スラッガー

小森 輝

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スラッガー 9

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 目を閉じ、力を抜き、眠る体勢に入る。
 もしかしたら、このままオカが勉強に集中してしまって、俺が寝てしまっていることに気が付かないかもしれない。
 そんな淡い期待を抱きながら意識を切り離そうとしていると、それを許さない程のため息が聞こえた。
「図書館ではお静かに」
 散々、喋っていた俺だが、静かにして欲しい側に立てば、話は別だ。静寂を破るものは許さない。
 ここぞとばかりに攻めようと考えていたが、何か様子がおかしい。オカは勉強しようとしていたのに、教科書を閉じてしまった。流石に、怒らせてしまったのだろうか。
「分かった。それじゃあ、明日の放課後は遊びに行こう」
「……まじか!」
 さっきまで寝ようとしていたことも忘れて、飛び起きてしまった。
 ここまでオカが優しいのは珍しい。あの数秒で寝てしまい、これが現実ではなく夢だと疑ってしまうほどだ。もしかしたら、風邪でもひいてしまったのかもしれない。それか、これから雪でも降るのではないのだろうか。
「その代り、今日は勉強を頑張る事。それが遊びに行く条件」
 なるほど。集中できない俺の気分をのせて、勉強に打ち込ませる気だろう。そうでなければ、オカが自分から遊びに行こうだなんて言わない。だが、そんな目論見を分かっていても、のってしまうのが俺なわけであって……。
「ちゃんと聞いたからな。明日は遊びに行く。約束は破るんじゃないぞ」
「分かってるって」
 その言葉で、俄然、やる気が出てきた。
 うまくのせられているのは分かっている。だが、今の俺は、勉強へのモチベーションは最高潮。その上、明日に遊べる口実までできるのだから文句のつけようがない。
「よし! やるか!」
 俺とオカの気が変わる前に、勉強に取り組もう。そのために、まず何をやるのかだが……オカと同じ数学でいいだろう。
 数学の教科書などを出し、すでに出していたノートをカバンに入れそうになって、そこで気が付いた。
「おっと。ノートを返すの、忘れるところだった」
 遊べるということが衝撃的過ぎて、さっきまでノートを写すなんて無意味な作業をしていたということを忘れていた。
「人の物だからって、俺が授業中に頑張った功績を忘れるなんて……」
「ごめんって。誤るから、遊びに行くのはなしだなんて言うなよ?」
「言わないよ」
 ノートを手渡したのだが、何か、違和感がある。
「……ん?」
 自分のノートを渡してしまったわけでもない。何かおかしかったと感じているのだが、それが何なのか分からない。まるで、鏡を見ているような不自然な感じだ。
「どうしたんだ?」
「いや……その……」
 本人におかしいなんて言えるはずもなく、1人で悩むしかなかった。
「ほら、早く勉強しないと。進まなかったら明日もここで勉強だからな」
「わ、分かっているよ」
 気のせいだった可能性もある。違和感については、とりあえず、今は考えないでおこう。それよりも、遊びに行けるかどうか……ではなく勉強が重要だ。
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