まさか魔王が異世界で

小森 輝

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7 勇者の帰還

まさか魔王が異世界で 55

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「おい、本当に知らないのか? あんな特徴的な奴だぞ。会っていたら覚えているはずだろ」
「そうだとは思うんだけど……」
「覚えていない、となると、やはり気のせいで知り合いではないのか」
 となると、あの二人が俺たち二人の足止めをしている理由がますます分からなくなってくる。
「何とか言ったらどうなんだ! この悪魔め!」
 その言葉に俺の動揺が眉根をピクリと動かした。
「こいつ……」
 悪魔。それはすなわち魔族のこと。この男は俺が魔王だと言うことを見抜いていると言うのだろうか。魔力もなく子供の体のこの俺を。魔族ではないただの人間に気づくことができるのだろうか。昨日、襲撃してきたあの魔族ですらこの俺を人間としてみていた。この人間はあの魔族以上の力の持ち主だというのか。言動と言い、そうには見えないのだが……。
「はっ! もしや、そこにいるあなた様は!」
 頭のネジが外れてそうな男が何かに気づいたようだ。
「ミラ様ではありませんか! なぜこのような町に!」
 聞き間違いではない。間違いなく、あの男はミラと口にした。
「おい、やっぱり、知り合いだろ。あいつ、お前のことを知ってるみたいだぞ」
「いやでも……ほら、私は知らないけど相手は知っているっていう一方的なこともあるじゃない」
「まあ、そうだが……」
「一応、勇者と一緒に行動していたからさ……」
「うむ……そう言うこともあるか」
 俺だって、魔王だからと言っても俺のことを知っている全員を俺が知っているなんていうことはない。
「僕ですよ! 忘れてしまったのですか?」
 必死にアピールしているが、ミラは全くピンときていないようだ。
「おい、やっぱり知っているみたいだぞ」
「いや、知らないよ、あんな人」
「お前も若干軽蔑しているじゃないか」
 俺と同じく、ミラもあの男を変な人間だと認識しているようだ。
「アビオ・エルクスですよ。勇者育成所で次席だった。覚えていないのですか?」
「あぁ! アビオ君!」
 どうやらミラは思いだしたようだ。こんな特徴的な奴をよく覚えていなかったなと責めたい所だが、興味深い言葉を耳にしていた。
「勇者育成所?」
「そう、アペ君の体の勇者フレットもそこの出なの」
 その名の通り、勇者を育てる場所なのだろう。この俺の体の勇者もそこの出なのか。
 しかし、勇者育成所とは……。勇者とは、その功績によって自然に仲間や民からの信頼を集めてなるものだと思ったが、まさかこの世界では人工的に勇者を生み出しているとは思わなかった。
「でも、まさか、あのアビオ君が……。結構、内向的だったのに、性格変わっちゃったのかな……」
「あんな趣味の悪い防具を着て自分が強くなったとでも勘違いしているのだろう」
 とは言え、行く手を阻まれているのは問題だ。早く洞窟の様子を見たいのに、これでは無視して素通りできそうもない。
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