オートマーズ

小森 輝

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7章 牙をむく火星の大地

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 マリさんと一緒に準備運動はしたのですが、念のため大葉部長にも動作チェックをしてもらっていると、ようやく彦君も起きてきたようです。
「彦君は重役出勤だねぇ」
「うるせぇ。お前が早すぎるんだよ」
 彦君も大葉部長の動作チェックを受けているのですが、気分はあまりよくないようです。こんな状態の彦君に話しかけるのも悪いですし、動作チェックをしている大葉部長の邪魔をするわけにもいきません。なので、私の話し相手は、未だに準備体操をしているマリさんしかいませんでした。
「彦君、この前も気分悪そうでしたし、何かあるんですか?」
「ん? あぁ。あれは転送酔いってやつ。緋色は……私より早く起きれるんだから転送酔いとは無縁か」
「起きる時間と関係があるんですね」
 そう言う話は、昨日、部室で聞いていませんでした。
 起きた順番で言えば、最初の私は気分なんて一切悪くありません。むしろ、火星に来た方が体が軽くて調子がいいと言えます。次に起きたマリさんも、すぐに準備運動を始めたことから酔いはあまりないように見えます。3番目に起きた大葉部長は、気分が悪いようには見えませんでしたが、そう言うのを隠したがる性格だと思うので真実は分かりません。最後の彦君は言うまでもないでしょう。大葉部長の前だというのに隠すこともできないほど酷いようです。
 もちろん、私たち4人だけでは比較対照が少ないでしょうが、関係性があるようにしか見えません。しかし、実際はそうではないようです。
「まあ、これは迷信みたいなもんだからね。まだ科学的には何も分かってないの」
「そうなんですか?」
「そもそも、地球から火星に意識を飛ばすと個人差がでるのだって、反射神経の善し悪しだって言われてるからね。緋色は私より反射神経が良いと思う?」
「それは流石にないですかね……」
 お世辞にも運動神経が良いとは言えない私が、バスケ部に入っているマリさんよりも反射神経がいいなんて絶対にありえません。
「そもそも、中学まで野球部だった鷲斗があのザマだしな。オートマーズとの相性に反射神経とか運動能力は関係ないんだろう。しかし、いつ見ても転送酔いはきつそうだな。いっそ吐けたらいいんだろうけど、この体じゃそう言うわけにもいかないしな」
 見た目は生身の体でも、今のこの体は機械でできています。いくら気分が悪くて吐き気がしても、この体に胃なんてものはありません。彦君には耐えることしかできません。
 それよりも、マリさんの話には気になることがありました。
「彦君って野球部だったんだ……。何で野球やめちゃったんだろ?」
「理由はいろいろあるだろうけど、火星探査部は他の部と掛け持ち禁止だからな。まあ、よくても、火星探査部を優先しなきゃいけなくなるし、土日に部活ができないのに運動部に入るなんて無理だもんな」
 他の部との掛け持ちが禁止だというのは初耳、というか、それはもはや矛盾です。
「えっ? でも、マリさん、バスケ部に入ってるんじゃ……」
「ん? あぁ。私はただの助っ人だよ。数が足りないから練習相手になってるだけ。火星探査部の活動がないときは暇だし、どうせ体を動かすならって手伝ってるだけだよ。バスケ部に入ってるわけじゃない」
「そうだったんですね」
 昨日一昨日、そして今日の朝もバスケ部にいたと聞いていたので、てっきりバスケ部に入っていると思っていました。
「緋色も部活ないときは暇でしょ? どう? 一緒にバスケとか」
「いえ、私はちょっと……。運動は苦手で……」
「そっか。まあ、無理強いはしないけど。バスケしたくなったらいつでも相手してあげるよ」
「えっと……ありがとうございます」
 そんな日は一生来ないだろうと思いながらも、一応お礼だけは言っておきます。
 そんな話をしているうちに、彦君の動作チェックも終わったみたいです。
「すいません。貴重な時間を使ってしまって。もう大丈夫なんで」
 大葉部長が不安そうな目で見る中、彦君はふらつく体を気合いで踏ん張っていました。
「その男気は買うけど、あとは不安にさせなければ100点をあげるんだけどねぇ……」
 そう言いながら、マリさんは気合いを入れようとしたのか彦君の背中を思いっきり叩きました。
「ちょっと、あんまり強くたたかないでくださいよ。生身の体じゃないんですから。壊れたらどうするんですか」
「こんなんで壊れるわけないでしょ!」
 マリさんはさらに彦君の背中を叩きます。壊れるかもしれないと言う不安なんてお構いなしです。
「よし! 出発だ!」
 まるで部長のように場を纏めています。リーダーシップがあるのは分かりますが、部長は大葉部長なので、そこは譲ってあげてほしいです。しかし、当の大葉部長はとても楽しそうに笑っているので、1年生の私が口出しする問題でもないのでしょう。
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