オートマーズ

小森 輝

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1章 運命の出会い……?

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 それは、ある日の放課後の事です。
「うぅ……。暇だなぁ……」
 そう呟きながら、私は机の上でだらけていました。頬に伝わる机の冷たさが、私の熱意という熱意を奪っていくようです。
「暇だって言うんなら、部活にでも入ればいいのに。何でもいいから入ってみたらいいじゃない」
 そんな無責任なことを言うのは、高校生になって初めてできた私の友達です。
「部活って言われてもなぁ……。私は、運動神経は悪いし、絵心もないし、オタマジャクシも読めないし、墨汁があったら遊んじゃう。どうせ私は、長所の一つもないつまらない女ですよーだ」
 そう口では言っているのですが、本心はそうではありません。きっと、親友の久遠(くおん)が私の長所の一つぐらいすぐに言ってくれて励ましてくれると見込んでの言葉です。
「長所がない人なんていないでしょ?」
「じゃあ、私の長所、言ってみてよ」
「うぅーん……いつもだらだらしている所……とか?」
「……それ、長所になってないんじゃない?」
「じゃあ……先生にバレずに居眠りする事!」
「今日、先生にバレて叱られてたの見てなかったの?」
「えっと……他には……」
 励ましてくれるだなんて期待したのが間違いでした。
 久遠と私との付き合いはまだ1ヶ月ほどと短いのですが、大事なのは時間ではありません。おそらく、私の考えなんて、久遠には手に取るように分かってしまうのでしょう。まるで、掌の上で踊らされている気分です。でも、それを悪い気には思っていない私がいるのでした。
「ないならいいよ。無理に出さなくても」
「あぁ! あったあった一つだけ」
 やっと思いついたという様子なのですが、どうせまたからかってくるに決まっています。過度な期待はしないで聞いておきましょう。
「何?」
「それはねぇ……。運がいいところ!」
「……はぁ」
 もう久遠のボケにコメントするのも疲れてしまいました。
「ほら、高校入試の時、鉛筆転がしてたでしょ?」
「それは……そうだけど……。でも、四択問題とかなら、とりあえずどれか選ばないといけないでしょ? だから、仕方なく……」
「いやぁ、あれは傑作だったよ。試験中の静かな教室に響きわたる『カランコロン』っていう鉛筆が転がる音ね! 笑いを堪えるので精一杯だったよ!」
「……堪えきれずに笑い声をあげて教室から摘み出されたらよかったのに……」
「まあでも、運だとしてもこの高校に入学したんならちゃんと勉強はしないとね。部活もやってないのに赤点ぎりぎりじゃ進路に響くよ」
「…………いいよ。別にそんな先のこと、今考えなくたって……」
 私が入学した桜井高校は進学校であり、偏差値も中の上ほどです。ただ、残念ながら、私の真の偏差値は下の中ほど。鉛筆を転がして運良く高校には受かったものの、私には身の丈に合わない学校でした。
 おかげで、この前の中間テストなんて、全教科赤点ギリギリの40点代。担任の先生には、あまりの点数の低さに呼び出されてしまったほどです。
 運がいいのはいいことなのですが、程々にしなければ自分の首を絞めてしまうと痛感しています。
「それじゃあ、私は部活に行くからね。ヒーローなんだから、ちゃんと勉強するんだよ」
 ヒーローというのは、久遠が勝手に付けた私のあだ名です。もちろん、私にヒーローっぽさは微塵もありません。中学時代に悪党からヒロインを助けたなんて逸話もありません。
 だから、私は言うのです。
「ヒーローじゃないもん。私はただの一般市民Aなのですよ」
 当然のことなのですが、私はヒーローでも物語の主人公でもありません。ただの運が空回りして苦労している女子高生なのです。
「まあ、一般市民Aでもいいけどさ、ちゃんと勉強はしなよ? 赤点とって留年して、友達が後輩にいるなんて、私、嫌だからね!」
「そんなの私だって嫌だよ!」
「だったら、ちゃんと勉強しなさいよ。それじゃあね、ヒーロー!」
「えぇ……もう少し話そ……行っちゃった」
 久遠は授業の疲れなんて感じられないほど意気揚々と教室を出て行きました。残ったのは、私一人です。クラスのみんなも誰も残っていません。
「……帰るか」
 教室に一人ぽつんと座っているのも寂しいので、仕方なく私は帰ることにしました。
 教科書やノートで石のブロックのようになっている鞄を私が肩に掛けると、教室は最後の生徒を見送りました。
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