ゲームのキャラに恋するのは規約違反ですか？

この世界にはヒーローがいる

ゲームのキャラに恋するのは規約違反ですか？ ９

　ダンジョンの一番奥。昔は領主の屋敷があったであろう場所に、今の主が鎮座していた。
「これ、勝てるんじゃないのか？」
　赤髪の男は、猟銃を手に、満面の笑みを浮かべている。
「コルテさんがいない間に、何としてでも倒してやるんだから」
　黒装束で両手に短剣を持っている女性も、顔は見えないが笑っているのが雰囲気で分かる。
　そんな彼らの前には、今回の標的であるこのダンジョンのボスモンスターが鎮座していた。
　敵の名前は「金色釈迦如来像」。
　その名前の通り、金色の大仏なのだが、釈迦と言いながら顔が三つに手が六本ある阿修羅なのは、致命的なミスだろう。正面はちゃんと座禅を組んでいる大仏様なのに、その両サイドに、なぜか怒りの顔と悲しみの顔がある。
　しかも、それらの顔は、ただの飾りではない。このボスは、それぞれの顔に役割が存在する。正面の顔は単体への物理攻撃、怒りの顔は回復、悲しみの顔は広範囲の魔法攻撃。
　かなり嫌らしい相手だ。実際に戦っていると、余裕がないだろう。穏やかな顔で殴ってきて、怒りながら回復し、泣きながら広範囲魔法で攻撃してくるなんて、かなり笑える絵づらなのだが、誰も気づいていないようだ。
　余裕がないようだが、集中しているのはいいことだ。
　おかげで、怒りの顔を破壊することに成功したようだ。
　俺も、同じ考えだ。怒りの顔が回復役を担っているのだから、先に倒した方がいい。
　ただ、問題が一つある。
　少し離れた廃墟の陰に隠れていた俺は、完全に出るタイミングを逃していた。
　俺の予想では、みんなが苦戦しているところに登場して、圧倒的火力によって敵を粉砕するものと思っていた。遅れすぎたヒーローは、こんなにも寂しい気持ちになるのだと、初めて知った。