スラッガー

小森 輝

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スラッガー 8

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 嫌々ながらも進めていたからだろうか、ノートを模写する作業という簡単な作業は、30分という予想以上の時間を消費した。
「もうだめだ……」
 机に倒れ込み、全身の力を抜いて脱力状態に入る。疲れた体に、机の冷たさが心地よく染み渡る。
「休むには早いだろ。まだ30分しかたってないんだぞ。それに、やったことはノートを写しただけじゃないか」
「それが疲れるんじゃないか。一旦、休憩だよ、休憩」
「はぁ……まあ、こっちも切りがいいし……。仕方ない。5分だけな」
「やったぜ!」
 オカの勉強姿を観察し、切りがよさそうな時を見計らって提案したのは正解だった。だが、5分と言うのは、少ないとは思うが……。まあ、休めるだけ良しとしよう。問題は、どうやって少ない時間を有効活用するかだ。
「さて、何をしようかな……」
 下半身と上半身を引き離す勢いで伸びをし、ついでに周りを見た。しかし、、ここには本しかない。図書館なのだから、当然の景色だ。
「本でも読めばいいじゃないか。たくさんあるぞ」
「休憩なのに本なんて読んでいたら、余計に疲れるだろ」
「じゃあ、漫画は?」
「漫画はな……」
 ここは学校の図書館。そんな場所に週刊誌で連載されている少年漫画は置いていない。あるのは、中国の三国志を舞台にした漫画など、古い漫画ばかり。そういった古い絵は、あまり好きではない。
「本を読む以外に、シゲちゃんは何がしたいんだ?」
「ずっと座っておくのがきついんだよな……。だから、どうせならゲームとかじゃなくて、体を動かすようなことがいいな」
「じゃあ、スポーツとか?」
「そうだな……。ボウリングとか」
「……はぁ、そういうことか。要するに、シゲちゃんは遊びたいわけだ」
「どう解釈したら、遊ぶ以外の解釈になるんだよ」
 体を動かしたいと言ったら、普通なら遊ぶという発送になるのだが、オカは違った。真面目な奴だから、体調管理の為にトレーニングをするなんて、平気で言いそうだ。でも、俺たちは中年男性ではない。今をときめく高校生なのだから、若さを武器にはしゃがないでいつはしゃぐというのだ。
 だけど、俺が言っていることも無茶苦茶だと自覚している。図書館でボウリングなんて出来るはずがない。いや、やろうと思えばできるのだが、間違いなく出禁になる。それに、5分でできる運動なんて限られている。俺にはラジオ体操ぐらいしか思い浮かばない。
 結局、やれることなんてものはなく、ただ机に突っ伏すしかない訳だ。
「あぁ……暇だ……」
「暇なら勉強をしろ」
 オカは、すでに次の勉強の準備までしていた。今度は数学をするようだ。また問題を解いて数式の使い方を理解するなんて原始的なことを始めるのだろう。だが、俺はそんな事をやりたくはない。
「いやだ……勉強したくない……遊びたい……」
「ちゃんと、平均点が取れるだけの学力があれば、遊んでも文句は言わないんだけどな……」
「そこは赤点を取らないだけの学力にしてくれませんか。もう少しハードルを下げてくれるとありがたいんだけど」
 しかし、オカが返事をしてくれることはなく、教科書を開いて勉強を開始してしまった。どうやら、ハードルの譲歩はしてくれないらしい。ならば、子供のようにぐずるしかない。
「スパルタだ……頑張って勉強して、高校に受かったっていうのに、入学してからも勉強、勉強、勉強。こんなのあんまりだ……報われない努力だ……」
「嘆いても無駄。そんなエネルギーがあるなら、勉強に回しなさい」
「嫌だ。まだ5分経ってない」
 とりあえず、時間いっぱいまでダラダラして、その後に勉強をどうするか考えよう。
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