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4 妖精の宝物庫

アルスター 30

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「な、何これ? 今からここで集会でもやるの?」
 ただただ、凄まじい数のエルフだ。幸い、王城前で広かったので、身動きが出来ないほど揉みくちゃにされることはなかった。
「これが兄さんが言っていた騒ぎみたいね。やっぱり、人望はあるじゃない」
 自分は嫌われていると本人は言っていたけど、これだけの同胞を動かせるなんて凄いことだ。魔力はなくても、彼にも王としての才能があるのだろう。
「どうする? そろそろ準備しておいた方がいいと思うんだけど」
「同感だわ。せっかく作ってくれたこのチャンスを無駄にはできないもの」
 メリルの言う通りだ。このチャンスをなんとしてでもものにしなければ……。
「とりあえず、王城の入り口付近まで移動しておく?」
「そうね。今は見張りもこの群衆に目が行っていることだし」
「分かった」
 メリルの許可も出たので、群衆をかき分けながら、何とか前に進んでいると、急に王城の入り口付近から声が響いてきた。
「ストローム王政、反対! トリアーナ女王が退位した理由を説明しろ!」
 この声に会わせて、群衆が示し合わせたように、声を揃えて復唱している。
 小さな村では縁のなかったことだが、噂には聞いたことがある。
「これがデモって奴か……」
 貴族が無茶な搾取を行っている時に、民衆が束になって抗議を行うという話は聞いたことがある。これはそれなのだろう。
「どうやら、現妖精王は民からの信頼を勝ち取れていないみたいね。まあ、妖精女王の権限を譲渡されていない以上、民が王とは認めることはないでしょうけど」
 そう言うメリルの声音は、とても嬉しそうに聞こえた。
「よかったね。信頼されている王で」
「べ、別に嬉しくないわよ!」
 珍しく、メリルが動揺していた。
「ほ、ほら! ここにいるエルフは兄さんが集めたエルフたちだから、トリアーナ派のエルフたちなのよ。私が退位したなら兄さんにこそ相応しいとか思っているんじゃない?」
 顔は見えないが、誉められて動揺してあたふたしているメリルというのも可愛いものだ。
「な、なによその顔は!」
「別にぃ……」
 妖精女王の意外な一面を見れて、なんだか優越感を得た気分だ。
「腑抜けた顔して……潜入のこと、分かっているんでしょうね!」
「大丈夫だよ」
 城の入り口も見えてきた。
 後は、このデモが過激になって見張りが離れた瞬間に侵入出来れば成功だ。見張りが離れなくても、このデモが暴動になれば、その暴動に便乗して中に入り込めて楽なのだが、ここからデモはどうなるのだろうか。
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