オートマーズ

小森 輝

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10章 火星人との邂逅

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「それより、大葉部長は何をしていたんですか? 私たちはボルダリングやってたんですけど、結構楽しかったですよ? 大葉部長も一緒にやればよかったのに……」
 1週間、私と彦君、そしてコーチ役のマリさんの3人で放課後にボルダリングをしていました。しかし、大葉部長が一緒に来てくれることは一度もありませんでした。
「すいません。色々とやることが多くて……」
「やることって……?」
 私の質問を横から奪ったのは城山先生でした。さっきのことを根に持っているのでしょうか。
「大葉は上に掛け合ってたんだよ」
「掛け合ってたって、何をですか? もしかして、部費を上げろとか、部員の待遇改善とかですか?」
「違いますよ。もっと実用的なことです」
 私には部費も待遇改善も実用的に思えるのですが、他に何があるのでしょうか。
「火星にある人工衛星の情報を直接オートマーズに送信できないか掛け合っていたんです。今までは人工衛星の情報を一度地球に送って、そこから必要な情報をオートマーズへと送っていたんです。ですが、そうすると、時間がかかりすぎてしまって……」
「そう、なんですか……」
 そう言われても、今一、実用的かどうか分かりません。そんな私に城山先生が助け船を出してくれました。
「つまり、直接送ることができたら、この前の火星探査の時に砂嵐と遭遇しなかったってわけだ。上空からの写真があれば、砂嵐が来ているかどうかリアルタイムで分かるからな」
「確かにそうですね。なんで今までできなかったんだろ……」
「それはお国の問題だよ。火星から衛星を使って他国の情報を探るとか、そう言うお前たちには関係なさそうな話さ」
「それは悩んでも意味なさそうですね」
 火星探査は国家事業です。国の都合にも左右されます。それでも、ここまで自由に火星の大地を歩けるのですから文句は言えません。
「大葉の努力が報われるかどうかは、一旦、置いといて、火星探査の準備をするか。いよいよ、火星人とのご対面だぞ」
 今日、火星探査部の部室にみんなが集まったのは、他に理由はありません。
 今日は日曜日。
 予定していた火星探査の日です。
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