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5 聖地、独立国家

アルスター 48

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 少し惜しみながらも、この巨大ロボットなるものの股の間を歩いて、奥へと進む。
 そこには、渓谷の壁と一体化した城のようなものが埋め込まれていた。
「すごいプライバシーのない建物ね」
 メリルがそう言うのも仕方がない。この建物、目の前の一階は全面ガラスで、中が透けて丸見えだった。これでは私生活が筒抜けだ。
「まあ、ここは生活スペースじゃないからな。オフィス……えっと、まあ、仕事場だ」
 確かに、中を見てみると、たくさんの人が忙しなく動いている。何をしているのかは分からないが、ドワーフ王が言っているように仕事をしているのだろう。
 そんな中、一人の背の小さな人、おそらくドワーフが僕らのことに気づいたようだ。
 こちらに近づいて来たのだが、しかし、そこはガラス。と思ったら、ガラスが自動で左右へとスライドし、そこから出てきた。妖精女王もびっくりな魔法のようだ。
「おう、久しいな友よ」
「何が友だ。王になってから酒も一緒に飲まなくなったくせに」
 どうやら彼がドワーフ王が言っていた古くからの馴染みのようだ。ただ、相手はドワーフ王のことを友だとは思いたくないらしい。
「それで、ドルミロよ。死んだと発表されたお前がなぜ生きている」
「俺は死んだことにされとるのか?」
「正式発表だ。しかも、エルフに殺されたってな。ただ、今でもドワルゴン派は王の死を否定しているって話だ。まあ、死体がないから信憑性はないからな。だから、お前、早く帰った方がいいぞ」
「うむ……今帰るのは少々危険だからな……」
 メリルは石にされたし、僕は妖精の宝物庫で敵からの襲撃を受けている。ここで帰っても暗殺される未来しか見えない。しかも、この話だと、暗殺者はエルフに仕立て上げられる可能性が高い。
「なるほど、そう言うことじゃったか」
 この話で人類王が何かに気づいたようだ。
「儂等は、あのマーリンとかいう奴にドワーフが人類の領土を奪い取ろうとしていると吹き込んできた」
「な、なんだそりゃ!」
「おそらく、それが敵の狙いなんじゃろう。人類はドワーフを、ドワーフはエルフを、そしてエルフは人類を敵にする算段なんじゃろ。エルフは妖精女王に逃げられて予定していた妖精女王の権限の譲渡に失敗した。それでも、他の手段はいくらでもあるはずじゃ。人類とドワーフの方は成功しているんじゃからな」
「だが、そんなドワーフが人類の領土を奪うなんて話は……」
 どうやら、ドワーフ王に身に覚えはないらしい。
「分かっておる。儂も調べたが、そんなことはなかった。じゃが、それを言った途端、クーデターが起こり、儂は城の地下に幽閉された。無論、鍵があるので逃げたがな」
「その逃げた先で盗賊に襲われたなんて、無様な話しね」
「まあ、そのおかげでこの3人が揃ったんじゃから。三王が平和協定を結んでおったら、三国の三つ巴戦争は回避できるからの」
 あの牢屋でこの3人が出会ったのは、ほんとうに偶然だった。僕以外、誰か一人でも欠けていたら、この世界はベスにぃたちの勢力によって混沌を迎えていたかもしれない。
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