スラッガー

小森 輝

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スラッガー 19

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「ローラースケートで滑るのは分かるんだけどさ……。それの何が楽しいんだ?」
「お前な……。それ、投げて打って走るだけの野球の何が面白いんだって言っているようなもんだぞ」
「野球は投げて打って走るだけじゃないから面白いんじゃないか」
「じゃあ、滑るだけがローラースケートじゃないってことだろ」
「具体的には?」
「それは……滑りながら見つけるんだよ! 分かったら靴を履きかえろ」
 目の前にあったから選んだわけであって、ローラースケート自体に興味はない。それに、ローラースケートの何が面白いのかも、正直分からない。それは、俺やオカだけが考えていることではないようだ。
「……貸きり状態だな」
 客の殆どは高校生だ。ローラースケートは少し子供の遊びと言う感じがしてしまうので、人が寄り付かないのも仕方がない。高校生は、もっと大人の遊びを好む。例えば、ボウリングとかカラオケとか。さらにませた奴は、ダーツやビリヤードといった感じだ。とはいっても、これも休日になれば話は別だろう。高校生はもちろん、小学生、中学生も遊びに来る。家族連れで来る客もいるだろう。そうなれば、ここや他の場所も賑わってくる。さまざまな施設があると言うことは、幅広い客層に対応できると言うわけだ。
「人が少ないのは残念だけど、好都合だな。これなら転けたりしても迷惑にならないだろ」
「転ける前提かよ……」
「初めてだからな。でも、すぐに慣れるだろ」
 オカは文武両道の天才と思われがちだが、実際は運動音痴だったりする。運動音痴と言うよりも、運動神経が悪いと言った方がいいだろう。肉体的には問題ないのだが、感覚的な部分が致命的に悪い。その証拠に、スケート場に入った途端、すごいスピードで直進していった。しかも、へっぴり腰で。まるで、背中から空気を噴射しているように不自然な進み方だ。オカに好意を持っている女子が見たら、裏切られた気分になるだろう。
「大丈夫かぁ?」
「大丈夫じゃない! これどうやって止ま」
 止まり方が分からなかったようだが、分からなくても止まれたようだ。無事にと言う訳ではない様だが……。
 俺はゆっくり滑っていき、オカの元へと向かった。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫じゃないって言っただろ……。でも、ちゃんとプロテクターとか付けておいてよかった」
 オカとは違い、俺は適度なスピードで滑り、そして尻餅をついている運動音痴の目の前で止まることも出来た。
 もちろん、俺もオカと同じく初めてのローラースケートだ。それにしては、うまく滑れている。俺は、何事も人並みには出来る人間だ。代わりに、人並み以上になるまでには飽きてしまっているというのが欠点だ。だから、大体のことは、俺の方が最初は優位なのだが、最終的に負けてしまう。勉強だって、そう……だったかは正直わからないが、これが俺の性らしい。だが悪いことばかりではない。勝っている最初だけは、オカを盛大に馬鹿に出来る。
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