不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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シャイな妹はロックンローラー3

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 ――それから十年後。

 大晦日の夜、俺は実家のこたつでみかんを食べながらテレビを見ていた。

「さあ、今年の紅白歌合戦!
 大トリを務めるのは――」

 アナウンサーが一拍置く。

「――シンガーソングライター、SAKIさんです!」

 会場がどよめいた。

 黒と白の衣装。
 スポットライトの中央に立つその人は、ギターを肩にかけている。

 ――紗季だった。

 いや、正確には「紗季」だけど「紗季じゃない」存在だ。

「え、あの人って昔、超人見知りだったよね?」
 母がぼそっと言う。

「朝の『おはよう』が聞こえなかったやつな」
 俺が言う。

 テレビの向こうで、紗季はマイクを握る。

「……こんばんは」

 その声は、落ち着いていて、よく通る。
 だが俺には分かる。

(あ、今ちょっと緊張してるな)

 紗季が歌い始める。

 ――あの時のラブソングだ。

 転校する男子に向けて書いた、最初の一曲。
 今では国民的ヒットになって、誰もが口ずさめる歌。

「♪ 君がいなくなる前に
   伝えたい音がある」

 会場は静まり返り、やがて大合唱になった。

 歌い終わると、紗季は少し照れたように笑った。

「……この曲は、
 昔、とても大切な人に向けて書きました」

 その瞬間、俺のスマホが震えた。

「今、見てる?」

 表示された名前は、あの男子だった。

「あの時の歌、ここまで来たな」

 俺は短く返した。

「ああ。音量1の妹がな」

 テレビの中で、紗季は深く一礼する。

 拍手、歓声、紙吹雪。

 国民的スター。
 紅白の大トリ。

 それでも――

 放送が終わった直後、控室からビデオ通話がかかってきた。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「どうした、国民的歌手」

「……ちゃんと、見てた?」

「見てたよ」

 画面の中の紗季は、昔と同じ顔で、少しだけ小さな声で言った。

「……べ、べつに……」

 俺は笑った。

 シャイな妹はロックンローラー。
 そしてその音は、いつの間にか――
 日本中に届いていた。
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