まさか魔王が異世界で

小森 輝

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7 勇者の帰還

まさか魔王が異世界で 51

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 森の外。少し開けた平原である程度の距離を離れて向き合った。
「泣いてしまっても知らないぞ?」
「そっちこそ、手も足もでなくてもいじけないでよね」
「言うじゃないか小娘のくせに」
「そっちこそ、子供のくせに」
 ジリジリと視線をぶつけ合い、そして、その火蓋は切って落とされた。
「早速、新スキルを見せてやろう!」
 先に動き出したのは俺の方だった。近接戦闘しかできないので、それも必然だ。そして、ミラは魔法による防御の準備をしている。だが、もう遅い。俺は昨日までの俺とはもう違うのだ。
「行くぞ! プッシュジャンプ!」
 俺の新スキル、プッシュジャンプ。名前の通り、ジャンプが空中で押し出されて跳躍すると言うもの。空を飛ぶこともなく、ただ走り幅跳びの距離が伸びるだけというスキル。だが、敵との距離を詰めたり敵から距離を取ったりするのに便利だ。現に、今、こうやってミラとの距離を一気に詰めることで、防御魔法の発動より前に接近できている。後は攻撃を当てるだけ。
「でもね、アペ君。アペ君の攻撃は時間がかかるから攻撃を見てから魔法を使っても間に合うんだよね。新しいスキルもすごいけど、まだまだかな」
 俺の攻撃スキル、パワースラッシュは発動までに時間がかかる。だが、そんなのは承知の上で飛び込んできている。
「おい、誰が新スキルが一つだけだなんて言った?」
「え……」
 ただの移動スキルを自慢するほど、俺は幼稚ではない。つまり、攻撃スキルも拾得したということ。
「泣いて悔やめ! ピアシングブロー!」
 俺の新たな攻撃スキル、ピアシングブロー。中段突きの構えから放たれる渾身の突き。スキルが発動するまでの時間は短いが、突きという直線的な攻撃で範囲狭い。しかし、当たれば腹部を貫通させることは間違いない。もちろん、ミラに当てるつもりはないので、寸止めするつもりだ。子供だとバカにした相手に負け、悔しさに表情が歪む姿が楽しみだ。
 しかし、俺の剣は寸止めどころか突きだそうとした瞬間、弾かれた。理由はただ一つ。ミラの防御魔法だ。
「くっそ……」
「アペ君も、私の魔法をなめすぎなんだよなぁ」
 読まれていたわけではない。単純に対応されただけだ。俺のスキルと違って、ミラの魔法は発動に時間をかけない。ただ発動してから一定時間使えないというもの。俺の突きですらも見てから余裕だったのだろう。
「アペ君が成長しているのと同じように私だって成長しているんだからね」
 ミラがそう言うと、魔法の気配を感じた。
「まずいっ! プッシュジャンプ!」
 慌ててスキルで後方へと飛び退いた。
「おしい。気づかなかったら勝ちだったのに……」
 確かにミラも成長している。主に、魔法の使い方を覚えだしたのが成長を促したのだろう。試行錯誤の末、朝の魔族に防御魔法を敵の体内に作り出し、切断することが出来た。今回も防御魔法の応用だ。敵の周りに防御魔法を張り、閉じこめる。俺が魔力を感知できたから避けれたが、魔力感知に乏しいものは捕まってしまうだろう。
「なかなかやるではないか」
 手加減をしていたつもりはないが、俺も本気で挑まなければならないようだ。
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