まさか魔王が異世界で

小森 輝

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6 アペルピシアという魔王

まさか魔王が異世界で 27

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 昨日、主を倒した森の様子は、俺の予想とはかなり違っていた。
「次から次へと……どうなっているんだ!」
 静まりかえっていると思っていたのだが、それとは真逆で魔物の活性が高まっているように思える。
「今ならいくら出てきても大丈夫だね。ダメージを与えれるようになったみたいだし」
「当たり前だ!」
 昨日は、この雑魚イノシシ魔物にダメージを与えることは出来なかったが、そいつらの主は一撃で倒した。
「まあ、ダメージ量は少ないけど……。でも、全くダメージが出なくて倒せないなんてことはないからね」
「俺も成長しているということだ。だが……」
 今は主を一撃で倒すほどの攻撃は出来ていない。どうにか雑魚イノシシ魔物にダメージを与えて倒せるようになった程度。あれほどの威力は出せていない。
 ただ、この雑魚魔物にダメージを与えられずに逃げられるようなことがないのはいいことだ。いいことなのだが、俺が思い描いていたこととは違う。
「こんな戦闘だらけを想定してはいなかったんだがな……」
「主を倒したからって、それはちょっと甘いんじゃないかな、アペ君」
 ミラが考えているような甘い考えではないのだが、俺の考えは確かに甘かったのかもしれない。
「俺が群の主を倒したから、この森は俺の支配下にあると思っていたんだがな……」
「魔物を餌付けするのにも、それなりのスキルと時間が必要なのに、この森を支配するなんて魔王の力があっても難しいんじゃない?」
「魔王であれば、こんな小さな森程度の規模ではなくこの世界を支配する。だが、今の俺は魔王ではない。ただの子供だ」
 この「ただの子供」というのが問題なのかもしれない。魔族の中では、その群の主、その土地の主を倒すと、その支配下にあったものは勝者のものになる。そのはずだが、おそらく、俺が魔族ではなく人間の子供という判定になっているのだろう。
 それとも、俺がいた世界とこの世界の法則が違うのかもしれない。
 何にせよ、今は襲いかかってきているイノシシ型の魔物を倒すことに集中しなければならない。
「俺は大丈夫だが、そっちは大丈夫か? 魔力が尽きそうなら早めに言え」
「いつも魔王を甘く見るなって言うけど、そっちこそ、人間を甘く見てもらっちゃ困るな」
 そう意気込んでいたので、視界の端でミラの方を見ると、そこには俺が倒していない魔物が死んでいた。どう考えても、防御魔法しか使えなかったミラが倒したのだろう。それも、新しい魔法ではなく、防御魔法をうまく利用して。
 元々、ミラには素質があった。勇者を生け贄にして悪魔を召還するなんていう普通では考えつかない様な足掻き。そういうことが出来る人間というのは強くなる。俺も負けてはいられないな。
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