不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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もしもこの世に敬語が無かったら

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朝7時半の通勤電車。  
もうすでに戦場。

「おい、そこのデカ男! もっと詰めろよ!」
「は? 俺が? お前こそ腹出てるんだから引っ込めろ!」
「腹出てるのはお前だろ! 鏡見てこい!」
「鏡なんかいらねぇよ! お前の顔見りゃ十分だ!」

隣の女子高生グループはもう完全に口喧嘩モード。
「ねぇあれ、超ウザくね?」
「だろ? 声デカすぎ。耳腐るわ」
「直接言ってやろうぜ」
「いいね! 行こう!」

そして本当に詰め寄って
「うるせぇんだよ! 黙れ!」
「はぁ? お前らこそ黙れよガキ!」
→ 電車内大乱闘開始(誰も止めない)

会社到着。エレベーター前。

部長が仁王立ち。
「おい田中! また遅刻かよ!」
「うっせぇ! 電車が遅れたんだよ!」
「言い訳すんな! 昨日も遅刻してただろ!」
「昨日はお前が『もうちょっと残れ』って言ったからだろーが!」
「残れって言ったのはお前が仕事遅いからだろ!」
「だったら最初から人を増やせよ!」

朝イチから部長vs田中がガチバトル。
周りの社員はスマホ見ながら
「またか……賭けようぜ。今日はどっちが先に謝る?」
「部長だろ。昨日負けてたし」

会議室に入ると地獄絵図。

企画書をプロジェクターに映した瞬間、爆発。

「このデザイン、マジでゴミじゃね?」
「は? お前がゴミだろ」
「誰が作ったんだよこれ」
「俺だよ! 文句あんのか!」
「文句しかないわ! センス死んでる!」
「死んでんのはお前の目だろ!」

課長が立ち上がって絶叫。
「うるせぇ! 全員黙れ! 俺が決める!」
「はぁ? お前が一番センスないだろ!」
「黙れ新卒! 入社3ヶ月で何様だ!」
「3ヶ月だろうが正論は正論だ! このクソ企画通したら会社終わるぞ!」

しまいには課長と新卒がプロジェクターの前で胸ぐら掴み合い。
隣の部署の先輩がポテチ食いながら
「またやってる……昼飯前に疲れたわ。誰か止めに行かねぇの?」
「めんどくせぇ。勝手にやらせとけ」

昼休み。社食の行列。

「このカレー、薄くね?」
「だろ? 出汁ゼロじゃん」
「厨房のオッサン、最近手抜きすぎだろ」
「直接言ってやろうぜ」
「行こう!」

女子社員3人組が厨房に突撃。
厨房のおじさん、玉ねぎ切った包丁持ったまま出てきて
「なんだテメェら!」
「カレー薄いんだよ! 出汁入れろ!」
「うるせぇ! 文句あるなら食うな!」
「食わねぇよ! こんなゴミ!」
「だったら二度と来んなクソガキども!」

社食が戦場化。  
隣のテーブルのおっさんたちが
「また始まったよ……応援しようぜ」
「カレー派vs厨房派か。俺は厨房だな」

夕方、残業中のオフィス。

上司がデスクに来て
「おい鈴木、今日中に終わらせろよ」
「無理だろ! 量多すぎ!」
「多すぎとか関係ねぇ! やれ!」
「じゃあお前が手伝えよ!」
「……は?」

5秒の睨み合い。
そして上司、渋々椅子引いて隣に座る。
「しょうがねぇな……どこからだ?」
「ここからだよ。字小さすぎだろ」
「小さくした方が見やすいだろバカか!」
「見やすいとかどうでもいい! インパクトだよインパクト!」
「インパクトって何だよ! お前広告代理店じゃねぇだろ!」

結局二人で朝4時まで残業。
文句言い合いながら、なぜか資料完成。
隣の部署のやつが朝イチで通りがかり
「お前ら……結局仲良いな。喧嘩するほど仲がいいってやつ?」

翌朝、また同じ電車。
同じ会社。
同じ喧嘩。

でも誰も、本気で傷ついてない。
「すみません」「お願いします」「ありがとうございます」が存在しない世界だから、  
建前も遠慮も忖度も全部消えて、  
残るのは剥き出しの本音だけ。

だからこそ、  
誰かが倒れたら  
「おい! 大丈夫かよ! 立てよ!」
誰かが泣いてたら  
「泣くなよバカ……でも、泣きたいなら泣けよ」

皮肉なことに、  
敬語が消えた世界で、  
一番頻繁に聞こえる言葉はこれだった。

「好きだよ」
「死ぬほどムカつくけど……離れたくねぇ」
「嫌いじゃねぇよ」
「死にたくなるくらい辛いけど……お前がいるからまだ生きてる」

敬語がない世界は、  
毎日が大喧嘩の世界だった。  
でも同時に、  
嘘が一番つきにくい世界でもあった。

そして誰もが、  
心のどこかで小さく呟いていた。

「……たまには『すみませんでした』って  
 言える瞬間があっても、  
 別に悪くねぇのかもな」

その一言が、  
どれだけ重くて、  
どれだけ温かいかを、  
今さらみんな知ってしまったから。

あなたの何気ない一言が時に相手の人生を変えます。

言ノ葉は武器になり容赦なく人を傷付けます。

そして、大切な人を守ることも出来ます。

あの日あの時の後悔を生まない人生になりますように。

世界に幸あれ。
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