不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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ミツメ

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俺の名前は三ツ目透(みつめ とおる)
生まれた瞬間、産婦人科が騒然となったらしい。  
「目が……三つある!」

額の真ん中に、小さな縦の目。  
生まれたばかりなのに、それはぱっちりと開いていて、  
まるで「やっと外に出られた」とでも言いたげに、  
産声より先に、部屋中の人間をじっと見回したという。

母は気絶し、父は「写真撮るな!」と叫び、  
医者は「世界初の症例だ」と興奮して学会に連絡しようとした。  
結局、祖母が「うちの家系に伝わる『見える子』の血だ」と一喝して、  
外部への情報は完全に封鎖された。


三つ目の目は、普通の目とは違うものが見えた。  
人の嘘が、色で見える。  
赤は悪意、青は優しさ、緑は嫉妬、黒は……死の予兆。

ある日、クラスの人気者・ケンタくんが、  
「とおりくん、目がキモいよ」と言った瞬間、  
ケンタくんの周りが真っ黒に染まった。  
三日後、ケンタくんはトラックに轢かれて死んだ。

それからというもの、誰も俺に近づかなくなった。  
先生すら、俺の目を見ると震えながら「今日はお休み?」と聞いてくる。  
俺はいつも「うん」と答えて、早退した。


小学三年生のとき、転校生が来た。  
名前は四宮光(しのみや ひかり)
彼女は盲目だった。生まれつき両目が見えない。

「ねえ、三ツ目くん。あなたの目、見せてよ」

初めて「キモい」と言われなかった。  
光は俺の額の目に指を這わせて、微笑んだ。

「きれいな目。星みたい」

それから俺たちは毎日一緒にいた。  
光は俺の三つ目の目で見た世界を、言葉で教えてほしいと言った。  
俺は見える嘘や死を、できるだけ優しく伝えた。

「今日、先生の周りが少し黒かった」  
「じゃあ、明日はお弁当持ってこない方がいいね。食中毒かも」

そんなやりとりが、俺たちの秘密だった。



中学二年の夏、三つ目の目が突然「開きすぎた」。
世界が割れた。  
過去と未来が、洪水のようになだれ込んできた。

俺は見た。  
光が高校二年の冬、川に落ちて死ぬ未来を。  
しかも、俺が手を離すから。

それから俺は光を避けた。  
話しかけられても無視した。  
光は泣きながら「どうして?」と聞いたけど、  
俺は答えられなかった。

だって、俺が近づかなければ、光は死なないから。


高校一年の十二月。  
俺は光を完全に切り捨てた。  
別のクラス、別の帰り道、連絡先も全部消した。

そして、運命の日は来た。  
俺は遠くから見た。  
光が凍った川に落ちていくのを。

でも、そこで見たのは——  
光の隣にいた、もう一人の俺。

別の俺が、光の手をしっかり握って、  
川から引き上げていた。

三つ目の目が、初めて「別の未来」を見せた。


卒業式の日。  
俺は光に会いに行った。  
三年ぶりに。

「ごめん。俺、ずっと逃げてた」

光は笑った。白杖を突きながら、俺の額に触れた。

「知ってるよ。私、あなたの目が見てた未来、全部聞いてたから」

「……え?」

「別のあなたが、毎晩私の夢に出てきてた。『透はバカだから、無視しててごめん』って」

俺は泣いた。  
初めて、三つ目の目から涙がこぼれた。


今、俺は大学の夜間部に通ってる。  
昼は「第三の眼」という小さな占い館をやってる。  
額の目は、もう隠してない。  
縦に開いた瞳は、深い紫色に変わった。

客が来るたび、俺は三つの目で真実を見る。  
でも、決して「死」を告げない。  
だって俺は知ってる——  
未来は、変えられるってことを。

光は今、俺の隣でピアノを弾いてる。  
盲目だから楽譜は読めないけど、  
俺の目が見せる「音の色」を頼りに、  
世界で一番美しい旋律を奏でる。

ときどき、俺たちの間に、もう一人の俺が現れる。  
別の未来から来た、笑ってる俺。

「おい、透。今日はちゃんと光の手、離すなよ?」

「ああ、絶対に」

三つ目の目は、もう呪いじゃない。  
俺が選んだ、誰かを守るための目だ。

だから俺は、これからも見続ける。  
無数の未来の中で、  
光が一番笑ってる世界を。

(完)

#### おまけ 三ツ目透の占い館・本日の予約状況
```
19:00 「彼氏の浮気見抜いてください」→ 赤100%、即別れ推奨
20:00 「宝くじ当たる?」→ 緑3%、買うなら3億円コースは諦めて
21:00 「死にそうなんですけど」→ 黒0%、ただの風邪です寝てください
22:00 四宮光(予約永久優先)→ ピンク100%、今日も世界一可愛い
```

額の目は、今日も幸せだけを見てる。
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