水神様、いきなり巫女って言われても、恋もあやかしも難しすぎます! 〜こちら、帝都第一高校文芸部 あやかし相談室〜

猫屋敷むぎ

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序章 ユイ編 第二章【完結済】

第十三話 旦那様の巫女

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(あれ? 生きてる……?)

落ちる、と思った。
そう、滝つぼに落ちて……死……。

その“死”という言葉を思い浮かべた瞬間、ゾッとした。

服も濡れてない。
確かに死ぬ、と思った。
そして、最後にあの人にもう一度だけ会いたいと思って――次の瞬間。

さっきまで滝の前にいたはずの彼が、
いつの間にか、ここで私を抱きかかえている。

まるで、最初からそこにいたように。
まるで――風よりも早く、駆け寄ったように。

抱きかかえられた私は、呆然としたまま、彼を見上げた。

「なっ……なに、い、いつ、そこに……!」

混乱する私をしっかりと抱きとめながら、
彼はやさしく微笑んで私を見つめていた。

「ねえ、君は誰? そして……僕は誰に見える?」

「誰って……
 わたしはユイで……あなたは旦那様ですけど……?」

(何言ってるの? あなた……またおかしなことを……)

そして、彼はその水色の瞳でじっと私の目を見つめた。

「よかった……。どうやら、君の記憶はそのままみたいだ」

彼はなぜか、感動したように目を細め、何度も頷いた。

「……?」

「君の僕への想いが……”記憶”の呪縛を断ち切ったのかもしれない」

「~~~!」

だ、旦那様? こんな時に何言ってるの?

私はなんだか真っ赤になって俯いてしまった。

――そしてその瞬間。
滝の水しぶきがふわりと舞い上がり、
ふたりの頭上に、淡い虹が弧を描いた。

空気がひときわ澄んだ気がした。

静かな水音と、虹の揺らめきの中で、
私は、少しだけ気圧されて、言葉を失った。

「……あの時と、一緒だね」

彼が、懐かしむような声音でつぶやいた。

水しぶきに包まれた虹の下。
私を抱えたまま、優しく微笑むその表情には、
どこか切なさがにじんでいた。

「……え?」

私は思わず見上げた。

(今……なんて?)

あの時、と言った。

でも――

(わたし、ここに彼と来るのは……初めてのはずなのに)

虹。
滝の音。
濡れた手を握る温もり。

初めてのはずなのに、
なぜかその情景が、
どこか懐かしくて――愛おしかった。

(まさか……)

一瞬、私の胸に、何かがよぎる。

――前にも、こうして……この人と……?

(……って、違う違う!)

(こんなに胸が騒ぐのは……死にかけたせい。絶対に、そうに決まってる!)

頭をぶんぶんと振る。

(今はそういう雰囲気に流される場合じゃないの!)

「それで……“メグリ”って……誰よ」

震えるような声で、勇気を振り絞って私は問いかけた。

彼は一瞬、ぽかんとした顔をして――

「……メグリは巡りさ。”水の巡り”だよ」

と、まるで子どもに説明するような口調で答えた。

それがまた、なんだかズルい。

私は彼の腕の中で唇をとがらせて、ふてくされたようにそっぽを向いた。

私は怒ってるんだからね……!

でも、なぜか涙が目に溢れてくる。

「……私のこと、もう飽きたの?」

彼は一拍置いてから、ようやく理解が追いついたように苦笑した。

「ああ、そういうことか」

そして、わたしの涙をそっと指先でぬぐうと、少しだけ照れたように笑って言った。

「いいや。僕の“巫女様”は、ユイだけだよ」

(巫女様……?)

そう思った次の瞬間――
彼は、私の腰を引き寄せ、額を重ねるように、優しく口づけた。

滝の水音と虹がふたりを包む中で、
私は小さくつぶやいた。

「……本当?」

「もちろん。今も、過去も、未来もずっと」

「……ずるい」

ふたりは、しばらくそうしていた。

やがて手をつなぎ、滝をあとにして、
静かな山道をゆっくりと下っていく。

木漏れ日が差す中で、ぽつりと聞いてみた。

「……もしかして、さっき滝で呟いてたの……わざとじゃないですよね?」

彼はくすっと笑って、
顔を向けずに、ひとことだけ答えた。

「ふふ、さあね」

山を下るふたりの背中を、
木々の隙間から差し込む光が静かに照らしていた。

手をつなぐその指先には、まだ――
ほんのりと、水の気配が残っていた。

私は、彼の手をきゅっと握った。
滝の水音と虹の下――
この幸せが、ずっと続きますように。

顔を見合わせ、そっと微笑む。

彼がふいに私を、もう一度、やさしく抱きしめた。

そして――言葉を落とす。

「愛しい人。生まれ変わっても、僕は何度だって、君に恋するよ」

小さくそう囁くと、彼は震える私の唇に、再びそっと唇を重ねた。

永遠のような時間が流れ――

なぜか私は、思わず――

「……私も、きっとまた……あなたに恋するわ」

と震える唇で呟いた。

なんで、そう言ったのかはよくわからない。
だって、生まれ変わるなんて――ありえないから。

(でも、本当に永遠にこの人とこうしていられたら――
 それは、とっても素敵なことかも)

そして、私は彼の体温を感じながら目を閉じる。

虹が空に溶けていく。
まるで、永遠に続くこの恋の輪廻を――
そっと、見守るように。
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