アイリス未来探偵事務所

小森 輝

文字の大きさ
13 / 21

13

しおりを挟む
「知紗希ちゃんかぁ……。今度、ご飯とか行かない? 内緒で奢ってあげるからさ」
「えーっと……その……」
 お誘いには乗った方がいいのか、それとも奢られると問題になるからと断った方がいいのかと悩んでいると、代わりに鐘ヶ江先輩が答えてくれた。
「勤務中だ。ナンパならプライベートでやれ」
「プライベートじゃこんなに可愛くて頭もいい女の子と絶対に会えないから今こうやって誘ってるんじゃないですか! 知ってますか? 刑事課ってだけで女の子から一歩引かれるんですよ?」
 まあ、実際、怖い人が多いし、命を張る危険な仕事というイメージが強くてお付き合いするのは色々と怖い。
「こんな可愛い子と仕事が出来るとか……。俺も探偵目指しておけばよかった。あぁ! そうだ! ちょっと貸して」
「え? あ、はい」
 柿原刑事が私に渡した名刺を欲しがっていたので、不思議に思いながらも返した。
 すると、胸ポケットに刺さっているボールペンと取り出し、名刺の裏に何か書いている。
「はい。これ、俺の電話番号ね。何かあったらいつでも電話してくれていいから」
「あ、ありがとうございます!」
 現役の刑事さん、しかも、未来探偵の担当をしている方の電話番号。これはかなり貴重なものを頂いた。
 これは私もお返しに自分の電話番号を書いて渡さなければ。
「じゃあ、私も……」
「いや、大丈夫。電話、かけてくれたらいいから
 確かに、それでもいいのだが、本当にいいのだろうか。
「お前、まだあのこと引きずってんのか?」
「引きずってませんって!」
 あのこととは一体何のことだろうか。
 そんな疑問を鐘ヶ江先輩は瞬時に読みとった。
「事務所に朝比奈っていただろ?」
「はい……」
 朝比奈さんと言えば、朝礼戦闘バッターにして鐘ヶ江先輩から資料のまとめを押しつけられた人だ。彼女がどうしたのだろうか。
「あいつにも名刺の裏に電話番号書いて渡したんだけど、自分が受け取った名刺に書かれてた電話番号がデタラメで、日本語片言の韓国人に繋がったんだよ。笑えるだろ?」
「ちょっ! 鐘さん、やめてくださいよ! それはもう過去の話ですから!」
 なるほど、もう傷つきたくないから渡すだけ渡して相手から来るのを待つことにしたのか。
 なんだか、それはそれで悲しいので、私はちゃんと電話してあげよう。
 しかし、鐘ヶ江先輩と柿原刑事の仲はかなりいいように見える。仕事仲間というような感じではなく、もっと昔から友達だったというような……。
 爽やか青年と捻くれおじさん。どう考えても接点が見つからない。
「あの、柿原さんは鐘ヶ江先輩とは、どういうご関係なんですか?」
 そう聞くと、鐘ヶ江先輩があからさまに嫌な顔をした。聞いてはいけなかった質問だったのだろうか。でも、もう聞いてしまったものは仕方がない。
「あぁ、鐘さんは高校時代の先輩なんですよ」
「先輩……?」
 そう言われて、二人を見比べるが、どうも年齢が合わない。
「……柿原さんって何歳なんですか?」
「俺は37歳だよ」
「えっ!」
 てっきり20代後半。行っても30代前半だと思っていた。私と10歳ほど歳が違うとは思えないほど若々しい。いや、それよりも、柿原さんが37歳で鐘ヶ江先輩が高校の先輩ということは……。
「鐘さんは俺の2個上だよ。2つしか違わないのに老けてるでしょ?」
 まさかの39歳。とっくに40歳を越えて50歳を迎えようとしているようにしか見えない。
「老け顔の方がなにかと便利だぞ。何より、相手になめられないからな」
 確かに、同じ39歳でも年上だと思って敬語を使うかもしれない。
「無駄話しすぎたな。もう行くぞ」
「気をつけて。知紗希ちゃんも気をつけて。電話も待ってるから」
「はい……」
 最後に念押すことが電話とは。かなりショックだったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...