スラッガー

小森 輝

文字の大きさ
3 / 31

スラッガー 3

しおりを挟む
 やはり、持つべきものは真面目な友だ。
 岡本塁と書いてあるノートは、綺麗に文字が揃えられており、文字の形も綺麗なものだ。
 一方、重心太郎と書かれたノートは、配列もバラバラだし、文字もかろうじて読める程度だ。このノートを元にテスト勉強なんて、絶対にしたくない。
 そんな俺とは正反対で、元々、字が綺麗なオカは、ノートに文字を書いていても楽しいのだろう。だから、つまらない授業でも起きているし、何の役に立つのかも分からないことをノートに書いているに違いない。
 そもそも、俺は、教科書と教師の雑学をノートに写しているだけの行為に、何かしらの意味を見出せない。
 そんな俺が、ノートに文字を書かなければいけない理由は、ただ一つ。それは、ノート提出があるからだ。この世からノート提出なんてものがなくなれば苦労はしないのに、悪しき文化だ。教師だって、生徒一人一人のノートをチェックするなんて苦行のはずなんだから、そんなもの廃止にしてしまえばいいのに。
 そんなことを思いながらも、借りたノートを見ながら自分のノートに文字を書いていった。これでノート提出で点数が貰えるのだから、我慢しなければならない。オカほど成績が良くない俺は、この点数が重要になってくる。赤点を取るような学力ではないが、万が一、赤点を取ってしまい、補習を受けるなんて、オカが黙って見ているはずがない。休日だろうと構わず御節介をしにくるだろう。
 でも、短時間でノートを写し終える量ではないと分かると、やる気が一瞬でなくなってしまった。
「やめだやめ。これは後からにしよう。それより、オカはこれからどうするよ」
 ノートを写し終えることはなく、一度、自分のカバンにしまった。やる気がなくなったと言うのは本音だが、建前として、オカを待たせるわけにはいかない。俺が居眠りをしていた授業は、今日の最後の授業だ。これから、放課後になる。オカの放課後を奪う訳にはいかないので、帰って写し、次の日に返すと言う算段なのだが……そうなった日は、1日もなかったりする。
「今日も図書館に行こうか」
 授業は終わっても、勉強は終わらない。特に、今は中間テスト1週間前で、部活動もみんな試験休みに入っている。おかげで、より一層、勉学に励む期間として、オカが張り切っているというわけだ。そんな張り切っているオカに巻き込まれる俺の身にもなってほしい。
 そんな乗り気じゃない俺の態度も優秀なオカは読み取っていた。
「今日はやめておくか?」
「行くよ。どうせ、帰ってから勉強なんてしないんだから」
 俺の性格上、家で勉強なんてしていない。オカに分からない部分を聞きながら勉強した方が効率がいい。そう気が付いてから、一人で勉強する機会はかなり減った。いや、なくなったと言っても過言ではない。
「それはよかった。いつもの席は取ってあるから、来ないと思われて他の人に入られる前に行かなくちゃ」
「もう指定席みたいになっているからな……。それに、そこまで心配しなくても、誰も図書館で勉強しに来る奴なんていないって」
 そう言っても、オカが納得してくれるはずもなく、俺も早足で1年4組の教室を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...