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ジャンピング花子さん
しおりを挟む学校の七不思議の一つに、「ジャンピング花子さん」がいた。
うちの小学校は、古い木造校舎で、戦前から建ってるって言われてた。廊下はいつもきしんで、窓ガラスは曇りがちで、雨の日は特に陰気だった。トイレの個室に花子さんがいるっていう話は、全国の学校にある定番だけど、うちの学校の花子さんは特別だった。
彼女は、ただいるんじゃない。「ジャンプする」んだ。
三年生のとき、初めて聞いた。
休み時間の教室で、男子たちが集まって囁き合ってた。
「ジャンピング花子さん、マジでヤバいらしいぜ」
「どうやって呼ぶの?」
「三階の女子トイレの、一番奥の個室の前で、ジャンプしながら『花子さーん』って三回呼ぶんだって。そしたら、ぴょんぴょん跳ねながら現れて……」
「で、何が起きるの?」
「一緒に跳ばされるんだよ。永遠に」
みんなで笑ってたけど、声が少し震えてた。誰かが本気で試そうとしたけど、結局誰もやらなかった。怖かったから。呼び方が間違ったら、取り返しがつかないって、噂があった。
四年生になると、もっと詳しい話が広がった。
「花子さんは、昔ここで死んだ子だって。縄跳びが上手すぎて、屋上で一人で跳んでたら、勢い余って柵を越えて落ちたんだ」
「それで、霊になって、ずっと跳ねてる。誰かを誘ってるんだ。一緒に跳ぼうって」
五年生のときには、実際に試した子がいたって話が出た。
「去年の六年生の女の子が、友達と呼んだら、本当に現れたんだって。でも、逃げ切れなくて……それから、その子、転校しちゃった」
理由は「家庭の事情」って言われたけど、みんな知ってた。本当は、夜中に家でぴょんぴょん跳ねる音が聞こえるようになったから、親が怖がって引っ越したんだって。
それから、数年経った。
俺はもう小学六年生。夏休みの補習で、学校に来るのが億劫だった。古い校舎は、夏でも薄暗くて、扇風機の音だけが響く。
その日、友達のタカシと二人で、補習が終わった後に校舎を探検してた。誰もいない教室を覗いたり、屋上に上がってみたり。
「なあ、覚えてるか? ジャンピング花子さん」
タカシが、いつもの悪戯っぽい笑いで言った。
「バカ、あんなガキの頃の話、信じてんのかよ」
俺は強がって笑ったけど、心臓がどくどく鳴ってた。実は、最近夢に見てたんだ。ぴょんぴょん跳ねる白い影を。
三階に上がった。女子トイレの前は、いつもより暗く感じた。ドアが少し開いてて、中から湿った匂いがした。
「やるか? 今なら誰もいないぜ」
タカシの目が輝いてた。
「やめとけって。マジでヤバいって」
でも、俺たち、結局入った。
女子トイレの中は、埃とカビの匂いが充満してた。一番奥の個室の前で、二人並んで立った。
深呼吸して、ジャンプした。
「花子さーん!」
一回目。ぴょん。
足音が、タイルに響く。
「花子さーん!」
二回目。ぴょん。
少し息が上がった。
「花子さーん!」
三回目。ぴょん。
何も起こらなかった。
静寂だけ。
「ほら、なんもねえじゃん。都市伝説なんて、しょせん嘘だよ」
タカシが大笑いした。
俺もホッとして、トイレを出ようとした。
そのとき──。
ぴょん。
小さな、でもはっきりした音。
トイレの奥、一番奥の個室から。
ぴょん。ぴょん。ぴょん。
リズムが、だんだん速くなる。
俺とタカシは、振り返った。
個室のドアが、ゆっくり、ゆっくり開いた。
そこに、女の子がいた。
白いワンピースは汚れてて、黒い髪はぼさぼさ。ポニーテールに赤いリボンが、血みたいに染まってた。顔は青白くて、目は真っ黒。
足は、地面に着いてない。
ぴょん、ぴょん、ぴょん。
空中で、縄跳びみたいに跳ね続けてる。
でも、笑ってない。
口が、耳まで裂けたみたいに開いてる。
「一緒に……跳ぼう……?」
低い、湿った声。
俺たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
階段を転がるように下りて、校舎の外まで。校庭で倒れ込んで、息を切らした。
「マジで……いた……あれ、本物だ……」
タカシの顔が、真っ青だった。
それから、俺たちは二度とその話をしなかった。
学校でも、誰にも言わなかった。
でも、夜になると、聞こえるようになった。
ぴょん。ぴょん。
自分の部屋で。
最初は、気のせいだと思った。
でも、だんだん近くなった。
ベッドの下から。
クローゼットの中から。
それから、十年経った。
俺は二十五歳。地元を離れて、別の街で働いてる。
ある日、タカシから連絡が来た。
同窓会で会おうって。
酒が入って、昔話になった。
でも、タカシはジャンピング花子さんの話をしなかった。
俺も、できなかった。
同窓会の帰り、俺は一人で歩いてた。
ふと、足が止まった。
地面を見て、気づいた。
俺の影が、勝手に動いてる。
ぴょん。ぴょん。
影が、ジャンプしてる。
俺の体は、動いてないのに。
慌てて家に帰った。
鏡を見た。
俺の顔が、笑ってる。
口が、耳まで裂けて。
そして、俺の体が、勝手に跳ね始めた。
ぴょん。ぴょん。ぴょん。
もう、止まらない。
花子さんは、一人じゃなかった。
俺を、誘いに来たんだ。
今も、どこかで跳ねてる。
誰かを、待ってる。
次は、あなたかも。
ぴょん。
ぴょん。
終わり。
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