【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷 むぎ

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第二十八話 その仮面が落ちるとき

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王都全体を巻き込んだ拍手喝采の余韻が、大聖堂の空気をまだ震わせていた。

参列者が見守る中、リシェルは優雅に前へ歩み出る。

滅魔砲の残光を背に受け、まっすぐクラウス――いいえ、彼を見据えて。

「……あなたが、これを“撃つ”と聞いたときは、正気かと疑いましたわ」

吐息まじりに微笑み、リシェルは背後の巨砲へ視線を流す。

「これは、わたくしの家に伝わる滅魔砲シリーズ――その七式滅魔砲《クレイモア》。
 その鍵となれるのはクレイモアの血のみ。
 ……そして、砲を動かすには“信頼で結ばれた伴(とも)”が要るのです」

再び彼に向き直り、そっと微笑む。

「……わたくしにとって、その“伴”が――あなたでした」

場がわずかにざわめく。

「さてクラウス。……今が“その時”ではありませんの?」

リシェルの囁きに、アメリアが静かに前へ出る。

「ふふ。やっと種明かしね」

彼女が視線で合図すると、銀仮面の男は小さく頷いた。

「クレイモア家の執事クラウス・フォン・ノイバウンシュタインは偽名。
 本名は――エリック・フォン・アウグスト。この国の第一王子よ」

空気がわずかに揺れ、誰かが祈りを呑み込む気配が走る。

「……なっ……!」

最初に声を漏らしたのはリシェルだった。
驚きに目を見開き、一歩、後ずさる。
肩が震え、言葉が続かない。

「嘘……お、王子……?」

口元を押さえて呆然と呟く声は、先ほどまでの優雅で凛とした令嬢のものではなく、  
五年を共に過ごしてきた“執事”に置き去りにされた、
ひとりの少女のような――そんな色を宿していた。

どよめきが広がり、王アウグストの目が、大きく見開かれた。

「エリック……生きていたのか!?」

セドリックはさらに見開く。

「え、兄上!? ぼ、僕、知らされてないよ!?」

アメリアは肩をすくめる。

「“王太女”は口が堅いの」

彼――エリックの手が、そっと自身の仮面に触れる。
仮面の留め具が、かすかに鳴った。

外す前に、一瞬だけ――口元を両手で覆い瞳を見開いたままのリシェルの顔が銀面に映る。

指が一瞬だけ止まり、彼は俯いて――先に銀の仮面を外した。

次いで、黒髪のかつらに指をかけ――

さらり、と。

そして顔を上げた瞬間――
差し込む陽光が、その金の髪に反射してきらめいた。
会場の誰もが、その輝きに目を奪われた。

端整で、凛とした面差し。
仮面の下にあったのは、第一王子エリック・フォン・アウグストの顔。
かつて囁かれた“醜い傷”など――どこにもない。

「……父上。お久しぶりです」

穏やかな声色のまま、しかしその瞳には誰より強い意志が宿っていた。

王は椅子の肘掛けを探り――空の小箱を握りしめる。

「ピ、ピーナッツが……ない……」

アメリアが小皿を差し出す。

「減塩で一粒だけ」

――ポリッ。静かな音とともに、聖堂はようやく息を吹き返した。

そして、一言。

「お兄様、おかえりなさいませ」
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