不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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感情逆転症候群

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俺の名前は佐藤和真、28歳。  
職業は葬儀屋。  
三年前、突然発症した。

「楽しいときは涙が止まらなくなる。  
悲しいときは、笑いが止まらなくなる」

医者は「感情逆転症候群」と名付けた。  
世界に前例がない、超レア疾患。  
治療法は未確立。  
副作用として、声も逆になる。  
「うわー!すげえ!」って言いたいときは、  
「うわぁぁん……」って泣き声になる。

最初は地獄だった。  
親友の結婚式で号泣。  
祖母の葬式で爆笑。  
会社をクビになり、友達は全員逃げた。


ある雨の夜、コンビニの傘立てで出会った。  
彼女は傘を忘れて、困ってた。
それは一目惚れだった。
俺は勇気を出して声を掛けた。

「すみません、僕の傘使いますか?」

俺は緊張で死にそうだった。  
だって、好きな人に出会えた瞬間、  
涙がボロボロこぼれてきたから。

「え、えっと……大丈夫ですか? 泣いてる?」

彼女(名前は高橋彩花)はびっくりしてた。  
俺は必死に首を振った。

「ち、違います! すげえ嬉しいんです!  
めっちゃ可愛い人で……うわぁぁん!」

もうダメだ。  
完全に変質者扱い決定。

でも彩花は、  
突然クスクス笑い出した。

「面白い人ですね。泣きながら『可愛い』って……  
私、初めて言われました」

その瞬間、俺の中で何かが弾けた。  
だって、彩花の笑顔が眩しすぎて、  
涙が滝のように溢れたから。


付き合い始めて三ヶ月。  
俺たちは「逆デート」を始めた。

映画館では、  
ホラー映画を見て爆笑。  
ラブコメディで号泣。

遊園地では、  
ジェットコースターで「怖いー!」って泣き叫び、  
お化け屋敷で「楽しいー!」って大笑い。

彩花はいつも言った。

「和真くんの涙、すごく綺麗なんだよ。  
笑ってる時の涙って、ダイヤモンドみたい」


初めてケンカした日。  
俺がまた感情を逆にして、  
彩花の誕生日パーティーで号泣してしまった。

「ごめん……ほんとごめん……  
すげえ嬉しくて……うわぁぁん!」

彩花は黙ってた。  
そして、突然言った。

「私、もう限界かも」

その瞬間、  
俺は笑った。  
止まらなく笑った。

「ははは……ははははは!  
やっと……やっと言ってくれた……  
はははははは!」

彩花は泣きそうな顔で、  
俺の頬を両手で挟んだ。

「バカ。悲しいときに笑うのやめてよ。  
私、本気で別れようかと思ったんだから」

俺は笑いながら、  
必死に首を振った。

「やだ……やだよ……  
彩花がいないと……ははは……俺……」


時は流れ、葬儀場。
俺の職場。  
誰もいない夜の式場。

「彩花、俺と結婚してくれますか?」

俺は泣いてた。  
ボロボロ涙を流して。

彩花は一瞬固まって、  
そして、笑った。  
今まで見たことないくらい、  
幸せそうに。

「うん。いいよ」

その瞬間、  
俺は笑った。  
声を出して、腹を抱えて、  
床を転げ回るくらい笑った。

「ははははは! やったー! やったやったやったー!」

彩花は泣きながら、  
俺の首にしがみついた。

「バカ……ほんとバカ……  
泣きながら笑う人なんて、和真くんしかいないよ」

今、俺たちの家には、  
「感情逆転カレンダー」がある。

- 結婚記念日 → 号泣予定  
- 彩花の誕生日 → 爆笑予定  
- 子供の誕生予定日 → たぶん気絶

医者は言った。  
「あなたの病気、完治の見込みはありません」って。

でも俺は、もう治りたくない。

だって、  
彩花が「大好きだよ」って言うたび、  
俺は涙が止まらなくなるから。

彩花が「ずっと一緒にいたい」って言うたび、  
俺は笑いが止まらなくなるから。

この病気は、  
俺の一生の宝物だ。

#### おまけ 佐藤家のルール

1. 和真が泣いてたら、絶対に嬉しい合図  
2. 和真が笑ってたら、絶対に悲しい合図  
3. でも子供はもう慣れてて、  
   パパが泣いてると「おめでとう!」って言う  
4. 彩花は毎日言ってる  
   「世界一変な人だけど、世界一愛してる」

俺は今日も、  
泣いてる。  
だって、  
彩花が隣で寝息を立ててるから。
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