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6 アペルピシアという魔王
まさか魔王が異世界で 35
俺は軽々と飛ばされ、空を飛んだ。まるで飛行魔法を使っているような速度だ。
「おのれ……覚えていろよ……」
空を飛ぶ、と言っても、自分の意志で飛んでいるわけではないので、制御は出来ない。戻ることはもちろん止まることも速度を緩めることもできない。
「まあ、あの攻撃を食らって致命傷にならなかったのはついている」
いいや、運が良かった訳ではない。ミラの防御魔法のおかげだ。あれで威力が押さえられたのだから。
「それはいいんだが、これからどうしたものか……」
この俺を吹き飛ばした奴にお礼をしなければならない。そして、ついでに俺を守ったミラにもお礼として助けえやりた。だが、今現在、危機に直面しているのは、俺だ。
「このまま地面に叩きつけられると死にかねないな……」
魔王のころであれば、こんなスピードだとしても空中で止まることができた。だが、今の体ではそんなことできない。できることは、なるべく衝撃を分散させながら着地すること。ただ、失敗したらお礼をしに行くどころか、大怪我をして動けなくなってしまう。それどころか、最悪死にかねない。
「魔王であったころは、死は司るものであり、自信の身に降りかかるものではなかったのだがな……」
人間という生き物は、常にこの恐怖と対峙しているのだろう。まあ、俺のいた世界ではあんなイカレた魔族はいなかったので、こんな風に人間の子供が空を飛ばされることはなかっただろう。
「坊主!」
そんなことを考えていると、聞き覚えのある声がした。
そして、その人間は空を飛ぶ俺を両手でキャッチしてみせた。
「大丈夫か、坊主」
この人間は、先ほど俺を庇って飛んでいった人間だ。
「坊主も飛ばされたのか……怪我はないか? 痛かっただろ?」
「いや、俺は大丈夫だ」
ミラのおかげもあり、俺にダメージはない。
「それはよかった。心配して、戻ろうとしていたところに、坊主が飛んできてな。いや、無事でよかった」
そう安堵しながら、俺を地面に降ろしてくれた。
すると、俺の目線はこの人間の腹のあたりになり、その場所の鎧は痛ましいほどに凹んでいた。
「お前、大丈夫なのか?」
「ん? あぁ、このぐらい。骨が何本か折れたぐらいだ。気にすることはない」
それは強がりだ。顔が苦痛に耐えているのが分かる。
「お前は休んでいろ。無理はするな」
「無理もするさ。あそこには、まだ嬢ちゃんが残ってる。助けに行かないと……」
強大な敵にも守るもののために立ち向かう気力。これが人間の底力。魔族が最も恐れる最後の足掻き。
だが、その強い意志は、今は必要ない。
「安心しろ。ここには俺がいる。この程度の絶望は、俺が全て平らげてやろう」
あの時、森の主と戦ったときと同じ、いやそれ以上の力が漲ってくる。
「おのれ……覚えていろよ……」
空を飛ぶ、と言っても、自分の意志で飛んでいるわけではないので、制御は出来ない。戻ることはもちろん止まることも速度を緩めることもできない。
「まあ、あの攻撃を食らって致命傷にならなかったのはついている」
いいや、運が良かった訳ではない。ミラの防御魔法のおかげだ。あれで威力が押さえられたのだから。
「それはいいんだが、これからどうしたものか……」
この俺を吹き飛ばした奴にお礼をしなければならない。そして、ついでに俺を守ったミラにもお礼として助けえやりた。だが、今現在、危機に直面しているのは、俺だ。
「このまま地面に叩きつけられると死にかねないな……」
魔王のころであれば、こんなスピードだとしても空中で止まることができた。だが、今の体ではそんなことできない。できることは、なるべく衝撃を分散させながら着地すること。ただ、失敗したらお礼をしに行くどころか、大怪我をして動けなくなってしまう。それどころか、最悪死にかねない。
「魔王であったころは、死は司るものであり、自信の身に降りかかるものではなかったのだがな……」
人間という生き物は、常にこの恐怖と対峙しているのだろう。まあ、俺のいた世界ではあんなイカレた魔族はいなかったので、こんな風に人間の子供が空を飛ばされることはなかっただろう。
「坊主!」
そんなことを考えていると、聞き覚えのある声がした。
そして、その人間は空を飛ぶ俺を両手でキャッチしてみせた。
「大丈夫か、坊主」
この人間は、先ほど俺を庇って飛んでいった人間だ。
「坊主も飛ばされたのか……怪我はないか? 痛かっただろ?」
「いや、俺は大丈夫だ」
ミラのおかげもあり、俺にダメージはない。
「それはよかった。心配して、戻ろうとしていたところに、坊主が飛んできてな。いや、無事でよかった」
そう安堵しながら、俺を地面に降ろしてくれた。
すると、俺の目線はこの人間の腹のあたりになり、その場所の鎧は痛ましいほどに凹んでいた。
「お前、大丈夫なのか?」
「ん? あぁ、このぐらい。骨が何本か折れたぐらいだ。気にすることはない」
それは強がりだ。顔が苦痛に耐えているのが分かる。
「お前は休んでいろ。無理はするな」
「無理もするさ。あそこには、まだ嬢ちゃんが残ってる。助けに行かないと……」
強大な敵にも守るもののために立ち向かう気力。これが人間の底力。魔族が最も恐れる最後の足掻き。
だが、その強い意志は、今は必要ない。
「安心しろ。ここには俺がいる。この程度の絶望は、俺が全て平らげてやろう」
あの時、森の主と戦ったときと同じ、いやそれ以上の力が漲ってくる。
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