オートマーズ

小森 輝

文字の大きさ
23 / 72
4章 赤い大地

23

しおりを挟む
 外の景色は、やっぱり変わっていません。一面に赤い砂漠が広がっているばかりです。
「緋色さん、ここがどこだか分かりますか?」
 そう聞かれたので、思っていることを素直に答えます。
「未来の、地球、ですか?」
「残念ながら、違います。まだ人類はタイムマシンを作る技術を持ち合わせていませんから」
 笑顔で即答されてしまいました。
「あちらの空をみてください」
「空……ですか?」
 指で示された方を見ると、青空が広がっていました。雲一つない快晴です。
「今日は天気が良くてラッキーでしたね。砂嵐で見えないことも多いですから」
 何か幸運なものが見えているらしいのですが、私には何も見えません。
 そんな私を気遣ってか、大葉部長が優しく教えてくれました。
「あそこにある太陽ですよ」
「太陽……」
 太陽なんていつでも見れると言いたいのですが、上機嫌な大葉部長の姿を見ると、そんな言葉は引っ込んでしまいます。
「あの太陽、何か違和感は感じませんか?」
「違和感、ですか? そう言えば、なんか……元気がないような……?」
「元気がない、ですか。それは言い得て妙ですね」
 それは誉められているのかバカにされているのかよく分かりませんが、相変わらず嬉しそうなので、もうバカにされていてもいい気がします。
「あぁ……。こんなに天気がいいと日食を期待してしまいますね。来る前にファボスの位置を確認しておくんでした」
 大葉部長の美貌の前では、残念そうな顔も美しく、絵になるようだと見とれていたのですが、すぐにその表情は変わりました。
「ヒントだけのつもりが、つい言い過ぎちゃいましたね。フォボスと言えば、ここがどこか分かりますよね?」
 分かって当然というような顔をされても困ります。ですが、嬉しそうな大葉部長を見ていると口を挟むこともできません。
「そう! ここは火星なんです!」
 思わずポカンと口を開けてしまいましたが、すぐにその口は疑問を吐き出しました。
「それって、本物の火星じゃなくて、仮想空間の……」
 そこで城山先生の言葉を思い出しました。
「ゲームみたいなものですよね? 先生、経験あるかって聞いていましたし……」
 しかし、大葉部長は首を横に振ります。
「いいえ。ここは、仮想空間なんかではありません。現実の、今まさに、地球の外側の軌道で公転している惑星、火星の上に立っているんですよ」
「火星に……現実に……?」
 大葉部長は嘘をついて私をからかっているわけではないようです。
「い、いや、でも、部長、テレポートは無理だって言ってたじゃないですか!」
 大葉部長自身がテレポートは否定していましたし、部室で寝ている間にロケットに乗せられて火星に来たというのは、流石に見学に来た生徒に対してすることではありません。
 しかし、どうやらテレポートでも知らぬ間にロケットで打ち上げでもない方法がどうやらあるようです。
「そのための、この体です!」
 大葉部長は胸を張ってそう言います。しかし、私にはさっぱり分かりません。大葉部長の体に秘密があるのでしょうか。大葉部長の体……胸を張っているせいか、大きく見えます。これに彦君は落とされたのでしょうか。片や私は……。いえ、まだ成長期です。これから大きくなるはずです。きっと……。
 そんな期待を込めて見つめていたせいでしょうか、胸を張っていた大葉部長は恥ずかしそうに身じろぎしました。
「体と言っても、私の体じゃないですよ?」
「…………?」
「緋色さんはもう歩いたりしているから体の違和感には気づいていますよね?」
「違和感……あっ! はい! あります!」
 確かに、地球よりも体が軽くて動きやすい感じはします。プラスな変化ですが、違和感と言っても間違いはないでしょう。
「その違和感は火星だからではありません。この体が本物の肉体ではなく、金属やプラスチックなどでできたロボットの体だからです」
「ロ、ロボット……」
 今のこの体がロボットだったなんて、想像もしていませんでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...