迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~

あおい彗星(仮)

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第6夜 夢みる羊

第12話 測定終わり!

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 瞳を閉じた緋鞠の全身を、霊力が駆け巡る。両手両足の末端まで温かい力が流れ込み、身体に重力を感じた。

『緋鞠! 後ろだ!』

 かっと瞳を開けて、背後に回し蹴りを放つ。
 足の裏に重い金属を感じる。いつもの緋鞠なら力負けするだろうが、子供の拳のように軽く、ほんの少し力を入れただけで、軽いボールのように飛んでいった。

 地面に足を着くと、身体がいつもよりも軽い。
 違和感があるとすれば、頭とお尻だ。ぺたぺたと触ると、頭上には三角の耳、尻には尻尾が付いている。

『これ、どうなってるんだ!?』

 頭に響くのは銀狼の声。なるほど、これが憑依。

 いつもより軽い身体。まるで、銀狼がすぐ隣にいるかのような温かさ。さきほどの不安はすっかり消えていた。
 向かって来る弾丸を次々と蹴り飛ばしながら、声をあげる。

「憑依って楽しー!!」
『あほう! 楽しんでる場合か! もう時間がないぞ!!』
「あ、そうだった」

 グラウンドに着地し、気絶していた少女をふわりと抱き上げる。
 新たな弾丸が襲って来る前に、一気にスタート地点まで駆け抜ける──!

「憑依術・疾風しっぷう

 風の刻印が浮かび上がり、小さな竜巻を生み出された。
 たんっと地面を蹴ると、景色が後ろに流れる。
 風と一体になったような感覚が気持ちいい。思念で銀狼に話しかける。

『銀狼!』
『なんだ?』
『銀狼が走るのが楽しいって言ってた意味が、わかった気がする!』

 風の中に、小さな霊力をいくつも感じる。可愛らしい小さな笑い声は、きっと風の精だろう。
    銀狼は楽しげな緋鞠を見て、焦りで強張っていた表情を緩めた。背に乗せて走ることは合っても、こんな風に共に駆けることは初めてではある。
 
(……少しくらい、いいか)

    とはいっても、本当に余裕はない。銀狼は周りに注意しながら、こっそり術の調整などをしておく。そうして時計を見れば、時計の針がカチリと進んだ。

『あと一分で測定が終わるぞ』
『了解! もうひと踏ん張り!』

    最後は思いっきり踏み込んでゴールしちゃお!

「ん?」

 視線を地面に向けると、緑色の矢印が浮かんでいた。踏んでおくれといわんばかりに光る矢印。緋鞠は好奇心からそこに降り立つ。

「わぁ! こんなのあったっけぇぇぇぇぇ!!!!??」

 矢印がぼんっと破裂し、蹴られたボールのように空中に投げ出された。勢いが強く、方向転換もできない。
 少女だけは落とさないように、緋鞠はがっちりと抱きしめる。

     そのころ、囲いの外では──。

 (どうしましょう。どうしましょう!)

 愛良は日傘を握りしめながら、教師と生徒の一触即発の状態におろおろしていた。

 ──怒らせるつもりはなかったのに。
 ──傷つけるつもりはなかったのに。

 やっぱり星の導きのとおりにすればよかったの?
 それとも私じゃダメだった?

 小石程度しかなかった教師としての自信が、さらに小さくなっていく。
 いつもそうだ。占星術で占ったとおりにすれば上手くいき、自身で考えて決めたものは失敗する。

 愛良の頭の中が真っ白になり、視界がうっすらと歪んできた。

 ──ごめんね。上手くできなくて、ごめ……。

 そのとき、遠くから叫び声が聞こえた。
 愛良のネガティブ思考を掻き消すほどの声。
 顔を空へと向ければ、流れ星のようにこちらに向かって落ちてくる女生徒たちが見えた。

「えええええっ!!??」

 このままでは、地面にぶつかってしまう!!

 日傘を空へと向け、霊力を流し込む。傘に描かれた羊模様が淡く光り輝いたことを確認すると、手元のボタンを押した。

「下弦の一・羊さんの大行進ゴーゴーひつじさん!」

 モフン☆ 

 効果音と共に、羊たちが傘の先からあふれてくる。
 羊たちはめえめえ言いながら、天まで届きそうな高い壁を形成した。落ちてきた女生徒たちが羊の壁にぼふんっと突っ込んだ。

 ──間に合った!!

 ほっとした愛良は急いで羊の壁に向かい、羊の中から女生徒を探す。

「貴女たち、無事ですか!?」

 愛良のすぐそばの羊毛の中から、にょきっと手が生えた。そして、疲れきった表情の女生徒が顔を出す。

「ふああ、助かったあ……」

 次に狼の鼻先が出て来た。

『……さすがに死ぬかと思ったぞ』

 もう一人いた女生徒も無事なようだった。

「ここどこですぅうう!?」
「よ、よかったぁぁぁ!」

 愛良はふたりと一匹を抱きしめながら、子どものようにわーんわーんと声をあげる愛良にふたりは驚いてなにも言えなかった。

 遠くで授業終了のチャイムが聞こえて、緋鞠ははっとした。

「あっ、先生。あの、これって合格ですか!?」
「もともと不合格なんてありませぇんよぉ!!」
「えぇっ!?」
「どっから出てきたんですかそれぇ! 私、ただ模擬試験をするのが心配で、ちょーっと難しくしただけですよぅ! でもごめんねぇ……!!」
「えっ、じゃあ、私が勝手に勘違いしたの? いや、でも普通カウントダウンされたら、勘違いもする、よ、ね………?」

 ぐずぐず鼻をすする愛良の声を聴きながら、緋鞠は意識を失った。
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