オートマーズ

小森 輝

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7章 牙をむく火星の大地

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 全員固まって、投下された植物の捜索に当たったのですが、それは困難を極めました。
「また風が強くなってきた……」
 桜井高校の火星探査基地を出てから徐々に風が強くなっていたのですが、植物を探し出してから一気に強くなった気がします。これはもう砂嵐と言ってもいいのではないのでしょうか。もし生身の体だったら、目も開けていられないでしょうし、口なんか砂が入って常にジャリジャリだったに違いありません。
 こんな状況だと、オートマーズはとても便利です。砂で視界を奪われることもありませんし、開いた地図もホログラムなので飛んでいったりしません。いくら風が強くても通話機能がついているので、声が聞き取れないという事態にも陥りません。こういった極地では、オートマーズだということが輝きます。
 しかし、これだけ風が強いと、少し心配してしまいます。
「これ、私が一番小柄だし、飛ばされるとしたら私が最初なんじゃない?」
「縁起でもないこと言うなよ。それに、今の体はオートマーズなんだから、体重もみんな一緒なんだぞ」
「ちょっと! レディに体重の話はタブーだよ!」
「誰がレディだよ。そんなつまんねえこと言ってないで真面目に探せよな」
 彦君が言うように、真面目に探すべきなのでしょうが、これだけ視界が悪いと見つかるものも見つかりません。ただ、私のやる気が出ない理由は視界が悪いだけではありません。
「砂嵐の情報は入ってないけど、こっちに来る前に砂嵐が起きているか確認した?」
「はい。砂嵐は発生していましたけど、移動速度も遅かったですし、予報では此方には来ないって……」
「この砂嵐、まさかとは思うけど、火星全体を覆ってるんじゃないよな? もしそうだったら今後の火星探査に大きな影響がでる」
「流石に、そんな異常気象は起こっていないと……。可能性としては砂嵐が予測していない動きをしている方が高いでしょう」
「そっちを祈るしかないか……」
 私と彦君が探している横で、大葉部長とマリさんはなにやら深刻そうに話し合いをしています。作業の分担で、誰にでもできる探すという作業は私たち1年生、これからの行動を考えるのを経験豊富な2、3年生で行うのは分かるのですが、どうしても疎外感を感じてしまいます。それは彦君も同じのようで、少し不服そうな表情が見て取れます。こうなったら、意地でも見つけて、私の存在価値をアピールしてやりたいです。
 真面目に探すためにも、私は指で輪っかを作り、両目に当てます。もちろん、ふざけているわけではありません。これにより、視覚に望遠機能が付与されるのです。しかし、砂嵐のおかげで望遠機能なんて役にたちません。むしろ、探しにくいです。
 そう思っていたのですが、思いつきでもやってみたのは正解でした。
「あ、ありました!」
 物は試しといいますが、本当に見つかるとは思いませんでした。
 私が指さすと、望遠機能を使わなくても分かったらしく、みんなで駆け寄ります。
「ここに埋まってる。砂嵐のせいだな。おかげで飛ばされなかったんだから文句は言えないか」
 地面に少しだけパラシュートの布が顔を出しています。これを見つけた私は誉められてもいいのですが、それは後回しです。
「早く掘り出しましょう。これ以上、風が強くなると帰れなくなります」
 大葉部長の言葉を聞いて、みんな急いで掘り起こします。地面を掘ると言っても、全て砂です。掘り出すのに、それほど時間はかかりませんでした。
「これが、探していたものですか?」
 出てきたのは、学校の鞄程の箱でした。持ち上げてみると、意外と軽いです。こんなに苦労して探していたので、もっと大きい物を想像していました。しかし、舌切り雀の昔話にもあるように小さい方に価値のある物が入ってあることもあります。つまり、大事なのは大きさではないと言うことです。そのことは十分理解しているので、箱は大葉部長へと渡そうとしました。しかし、受け取ってはくれません。
「これは最初に見つけた緋色さんに持ってもらおうと思います。こちらへ来る前に先生が言っていたように、これはとても大事なものです。大変でしょうけど、大切にして持ち帰れば、植物たちもきっと応えてくれます」
「わ、分かりました!」
 信頼の証なのでしょうが、重大なものを任されてしまいました。しかし、これで火星探査部として、彦君より一歩リード、いえ、二歩三歩ぐらいリードしたかもしれません。
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