まさか魔王が異世界で

小森 輝

文字の大きさ
4 / 56
3 魔王、異世界に立つ

まさか魔王が異世界で 4

しおりを挟む
 攻撃が来ることは分かっていた。避けることもできた。
 だが、この程度の魔族など、この俺が恐れる必要はない。
 俺が身に纏っているもの。黒い靄で形がない流動体の衣。これは自身の影で作った装衣、その名も憑依影装。威力が低い魔法や魔力が低い者からの接触を完全に拒絶する。
 この俺、魔王に刃向かう下等な魔族の攻撃など、憑依影装が防いでくれる。
 その慢心が、この胸に腕が突き刺さっている事態を生んだ。
「そんな、一撃で……」
 後ろにいる人間は俺が死んだと思ったのだろう。人間であれば、構造上、死んでいた。だが、俺は人間ではない。魔王だ。胸に風穴があこうが、首と胴体が切り離されようが、死ぬことはない。
 不敬な発言をする人間だが、今は許してやろう。目の前に、最大の不敬を働くものがいるから。
「貴様、魔王であるこの俺に爪を立てるなど、いい度胸ではないか」
「なん、だと……? 貫通しているのに、全くダメージがないなんて……あり得ない」
「魔王と名乗りながらこの程度で驚くなど、底が知れるぞ」
 余裕の俺に対し、腕を突き刺した魔王を名乗る不届きものはかなり焦っていた。
「なんで……抜けない……」
 憑依影装、そして、急速に再生しようとしている俺の肉体によって、貫通した腕は捕まれいる。
「致命傷を与えようとしたのだろうが、失敗だったな。この俺に接近戦で挑んだ時点で、貴様は敗北しているのだ」
「ふざけるな!」
 必死に足掻くが、無駄なことだ。この腕を放すことはない。
「この貫通した腕だけは残してやろう。だが、それ以外は消し炭だ! 体も魔力も魂も、全てを跡形もなく消し去ってやろう!」
 天高く手を伸ばし、魔力を集める。
「極大魔法」
 この俺、魔王が持つ最大級の魔法。魔王と名乗る不届きものだけではなく、辺り一帯を焦土に変える極大魔法。
「絶望を知れ。オーダー。アペルピ……」
 極大魔法を放とうとした瞬間、猛烈な倦怠感に襲われた。
 天高く掲げた手に力が入らない。極大魔法を放つための魔力が集まらない。
 体に何かしらの異常があることはすぐに分かった。
「ふっ……ふははっ。愚かだ。愚かすぎる!」
 突然、発狂したのは目の前の魔王を名乗る不届きものだ。
「何が可笑しい」
「可笑しいさ。魔王を名乗り、膨大な魔力がありながら、こんなことにも気づかないなんてな」
 この俺に気づかないことなど……。だが、体の力はどんどん抜けていく。極大魔法どころか、立っているのさえ辛くなってくる。
「そう、お前の力はどんどん抜けている。でも、力はどこに抜けていっていると思う? そうだ。我の中だ。お前を貫いた腕から直接吸い取っているんだ。抜けずに焦っていると思ったか? 抜けなければ腕を切り落とすに決まっているだろ。この間抜け!」
 数々の暴言と共に腕を引き抜かれた。もちろん、この行為は断罪するべき不敬なのだが、今はその言葉を発する気力もない。
「だが、感謝はしてやるさ。お前の魔力で我は膨大な魔力を得た。これがあれば、我に刃向かうものなどいなくなる。だから、楽に殺してやるよ」
 俺を殺しに奴が近づいてくる。今の状態だと、そのまま殺されてしまう。だが、勇者との戦いに備えていたものは、こんなものではない。
「時間遡行。リロード」
 つけていた指輪が弾け、魔法が発動した。勇者との戦闘で俺の体力がある一定を下回ったときに発動する魔法。その効果は、体力や傷、魔力までも、保存した状態に戻すこと。
「しぶとい奴だ」
 体が巻き戻っていく。魔力が戻ってきて、体に空いた風穴も塞がっていく。
 万全の状態、なのだが、勝てる気はしない。
「だが、今の我は控えめに言って最強。負ける気など毛頭ない!」
 今の奴は、奴の力に加え、俺の力が上乗せされている。奴の言うとおり、控えめに言って最強だ。
 それに、俺が使った巻き戻しの魔法には欠点がある。それは、巻き戻した分の時間がなくなった訳ではないこと。これから、さきほどと同じことが俺の体に起こる。つまり、何もされなくても時間がたてば胸に穴が空き、魔力がなくなってしまうということ。正直に言って、勝ち目はない。完全に俺の満身が生んだ敗北だ。ならば、敗走するしかない。もちろん、全快している今なら転移魔法で遠くまで瞬間移動できるのだが……。
「転移魔法。テレポート」
 やはり、発動しない。
 俺の転移魔法は、一度行った場所、そして目に見える場所にしか行けない。
 あの自称神が言っていたとおり、ここは異世界なのだろう。つまり、俺はここにしか来ていない。一度行った場所がここしかないのだ。
「自称神め……面倒な場所に出しやがって……」
 せめて、どこかこの世界で他の場所に行った者がいれば、その記憶を頼りに瞬間移動できるのだが……。
 そんなものが都合よくいるではないか。俺の召喚に怯え、今も震えている人間が。
「貴様! 今すぐ別の場所を思い浮かべろ!」
「べ、別の場所って……」
「どこでもいい! 貴様が昨日飯を食った町でもいい! 早くしろ!」
「は、はい!」
 この人間が協力的でよかった。これでどうにかなりそうだ。
「なんだ? 人間に命乞いか? 魔王どころか魔族の恥さらしだな!」
「貴様、覚えていろよ。必ず、貴様を断罪しに来てやる」
「逃がす訳がないだろ。確か、そうこうだったか?」
 奴が天高く手を掲げる。
「極大魔法」
 あの膨大な魔力の流れ、間違いなく最大級の魔法がくる。おそらく、あれを受け止めることは可能だろう。だが、その後は何もできない。今すぐにこの場を離れなければ詰みだ。
「おい人間! イメージはできたか?」
「は、はい。大丈夫です」
 この人間の記憶を読み解く。
「記憶解読。ローディング」
 そこには古い町が思い浮かんでいた。
 これなら、瞬間移動できるはずだ。
「転移魔法。テレポート」
 奴の極大魔法の準備が終わる前に、体を浮遊感が襲った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...