オートマーズ

小森 輝

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4章 赤い大地

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「でもでも、ロボットにしてはリアルすぎじゃないですか? 顔もそうですけど、服とか」
「あぁ、これはそう見えているだけ。実際は服も着てないし、顔も肌の色も緋色さんの体と一緒なんですよ」
「そうなんですね……」
 丁寧に説明してくれますが、全く実感が湧きません。
「まあ、実際に見せた方が早いですかね。ビックリするかもしれないけど、ごめんね」
 そう言って、大葉部長は私の頬から手を這わせ、首筋を探ってきます。
「ちょ……ぶ、部長!」
 なんという百合展開。しかし、これはこれでかなりトキメキます。大葉部長の指が優しく首筋を撫でてきてくすぐったい気持ちがしますが、この感覚もロボットだなんて信じられません。
「確か、この辺に……あった!」
 カチッというスイッチの音がすると、大葉部長の姿が一瞬で変わりました。美しかった大葉部長の姿は、今や傷や錆で汚れている薄汚い人型のロボットへと変わっています。
「視覚補正を切ったので、私がただのロボットに見えているはずです。これが今の私たちの本当の姿なんですよ」
 大葉部長の声にあわせてロボットも動きます。いえ、実際に大葉部長が動かしているのでしょう。信じられませんが、これが現実なのでしょう。
「私たちはこのロボット、火星探査用人型ロボット、オートマーズへと意識を移すことによって、安全に火星を探査する事ができるんです」
 もう、人がロケットに乗って酸素のない危険な宇宙へと旅立つ時代は終わったのです。どれだけ失敗しても換えがある体、ロボットの体であれば火星であっても宇宙服なしで探査できる。その使命を火星探査部は引き受けているのです。
「詳しいことは地球に帰ってから説明しましょうか。首の後ろのところに視覚補正のスイッチがあるから覚えておいてくださいね」
「分かりました」
 自分でも首の後ろの方を探ってみると、確かにニキビのような突起物があります。これがスイッチなのでしょうが、乙女としては、例え自分の体でなくても複雑な気持ちになります。
 そんな気持ちはひとまず後にして、自分でもスイッチを押してみると、目の前のロボットは大葉部長の姿へと変わりました。
「おぉ……」
 すごい機能なのですが、こんなのが一体なんの役に立つのでしょうか。私には不要な機能にしか思えません。こんな機能をつけるなら、いっそロボットっぽく手が伸びるとかにしてほしかったです。いや、もしかしたら……。
「他にも何かあるんですか? 例えば、ロケットパンチができるとか!」
「いえ、できませんよ」
 間違いなく苦笑いです。
「他の機能はいろいろあるんですけど……。例えば、背中がソーラーパネルになっていて太陽光発電ができることとかですかね」
「なるほど、その発電で動いているんですね!」
「あくまで緊急時の応急手段というのが本来の使い方です。普段は基地からの充電がメインです」
「基地……というのは、起きたときの?」
「はい。私たちの基地、桜井第一基地です」
「桜井ってことは、もしかして、桜井高校の基地ってことですか?」
「その通りです。城山先生が桜井高校で1年生だったときに先輩と一緒に作ったみたいですよ」
「城山先生が……。ってことは、先生OBだったんですね」
「OGですよ。Bだったらboyで男になっちゃいますから」
「そうでした」
 また一つ、私はおバカを晒してしまったようです。
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