ロイヤルブラッド

フジーニー

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第一章

第4話 イルミの願い

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 ___遡ること2年。まだ平和な日々が送られていた美里町。西日に照らされ、煌めく小川のせせらぎが心地良い、とある日。

 人口約1万人程のそこまで大きくない町だが、美しく良質な水のおかげで、食べ物も美味しく、移住者が増えている住みやすい町として有名になりつつある。

 スカイブルーを基調とした建物が並び、景観を損ねるものがあまり無く、とても美しい町並みに心が洗われるような空間だ。


『ようやく完成しましたね!大変だった分、なんだか込み上げるものがありますね、イルミさん』


『あぁ、そうだね。来月のオープンにはなんとか間に合いそうで良かったよ。ありがとうね、ヒマレ!』


 そんな会話をしているのは若い女性2人だ。片方はヒマレで、もう1人はヒマレより少しだけ歳上の様に見える、黒髪ショートヘアの綺麗な女性で、名前はイルミというようだ。


『イルミさんや町の皆の想いが沢山詰まった、素敵な子ども食堂になりますよ、絶対に』


『うん、そうだと良いな。身寄りのない子どもや、貧困で満足にごはんが食べられない子達の為に少しでも役に立てればそれだけで私は嬉しいよ。とうとうここまでこれて、協力してくれた皆には感謝だな本当に』


 2人の目の前には、木目調の綺麗な建物が建っている。一般的な一戸建て平屋程の大きさであり、子ども食堂として活用する為に建てたようである。建物を眺める2人の表情は、輝かしい未来へ向けた笑顔で溢れている。


『建築資金、バリアフリーなデザインの考案、メニュー開発、何から何まで大変でしたね、この2年間。協力してくれた皆は、イルミさんの強い気持ちや、人柄に心を動かされたんですよ。私もその1人です。今回のプロジェクトに参加させてくれて、本当に感謝しています』


 嬉しそうな表情を浮かべるヒマレは、イルミの両手を握り、上下にブンブン振り回しながら感謝を述べた。そんなヒマレに対して、イルミは少し照れくさそうに笑みを浮かべた。


『いやいや、私の人柄なんてそんな恥ずかしい。私は、この町が大好きなの。早くして両親を亡くしたから、初めは寂しい思いをしてきたけど、町の皆が優しく支えてくれたから、ここまで生きてこられた。今度は私が、支えていきたいのよ。今はまだ手の届くところでしか、幸せを分ける事は出来ないけど、いずれは世界中の子どもを助けたいって本気で思ってるんだ』


『イルミさん、格好良すぎます。世界中の子どもを助けたいっていうその願い、必ず叶えましょう。絶対に出来ます。思いつきですが、私の働いてるワイン工場のブドウジュースとか、レーズンパンとか出してくれたら嬉しいかもです!』


『それ良いね!その時は是非ともよろしく頼みますね、ヒマレさん!』


『はい、任せてください!   そう言えば、食堂の名前は考えたんですか?私聞いてないかもです』


『名前ねー、内緒です!今日の夜に、知り合いの大工に看板着けてもらうんだ!明日の朝には答えが分かるかもね』


『えー、教えてくれても良いじゃないですかー!でも、明日見た時に感動したいから聞かない方が良いか。それじゃあ、私はボチボチ帰りますね、夜勤明けでちょっと眠いので家でバタンキューします』


『疲れてるのにごめんね、ありがとう。今日はゆっくり寝て、また明日、看板を見に来てくださいね!』


『いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます!じゃあ、また明日来ますね。それでは!』


『うん、気を付けて帰ってね!』


 イルミ、ヒマレ、町の住人達の願いが込められた子ども食堂。夢と希望を乗せた名前を掲げたら遂に完成へ。

 アグネロと話していた時の悲しげな表情からは想像のつかない程、素敵な笑顔のヒマレ。その様子からは、イルミへの感謝、美里町への愛、町の住人への信頼が見て取れ、家へと向かう後ろ姿が、幸せを物語っている。

 子ども食堂の事で頭がいっぱいな様子のヒマレは、ルンルン気分で軽快に歩みを進め、30分程で自宅のアパートへ到着すると、靴を脱いでベッドへ直行し、背中から倒れ込んだ。

『疲れたー!眠いー!だけど興奮して眠れないー!名前なんだろな、なんだろな!楽しみだな!』

 足をバタバタさせながら、興奮する姿はまるで、遠足の前日の少女の様で、とても可愛らしく微笑ましい光景である。

 部屋の時計の針が午後5時を差した頃、眠れないと豪語していたヒマレは、夢の世界へと誘われていった。時計がもう一周した時、事件が起きることなどつゆ知らずに。

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