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118話 結婚、そして……

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 僕は強い日差しによって目を覚ます。
 ベッドからおりて背伸びをし、事前に用意されていた服を着る。

 野外で結婚式をするのであれば十分すぎるほどのいい天候だろう。
 むしろ、これだともろに日光が当たるため暑いような気がしなくもないが。

「シュン様、起きられたのですね。ダイニングにて朝食を用意しております」

 メイドは深々と頭を下げる。
 僕は「ありがとう」と言ってダイニングの方に向かうことにした。

「あら、シュンおはよう」

 母親がこちらを見て言ってくる。
 その隣には朝食のスープを飲んでいる父親もいたが、トリオスがいない。

「兄様は?」

「トリオスなら、もう結婚式場に行ったわよ。新郎新婦は事前の用意が忙しいのよ」

 そういう事ならいいのだが……。
 トリオスと姫レイシェルが結婚式をあげるという大ニュースは三日前に発表された。

 早くから情報を出してしまうと式の日程がずれてしまうこともあって大変らしい。
 なお、今回は段取りはスムーズに行ったようで予定通りのようだ。

「シュン。朝食が終わったら私の部屋に来なさい」

 無口な父親が僕に向かって言った。
 いつもは父親が僕に言うのは説教くらいのものである。

 しかし、何も今日するような話はないよな……?
 僕はさっさと朝食を食べ終えると、父親の部屋へ向かった。

 僕は少し深呼吸をして、ドアを三回ノックした。

「シュンか。入れ」

 これまで父親と一対一でまともに話をしたことがあっただろうか。
 僕が転生してからはおろか、転生する前の記憶を探ってもほとんどないような気がするのだ。

「失礼します」

 父親の部屋を見るのも、初めてかもしれない。
 なんというか、大きい会社の社長や学校の校長がいる部屋のような印象を受ける。
 僕は座るように指示をされたため大人しく座った。

「お前は、昔から手がかかる子だったな」

 開口一番にそれを言われ、納得がいかないのを感じる。
 別に出来が悪かっただけでできるだけ迷惑をかけないようにしていたと、転生前のシュンだったら言っていただろうか。

「トリオスがいたから、色々なこと自由に出来ただろ?でも、そのトリオスは巣立ちをするんだ」

 怒られているのだろうか?
 だとするならば、いつもとはかなり感じが違う。
 ダメなところをダメと直接指摘するような父親だ、回りくどいことは言わない。

「父さんには、弟がいた。あいつは、お前と同じように手のかかる弟だった」

 それが説教でないと思うのにはあまり時間はかからなかった。

「あいつは、世界中を旅することを夢にしていたんだ。だから、貴族という枠組みにはまらないあいつを父さんは少しうらやましいとでも思ったんだろうな」

 結局、父親は弟に説得を行ってなんとか上流貴族にとどまらせようとした。
 冷徹な父親の感情がこもる姿を僕は初めて見た。

「あいつは、貴族として街を訪問している最中に暗殺された。あいつの事を思っての行動が結果としてあいつを殺してしまった」

 泣くことはない。
 ただ、いつもの言葉よりも重くのしかかってくることは分かる。

「シュンが本当に上流貴族になりたくないのなら、来年伝えようと思っていたんだ。だが、トリオスの婚約の事もあってシュンはそういうわけにもいかなくなってしまった」

 僕はやっと父が思っていることを知った。
 父は冷徹なだけの人間ではまったくなかったのだ。
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