オートマーズ

小森 輝

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7章 牙をむく火星の大地

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「うぅ……はぁ……。やっと火星についたか……」
 先ほどまで異音を発していたオートマーズがいた場所には、火星探査部2年生のマリさんがいました。
 寝そべったまま気持ちよさそうに伸びをしています。その姿を見て安心しました。
「よかった……」
 安堵から漏れ出た私の声でマリさんも私の存在に気づいたようです。
「おぉ、緋色か。よっと!」
 火星に来てからすぐだというのに、マリさんはいきなり立ち上がり、そして準備運動を始めました。
「いやぁ、聞いてはいたけど、やっぱり早いんだねぇ。まさか、私より早いなんて」
「たまたまですよ」
「謙遜なんてしなくていいよ。これは事実なんだし。まあ、誇るようなことでもないんだけどさ」
 マリさんが言うように、火星にちょっと早く来られるだけで、私が特別というわけではありません。誇るのなら、他の人より少し早く来られたこの時間で何かをやってからです。
「それより、動作チェックはやった?」
「いえ、まだですけど……」
「それなら、ほら、私と一緒に準備運動」
「は、はい!」
 言われるがまま、私はマリさんの隣に立って一緒に準備運動を始めました。
「ミッションとか目的はいろいろあると思うけど、火星に来たならまず始めに動作チェックをする癖を付けた方がいい」
「そうなんですか?」
「常識。私たちの生身の体は日々成長してるんだから。もちろん、この体もそれに合わせて体を伸ばしたりするんだけど、どうしても誤差が出てしまうことがある」
「誤差、ですか……」
「そう。でも、0.01ミリとかそんな世界」
 指先や身長が0.01ミリ違ったとしても、正直、気づかない気がします。しかし、そんな思考はマリさんに読まれていました。
「それなら問題ないって思ったでしょ? まあ、確かに、植物に水をあげるぐらいなら平気だろうね。でも、もし、オートマーズが負傷して修理しなければならなくなったら? そう言うときに、0.01ミリだろうとパーツがずれてしまったら。あとは分かるでしょ?」
 オートマーズは、当然、精密機械です。そのパーツが0.01ミリでもずれれば動かなくなるでしょう。そんなこと、機械に詳しくない私でも分かります。
「だから、ちゃんと準備運動しなきゃいけないの。分かった?」
「分かりました!」
 マリさんの準備運動への熱意はよく伝わったので、少し話を逸らしましょう。
「そう言えば、マリさんが起きる前にオートマーズから変な音がしていたんですけど、それって、もしかして、オートマーズが体を伸ばしている音だったりするんですかね?」
「たぶんそうだね。ってことは、また身長伸びたかな。まだまだ私の成長は止まってないってことだ」
 マリさんは身長のことを言っているのですが、私の視線は自然とマリさんの胸へと動きます。バスケをしているというのもあるのでしょうか。どうやら、マリさんは私の同志のようです。
 そんな話をしていると、またあの異音がオートマーズから聞こえてきて、今度は大葉部長の姿に変わりました。
 その大葉部長は、目覚めてすぐに私とマリさんの準備運動を見て首を傾げました。
「二人とも何をしているんですか?」
「見て分かるでしょ? 準備運動。これから遠出するんだから、ちゃんと体を動かしておかないとね」
「それは大事ですけど、程々にしてくださいね。あんまり動くと充電がなくなっちゃうんで」
「大丈夫、大丈夫」
 マリさんは平然とそう言ってのけますが、私は我に返って準備運動をするのをやめました。
 確かに、マリさんが言っていたように動作チェックは大切です。しかし、こんな体操をする必要はないはずです。私が初めて火星に来たときは大葉部長に動作チェックしてもらいましたが、手をグーパーしたり、首を振ったりなど簡単なものでした。マリさんみたいに動作チェックで体操をするのは、せっかく溜めた充電の無駄遣いというものです。
 そう言うこともマリさんは分かっているのでしょうが、入念な準備運動をやめるつもりはないようです。
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