひそめる。

男は両手を合わせる。

「お願い!町まで一緒に行かせて!」

「……」

「絶対迷惑かけないから!」

しばらく沈黙が続いた。

やがて女は、面倒くさそうに息を吐く。

「……じゃあ」

少し振り向く。

「タクシー代、出して」

男の顔がぱっと明るくなる。

「出す出す!全然出す!」

満面の笑みだった。
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