オートマーズ

小森 輝

文字の大きさ
38 / 72
7章 牙をむく火星の大地

38

しおりを挟む
 目覚めると、そこは部室の天井ではありませんでした。
「ここは……そっか。火星に来たんだった」
 一瞬、夢かと混乱しましたが、すぐに現実だったことを思い出しました。
 周りを見回すと、見覚えがあるものがあります。一昨日に来た桜井高校の火星基地で間違いないでしょう。しかし、私の他に部員の姿はありません。
「みんなまだか……」
 私だけ置き去りにされているという可能性はないでしょう。私が寝ていた隣には、素体のままの人型ロボットが3体寝ています。このロボットたちは大葉部長と彦君、そして、マリさんのものなのでしょう。それがまだ寝ているということは、まだ火星に来ていないと言うことです。
「やっぱり、私が一番乗りなのか……」
 一昨日に初めてきたときも一番乗りだったので、これは偶然の類ではないのでしょう。城山先生が推察していたように、私とオートマーズとの親和性が高いのでしょう。それはいいことなのですが、火星に来てすぐに一人だけというのは、寂しくて不安なものがあります。
「さて、どうしようかな……」
 一人とはいえ、せっかく火星に来たのです。時間は無駄にはしない方がいいでしょう。しかし、私一人でやれることは限られます。
「一人で外には行かない方がいいだろうし……」
 昨日の説明で一人で外に出るなとは言われていませんが、初めて火星に来たときの大葉部長の心配顔を見てしまえば、誰だって一人で外に出るのが危険なことぐらい分かります。
 外はだめとなれば、必然的にやれることは室内に限られます。
「でもな……基地の中はな……」
 押してはいけないスイッチを押したりしたら大変です。基地の機能は彦君も熟知していない感じでした。一昨日の火星探査の後半は基地のメンテナンスだったのですが、何度も大葉部長に質問していました。それなのに、まだ二日目の私が何かをできるはずがありません。
「そうなると……本格的にやることがないな……」
 外もだめ、中もだめということで、どうやら私はこの貴重な時間を無駄に過ごすしかないようです。
 そうやって自分の無力さを実感してしょぼくれていたのですが、突然の異音に飛び上がりました。
「えっ? なになに? 私、まだ何もしてないんだけど!」
 誰かいるわけでもないのですが、必死に言い訳をしながら音の鳴る方を見ると、そこには人型のロボット、オートマーズが横たわっていました。
「もしかして、これから……?」
 恐る恐る耳を近づけてみると、確かに不気味な機械音はオートマーズから鳴っていました。
「ど、どうしよ……」
 もし、オートマーズに不具合があってこんな音が鳴っているのだとしたら、他のみんなが火星に来られないということです。それはとても困りますので、どうにかしてこの異常を直したいのですが、残念ながら私にそんな知識はありません。
 なにもできずに、ただ見ていることしかできなかったのですが、そうしているうちに、異音は鳴り止みました。
 よく分かりませんが、異音が止まってくれたことにほっとしていると、オートマーズの指がかすかに動きました。
 気のせいかと思った瞬間、オートマーズは一瞬にして姿を変えたのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...