【完結】白薔薇の惑い

東沢さゆる

文字の大きさ
3 / 5

03.ぐんぐん惹かれる

しおりを挟む
 姉上、と呼ばれる度に胸が痛んだ。つきりとした痛み、これはいったい何だろうと思う。
 慣れない旅で体調を崩したのだとシェリルは言い、
「お医者様を呼びましょうか?」
 公子に同行してきた医者を呼び立てたのだが。
「少し、お疲れのようですね」
 何処も悪くはない、風邪すらも引いてはいないと医師は診断した。シェリルはその答えに不満らしい。
「セグのお医者様は、藪でいらっしゃいますね」
 ひそ、とソフィアの耳元で囁く。そこに公子がやってきたので、シェリルは顔を赤らめた。今の言葉が聞こえていなかったか、公子の顔色を窺うように首をすくめる。その様子が可笑しくて、ソフィアは小さく笑った。
「体調が優れないと伺いましたが」
 不安げな公子の表情に、ソフィアはかぶりを振った。
「大したことはないそうです。疲れが出たかもしれない、と」
「それは……ご無理をさせてしまいましたね、申し訳ございません」
 少し、日程を遅らせましょうと彼は言う。
 言葉通り、行程はのんびりとしたものとなった。
 経路も当初予定されていたものとは異なり、若干の周り道にはなるが、と、風光明美な土地を選んで其々の街に一日ずつ滞在しながらの道行である。ソフィアの体力も回復し、顔色も見る間に健康的になった。なにより、旅路が長引けば、より長い時間公子と共に居られる――それが嬉しかったのだ。
 決して言葉が巧みなわけではない、女性の扱いに長けているわけでもない。
 容姿も、飛び抜けた美形ではない。
 それなりに整い、品のある貴公子然とした顔立ちをしてはいるが、思わず身惚れるほどの麗しさは持ってはいなかった。無論、母后の傍に侍る、麗人と称されるこの世ならぬ美貌を備えた神官と比べれば、どの男性、否、女性ですらも霞んでしまうだろう。シェリル自慢の婚約者ですら、あの神官には適わない。
 公子シリウスには、人としての温かさがある。上に立つ者としての矜持がある。
 次期大公の地位は兄に譲って、自分は地方の領主としてのんびりと暮したい。彼はそんなことを話していた。
「父は、兄を後継にするために、大国の姫君を望んだのです」
 兄思いの公子の言葉に、ソフィアの胸がまた、痛んだ。
 嫡流であるのに、次男というだけで妾腹の兄に後継の座を明け渡すという。なんと欲のない青年だとソフィアは驚くと同時に寂しかった。
 ソフィアの花婿が、セグの次期大公であるならば。
(この公子様が、大公になられればよいのだわ)
 ふと、そんなことを考える――考えて、はっとした。

 それが、どれほど危険な思いか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...