不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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砂の翼と笑い続ける肉

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砂漠の国、アッ=ザハラ。  
灼熱の太陽が肉を焼くように照りつける黄金の砂丘で、私は毎日を這うように生きていた。  
少女盗賊見習いのライラ。  
相棒は風の小さな精霊、ザフィール。  
彼の羽音は、いつも私の耳の奥で、かすかに腐ったような甘い匂いを運んでくる。

「今日こそ大当たりだぜ、ライラ……」

「当たり前でしょ。私たち、運命の宝探しコンビなんだから……」

古いキャラバンの廃墟で、一枚の羊皮紙を見つけた。  
指先に触れた瞬間、紙の表面が、まるで皮膚のようにぬるりと動いた。  
伝説の「ミラージュの泉」の地図。  
最後の文字が、胸の奥にねじり込まれるように刻まれた。

「砂の翼を広げ、星の道を辿れ」

「よしっ……これで、砂漠の女王様になっちゃうわ……」

灼熱の砂嵐を風の盾で切り裂き、巨大砂蠍の甲殻が割れる音を聞きながら進む。  
三日目の夜、星の道が現れた瞬間、地面が私の足を優しく舐めるように沈んだ。

岩の門。  
砂のスフィンクスが、肉の裂けるような声で問いかける。

「朝四つ足、昼二つ足、夜三つ足のものは?」

「人間よ……赤ちゃんの時は手足四つ、大人になったら二本足、年取ったら杖三本……」

門が開き、オアシスの中は湿った息で満ちていた。  
泉の前に立つ少年・アミン。  
彼の瞳は、底なしの水たまりのように、私の姿を飲み込んでいた。

「願いを一つ叶えてやる。  
ただし代償として、お前が新しい守り人になるか?  
それとも泉の力で砂漠を変えるか?」

私は迷わず吐き出した。

「砂漠全体にオアシスを増やして……  
みんなが飢えなくて、旅人が安心して歩ける国にしたいの……」

泉が虹色に輝き、空に巨大な虹がかかる。  
でも、その虹は、どこか血管のように脈打っていた。  
砂漠のあちこちで泉が湧き、緑が這い上がるように広がった。  
村人の歓声は、遠くで肉が焼ける音のように響いた。

「やったー……これでみんな幸せ……  
ザフィール、次は海底の宝でも探しに行こうよ……」

アミンが手を振る。

「また会おうな、ライラ」

……その瞬間、世界が「ガシャン!」と、骨が砕ける音を立てて割れた。

そこは**無限カーニバル**。

空はピンクと紫のストライプで、血管のように脈打っている。  
地面はマシュマロのようにふわふわで、踏むたびに肉の脂がにじみ出る。  
観覧車は逆さまに回り、ゴンドラから滴るのは赤黒い汁。  
ジェットコースターのレールは、ねじれた腸のようにうねっている。  
メリーゴーランドの馬は生きていて、口から白い泡を垂らしながら「乗ってけよぉ~」と囁く。

ピエロの着ぐるみ。  
顔は笑っているのに、目が真っ黒で、底から何かが這い上がってくる。

「ようこそ、無限カーニバルへ~♪  
願いは全部叶うよ~!  
ただし楽しめなかったら、永遠にここに残る」

私は目を輝かせた。  
でも、その輝きは、どこか腐った果実のように濁っていた。

「それ、私の超得意分野なんだけど……?」

逆さ観覧車で「もっともっと面白い冒険がしたいーーー!!」と叫ぶと、  
虚空に落ち、宇宙遊園地へ。  
星のジェットコースターで銀河を駆け抜け、  
ネオンと星屑の混ざった新しいカーニバルへ。  
落ちるたび、体が軽くなり、笑いが喉から溢れ続ける。

笑うたび、頰の肉が少しずつ引きつる。  
叫ぶたび、声帯が擦り切れるような感覚。  
でも、楽しさが止まらない。  
むしろ、落ちるたびに楽しさが肉に染み込んでいく。

ザフィールが、最初は羽をバタバタさせていた。  
でもだんだん、羽が抜け落ち、肩で小さく震えるだけになる。

「……ライラ、もう……」

私は止まらなかった。

「まだまだ! 次はもっとすごいのがあるはずよ!  
見て見て、このコースター、宇宙の果てまで落ちるんだって!  
きゃはははは! 最高すぎるーーー!!」

どれだけ落ちても、どれだけ笑っても、  
楽しさが尽きない。  
体が、笑い続けるように勝手に動く。

気が付けば……。

私はふわふわの地面に座り込んでいた。  
ピンクと紫の空は変わらず、  
逆さまの観覧車は永遠に回り続けている。

手を見下ろした。

皮膚がたるみ、青白い皺が無数に刻まれている。  
髪は白く、抜け落ちた毛が肩に絡みついている。  
指が震え、関節がきしむ。  
息をするたび、肺が湿った音を立てる。

ザフィールは、私の肩で、ほとんど動かなくなっていた。  
羽は一本も残っていない。  
ただの小さな肉の塊のように、ぴくりともしない。

「……ライラ」

私はゆっくり、泉の欠片のような水溜まりを覗き込んだ。  
そこに映っていたのは、  
白髪の老婆の私。

でも、その老婆の私は、  
にっこりと、  
歯が抜け落ちた口で、  
笑い続けていた。

笑顔は、少女の頃と同じ。  
でも、その笑顔は、  
肉が勝手に引きつっているだけのように見えた。

「……あはは……  
楽しすぎて……気付かなかった……」

私は小さく笑った。

笑い声が、カーニバルの音楽に混ざって、  
喉の奥から、  
永遠に漏れ続ける。

アミンの声が、どこからか聞こえてきた。  
とても遠くから、  
でも肉の奥に直接響くように。

「願いは叶ったよ、ライラ。  
砂漠は緑に満ちて、みんな幸せに暮らしてる。  
でも……君の願いは、  
『もっともっと面白い冒険がしたい』だったよね」

私は頷いた。  
首の骨が、きしむ音を立てた。

「うん……  
だから……ここにいたんだ……」

ピエロの声が、優しく、  
でも肉を削るように響く。

「ようこそ、  
新しい永遠へ~♪  
今度は、どんな願いを叫ぶ?」

私は大声で叫んだ。

「もっともっと、  
楽しすぎる冒険がしたいーーー!!」

声は、喉が裂けたような音を立てた。  
でも、笑顔は止まらない。

観覧車が動き出し、  
ジェットコースターがレールを走り始め、  
音楽が爆音で体を包む。

白髪の私が、  
震える足で立ち上がり、  
杖のように折れた腕を振り回しながら、  
少女の頃と同じ笑顔で飛び乗った。

ザフィールは、  
肩の上で、  
最後の力を振り絞って、  
かすかに囁いた。

「……ライラ、  
ずっと……一緒に……」

「もちろんよ……  
どこまで行っても、  
私たちの冒険は……終わらないんだから……」

そして、  
白髪の肉塊は、  
永遠に笑いながら、  
新しい虚空へ落ちていった。

砂漠のどこかで、  
緑に囲まれた泉の水面が、  
静かに揺れた。

そこに映るのは、  
もう誰もいなかった。

ただ、  
遠くから、  
とても楽しそうな、  
でもどこか肉が引き裂かれるような笑い声だけが、  
風に乗って、  
永遠に響き続けていた。
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