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ある日の夜のオカンの店【宗次郎編】
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◇◇◇◇◇
今日も『オカンの店』で
落ち合う約束を美花としていた僕は、
何時もよりも、仕事が早く終わったので
先に開店時間からカウンターに
座って、美花の帰りを待っていた。
比奈さんと絵美里ちゃん、それに
がんもがおらんから、僕がオカンに
どうしたんか聞いたら、どうやら
絵美里ちゃんが熱を出してしまったらしくて
今日は、お店を休んだらしい。
そらそうやわな。
そやけど、比奈さんとがんもと
絵美里ちゃんが、おらん店の中は
凄く静かで寂しかった。
僕がそんなことをぼんやり
考えていると、オカンが心配そうに
カウンターに座ってる、クラブ『MooN』の
ホステスの愛衣ちゃんに声を掛けていた。
「どないしたん? 大丈夫か? 顔色悪いで!」
すると、愛衣ちゃんがか細い声で応えた。
「あの…頭おかしいんちゃうか? とか…思わんと
うちの話を…オカンも宗ちゃんも聞いてくれる?」
ずっと黙っていた愛衣ちゃんが、
真面目な顔をして聞くので…
オカンも横におった僕も黙って
うんうんと頷いていた。
愛衣ちゃんは少し躊躇してから、
オカンに向かって話し出した。
「うちね…1人暮らしを先月から始めたばっかり
なんやけど…寝ようと思って、ベッドに入ってウトウト
しだした頃になると、その…金縛り?…気が付いたら
ほんまに体が動かんようになってて…その…そうなる前に
必ず女の人の声が聞こえるんよ…」
「女の人なん? 声だけ?」
つい僕は、気になってしもて口を挟んでしまった。
それでも愛衣ちゃんは、気にせずに頷いていた。
「そう…声だけが、聞こえるんやけど。なんて言うてるか
聞き取りにくくて…ただ、なんか女の人やなぁ…言うのだけは
わかる感じで、いつも背中がゾワッとするねん…」
それを聞いて…少し僕も
背中がゾワッとしたけど、
そのまま話を黙って聞いていた。
「なんか凄く怖くなって、体を起こして起きようと
必死になるんやけど…なかなか体が動かんから、
もがいてもがいて…やっと開放される頃には汗だくで
へとへとなんよ…最近、なんか身体の調子も悪いし
オカン…どうしたら良いと思う?」
聞いていたオカンは、愛衣ちゃんに
冷たいオカン特製のポタージュスープを
出してから、誰かにLINEを送っていた。
「少し待ってて~な。20年も飲み屋やってると
こういう事って少しは経験あるから、そんな時に
頼れる人を知ってるねん。ただ…忙しい人やから、
すぐに返事貰われへんかもしれんけどな…」
そう言うとスマホを見せて
オカンは、大丈夫やでと言って笑った。
経験あるって…
どんな経験なんやろ…
全く生まれてこの方、そういった
経験のない僕は、少し
怖いもの見たさで、ワクワクしていた。
それから、20分位経った頃に
オカンのスマホが鳴っていた。
LINEの返事が届いたみたいで
オカンは、ニッと笑っていた。
「運が良かったなぁ~(笑)今、この近くまで、
仕事で息子さんと一緒に来てるんやって!2時間程で
終わるらしいから、店に寄ってくれるらしいわ…
愛衣ちゃん、時間大丈夫か?」
オカンに聞かれて
愛衣ちゃんは、うんうんと
頷いて大丈夫と返事をしてから
「大丈夫なんやけど…オカンに迷惑かけて申し訳ないわ…
うち…ママに怒られちゃうかも…」
「別に迷惑とか思わへんで! 気にせんとき。
このまま部屋で眠れんかったら、体も心も参ってしまうし。
あの人に任せたら、すぐに解決してくれるわ」
オカンは自分の胸を叩いて、
心配せんでも、ほんまに
大丈夫やと言って笑った。
「それにしても、美花ちゃん…今日は少し遅いなぁ~」
オカンが心配そうに僕に聞いてきたから
今日は、残業して帰るって言うてたからね…と
返事をして、さっきから僕が
気になってることを、オカンに聞いてみた。
「前にも、こんな事お店であったん?」
「そやねん。たまたまやねんけどな。10年程前に
愛衣ちゃんと、同じように悩んでるお客さんがおったんよ…
店で相談された時に、たまたまオトンがおってオトンが
任しとけ言うて、電話して来てもらったんが、今から
来てもらう織衣さんっていう人やねん。」
それから、オカンは昔の話やと
笑いながら話を続けた。
オトンが、勤めてた企業の偉いさんが
悪霊のようなものに、取り憑かれて
死にそうになっていたのを、その
織衣さんという人が助けてくれて…
偉いさんの部下やったオトンは、織衣さんと
連絡を取り合っていたので…そのまま
何かある度に、オトンは織衣さんに
相談して、助けてもらっていたらしい。
「めっちゃ綺麗な人やから、最初はオトンの浮気相手かと
疑った事もあってんけどな…歳聞いたらびっくりするで…
もう70過ぎのお婆ちゃんなんやけど…どう見ても
40代後半位にしか見えへんねん」
…と、オカンは舌を出して笑っていた。
「ただいま~お腹すいたー」
勢い良く店の戸が開いて
何時もと変わらんセリフで
店に帰って来たのは、美花やった。
「おかえり~!宗ちゃん待ってるで~!」
オカンが美花に、おしぼりを渡したので
僕らは、そのまま座敷へ移った。
美花の後に続いて
こうちゃんと麻由美ちゃんも帰って来たので
4人一緒に座敷で、晩飯にすることにした。
平日ということもあってか…
その後は、誰もお客さんは入って来なくて
特になんでもない話をしながら、夜定食を食べていた。
「なあ、なんか…愛衣ちゃん。具合悪そうじゃない?」
麻由美ちゃんが、愛衣ちゃんの様子が
おかしいと言うと、心配して愛衣ちゃんの顔を
こうちゃんが覗き込むと…
愛衣ちゃんは、青い顔をして
こうちゃんの方へ倒れてきたから
そこから、みんなで大騒ぎになってしまった。
「キャー! どうしたん愛衣ちゃん!!」
「オカン…どうしよう…救急車呼ぶ?」
「救急車! 救急車!」
…すると
店の戸が開いて、着物姿の上品な女性と
凄く綺麗な顔立ちの男性が入って来た。
「織衣さん! 良かった! 相談してた子が、今さっき
急に意識失ってしまって…お願いします!!」
着物姿の女性は、織衣さんだったようで
オカンが叫んだら、黙って頷いて
横におった男性に何か指示をしていた。
「かなり憔悴してますね。生気をだいぶ持って行かれてる
みたいですが、まだ何とか間に合いそうです」
見た目も、男にしておくのには勿体無い
綺麗な人だが、声も凄く甘い声で横におる
美花と麻由美ちゃんが、彼を見てうっとりしていた。
僕とこうちゃんで、愛衣ちゃんを抱えて
座敷へ寝かせてから、後ろへ下がって
邪魔にならないように見ていると、織衣さんが
御札のようなものを、愛衣ちゃんの額に置いて
着物の袂から白い…塩か…それを愛衣ちゃんを
囲むように撒いていた。
織衣さんが息子さんに…
また、何やら指示をすると…
息子さんは、白い大きな衝立てを出して
愛衣ちゃんを囲って、こちらから見えないようにした。
「ううううううう…く…苦しい…誰だ…私の邪魔をするのは…」
凄く苦しそうな呻き声が
衝立ての向こうから聞こえて来た。
見えないけど…愛衣ちゃんのようだ。
しかし…普段の愛衣ちゃんの声とは
全然違う気がする…
「何か怖いわ…」
「愛衣ちゃん…大丈夫なんやろか…」
美花が怖くなったみたいで、
僕の背中に隠れて、座敷の方を
見ながら、愛衣ちゃんを心配していた。
「貴方はもう、何年も前に見知らぬ男に襲われて
亡くなっているんですよ…この世に未練を残して、
怨みや悲しみや妬みに取り込まれて、光の先へ行けずに
もうすぐ悪霊となりつつある…そうなると、永遠に
光の先へは行けなくなります…この人から離れて
私たちと来れば、光の先へ送ってあげられます…」
息子さんが優しく甘い声で、霊を説得しているようだった。
「うううううううう…ううう……苦しい…」
愛衣ちゃんに取りついている女性の霊も
何かと…戦っているような感じだった。
すると、
突然店の戸が開いて、
色白でショートカットの小柄で可愛い
美花と同じくらいの歳頃の女性と
これ又、綺麗な顔立ちの男性が入って来た。
「遅くなってすみません! 織衣さん! 間に合いました?
大丈夫ですか?」
彼女はこちらを見て
軽く僕らに会釈をしてから、
織衣さんが居る座敷へ駆け寄っていた。
「光ちゃん♪ ええタイミングやん。まだ、
悪霊化してへんから、光の先へ送ってやってくれる?」
織衣さんがそう言うと、
衝立てをどけて愛衣ちゃんから離れた。
「白い光が見えますか?…私を見て下さい。光が見えますか?」
彼女が愛衣ちゃんに話しかけると、
愛衣ちゃんが、ムクッと上半身を起こして
「…見える…優しい光…。暖かい…。向こうに
もっと大きな白い光が見える…見えます」
声がさっきよりも、優しい
普通の女の人の声に変わっていた。
「その大きな白い光の向こうへ進んで下さい…
きっと、貴方を待っている人もおられるはずです…」
すると…
愛衣ちゃんに取り付いていた霊は
ありがとうと彼女に一言残して
光の先へ行ってしまったようだった。
僕には、何も見えなかったけど…
気を失っている愛衣ちゃんの顔に生気が戻っていた。
「光ちゃん。ありがとう♪来てくれて助かったわ
…正直。少し疲れてたから、しんどかったんよ~~」
織衣さんが嬉しそうに
光さんに抱きついていた。
それにしても美形家族なん?
4人揃うとめっちゃ絵になる…。
一般人とは、思えない迫力があるし。
まあ、一般人では、無いようやけど…。
愛衣ちゃんの様子を確認して…
片付けをして帰ろうとする織衣さんを、
オカンが引き止めて、座敷へ座ってもらっていた。
「織衣さん、本当にありがとうございました。
忙しいのに、無理言うてすんませんでした。(笑)」
オカンがお茶を出しながら、
織衣さんにお礼を言って頭を下げていた。
「いえいえ、これが私ら祓い屋の仕事です。そやから、
気にしないでね。陽子ちゃんとは、長い付き合いでしょ?
あ、息子の龍安は知ってるよね…こっちが
下の息子の真澄で、そのお嫁さんの光ちゃん」
織衣さんは、とても気さくな人のようで
オカンに気にしないように言ってから
連れの3人を紹介していた。
…すると
「あ~~!! やっぱり光ちゃんや~!」
美花が、突然大声を上げて
光さんに駆け寄って、光さんの
手を握って顔を覗き込んでいた。
「わぁ~~♪ 美花ちゃんやん! うんうん。憶えてる~♪
久し振りや~♪ 凄い偶然やわ♪(笑)」
光さんも、声を上げて
美花に抱きついて喜んでいた。
「おやおや…光さんのお知り合いの方でしたか?」
「うん♪ 会社の研修で席が隣やってん。研修の
2ヶ月の間、ずっと仲良くしてくれてたんよ美花ちゃん♪
また、会えて嬉しいわ!」
喜んでいる光さんを見つめて
真澄さんは、嬉しそうに笑って
美花の手を取って「これからも光さんをよろしく」と
挨拶をしたら、美花が真っ赤になって
カウンターへ戻って来た。
「やばい…あれはヤバ過ぎる男前や…」
と、横に座ってるこうちゃんが僕に言った。
「うん…男の僕でも見惚れるもんね。…あんなに
綺麗な人が、この世におるんやなぁ~…愛衣ちゃんの
事でも驚いたけど…今日は、寝られへんかもな~」
「私も寝られへんかも…宗ちゃん泊まっていって
菜々美ちゃんおらんから…1人で寝るの怖い…お願い!」
僕が今晩、寝られへんかもて
こうちゃんに話してたら、美花が
僕の右腕にしがみついてきて
泊まってほしいと頼んできた。
美花があんまり真剣に頼むので、
僕は家に連絡を入れて、泊まっていく事にした。
織衣さんは、遅くなると
主治医に怒られるからと笑って、
またゆっくり遊びに来ると
オカンに約束して帰って行った。
織衣さんは、オカンが言ってた通り…
70過ぎたお婆ちゃんには、絶対見えなかった。
どう見ても40代後半か、50代前半の
上品な日本女性だった。
息子さんの兄の方は、和風の美男子で
弟さんは、洋風の美男子と言う感じで
タイプは違うが、本当に男の僕でも
溜め息が出るようなイケメン兄弟だった。
暫くして、愛衣ちゃんが目を覚ましたので…
意識を失っていた間のことを説明したら、
何となくぼんやりとは憶えがあるらしいけど…
殆ど意識がもうろうとしていたから、
よく憶えていないらしい。
「オカン…皆さん…ありがとう…」と
愛衣ちゃんは、皆にお礼を言って
迎えに来た彼氏と一緒に帰って行った。
僕と美花は…機会があればゆっくり
織衣さん達に会いたい気はするが…
絶対こんなことでお世話になりたくないな~と
話して、少し飲み直してから一緒に店を出た。
今日も『オカンの店』で
落ち合う約束を美花としていた僕は、
何時もよりも、仕事が早く終わったので
先に開店時間からカウンターに
座って、美花の帰りを待っていた。
比奈さんと絵美里ちゃん、それに
がんもがおらんから、僕がオカンに
どうしたんか聞いたら、どうやら
絵美里ちゃんが熱を出してしまったらしくて
今日は、お店を休んだらしい。
そらそうやわな。
そやけど、比奈さんとがんもと
絵美里ちゃんが、おらん店の中は
凄く静かで寂しかった。
僕がそんなことをぼんやり
考えていると、オカンが心配そうに
カウンターに座ってる、クラブ『MooN』の
ホステスの愛衣ちゃんに声を掛けていた。
「どないしたん? 大丈夫か? 顔色悪いで!」
すると、愛衣ちゃんがか細い声で応えた。
「あの…頭おかしいんちゃうか? とか…思わんと
うちの話を…オカンも宗ちゃんも聞いてくれる?」
ずっと黙っていた愛衣ちゃんが、
真面目な顔をして聞くので…
オカンも横におった僕も黙って
うんうんと頷いていた。
愛衣ちゃんは少し躊躇してから、
オカンに向かって話し出した。
「うちね…1人暮らしを先月から始めたばっかり
なんやけど…寝ようと思って、ベッドに入ってウトウト
しだした頃になると、その…金縛り?…気が付いたら
ほんまに体が動かんようになってて…その…そうなる前に
必ず女の人の声が聞こえるんよ…」
「女の人なん? 声だけ?」
つい僕は、気になってしもて口を挟んでしまった。
それでも愛衣ちゃんは、気にせずに頷いていた。
「そう…声だけが、聞こえるんやけど。なんて言うてるか
聞き取りにくくて…ただ、なんか女の人やなぁ…言うのだけは
わかる感じで、いつも背中がゾワッとするねん…」
それを聞いて…少し僕も
背中がゾワッとしたけど、
そのまま話を黙って聞いていた。
「なんか凄く怖くなって、体を起こして起きようと
必死になるんやけど…なかなか体が動かんから、
もがいてもがいて…やっと開放される頃には汗だくで
へとへとなんよ…最近、なんか身体の調子も悪いし
オカン…どうしたら良いと思う?」
聞いていたオカンは、愛衣ちゃんに
冷たいオカン特製のポタージュスープを
出してから、誰かにLINEを送っていた。
「少し待ってて~な。20年も飲み屋やってると
こういう事って少しは経験あるから、そんな時に
頼れる人を知ってるねん。ただ…忙しい人やから、
すぐに返事貰われへんかもしれんけどな…」
そう言うとスマホを見せて
オカンは、大丈夫やでと言って笑った。
経験あるって…
どんな経験なんやろ…
全く生まれてこの方、そういった
経験のない僕は、少し
怖いもの見たさで、ワクワクしていた。
それから、20分位経った頃に
オカンのスマホが鳴っていた。
LINEの返事が届いたみたいで
オカンは、ニッと笑っていた。
「運が良かったなぁ~(笑)今、この近くまで、
仕事で息子さんと一緒に来てるんやって!2時間程で
終わるらしいから、店に寄ってくれるらしいわ…
愛衣ちゃん、時間大丈夫か?」
オカンに聞かれて
愛衣ちゃんは、うんうんと
頷いて大丈夫と返事をしてから
「大丈夫なんやけど…オカンに迷惑かけて申し訳ないわ…
うち…ママに怒られちゃうかも…」
「別に迷惑とか思わへんで! 気にせんとき。
このまま部屋で眠れんかったら、体も心も参ってしまうし。
あの人に任せたら、すぐに解決してくれるわ」
オカンは自分の胸を叩いて、
心配せんでも、ほんまに
大丈夫やと言って笑った。
「それにしても、美花ちゃん…今日は少し遅いなぁ~」
オカンが心配そうに僕に聞いてきたから
今日は、残業して帰るって言うてたからね…と
返事をして、さっきから僕が
気になってることを、オカンに聞いてみた。
「前にも、こんな事お店であったん?」
「そやねん。たまたまやねんけどな。10年程前に
愛衣ちゃんと、同じように悩んでるお客さんがおったんよ…
店で相談された時に、たまたまオトンがおってオトンが
任しとけ言うて、電話して来てもらったんが、今から
来てもらう織衣さんっていう人やねん。」
それから、オカンは昔の話やと
笑いながら話を続けた。
オトンが、勤めてた企業の偉いさんが
悪霊のようなものに、取り憑かれて
死にそうになっていたのを、その
織衣さんという人が助けてくれて…
偉いさんの部下やったオトンは、織衣さんと
連絡を取り合っていたので…そのまま
何かある度に、オトンは織衣さんに
相談して、助けてもらっていたらしい。
「めっちゃ綺麗な人やから、最初はオトンの浮気相手かと
疑った事もあってんけどな…歳聞いたらびっくりするで…
もう70過ぎのお婆ちゃんなんやけど…どう見ても
40代後半位にしか見えへんねん」
…と、オカンは舌を出して笑っていた。
「ただいま~お腹すいたー」
勢い良く店の戸が開いて
何時もと変わらんセリフで
店に帰って来たのは、美花やった。
「おかえり~!宗ちゃん待ってるで~!」
オカンが美花に、おしぼりを渡したので
僕らは、そのまま座敷へ移った。
美花の後に続いて
こうちゃんと麻由美ちゃんも帰って来たので
4人一緒に座敷で、晩飯にすることにした。
平日ということもあってか…
その後は、誰もお客さんは入って来なくて
特になんでもない話をしながら、夜定食を食べていた。
「なあ、なんか…愛衣ちゃん。具合悪そうじゃない?」
麻由美ちゃんが、愛衣ちゃんの様子が
おかしいと言うと、心配して愛衣ちゃんの顔を
こうちゃんが覗き込むと…
愛衣ちゃんは、青い顔をして
こうちゃんの方へ倒れてきたから
そこから、みんなで大騒ぎになってしまった。
「キャー! どうしたん愛衣ちゃん!!」
「オカン…どうしよう…救急車呼ぶ?」
「救急車! 救急車!」
…すると
店の戸が開いて、着物姿の上品な女性と
凄く綺麗な顔立ちの男性が入って来た。
「織衣さん! 良かった! 相談してた子が、今さっき
急に意識失ってしまって…お願いします!!」
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オカンが叫んだら、黙って頷いて
横におった男性に何か指示をしていた。
「かなり憔悴してますね。生気をだいぶ持って行かれてる
みたいですが、まだ何とか間に合いそうです」
見た目も、男にしておくのには勿体無い
綺麗な人だが、声も凄く甘い声で横におる
美花と麻由美ちゃんが、彼を見てうっとりしていた。
僕とこうちゃんで、愛衣ちゃんを抱えて
座敷へ寝かせてから、後ろへ下がって
邪魔にならないように見ていると、織衣さんが
御札のようなものを、愛衣ちゃんの額に置いて
着物の袂から白い…塩か…それを愛衣ちゃんを
囲むように撒いていた。
織衣さんが息子さんに…
また、何やら指示をすると…
息子さんは、白い大きな衝立てを出して
愛衣ちゃんを囲って、こちらから見えないようにした。
「ううううううう…く…苦しい…誰だ…私の邪魔をするのは…」
凄く苦しそうな呻き声が
衝立ての向こうから聞こえて来た。
見えないけど…愛衣ちゃんのようだ。
しかし…普段の愛衣ちゃんの声とは
全然違う気がする…
「何か怖いわ…」
「愛衣ちゃん…大丈夫なんやろか…」
美花が怖くなったみたいで、
僕の背中に隠れて、座敷の方を
見ながら、愛衣ちゃんを心配していた。
「貴方はもう、何年も前に見知らぬ男に襲われて
亡くなっているんですよ…この世に未練を残して、
怨みや悲しみや妬みに取り込まれて、光の先へ行けずに
もうすぐ悪霊となりつつある…そうなると、永遠に
光の先へは行けなくなります…この人から離れて
私たちと来れば、光の先へ送ってあげられます…」
息子さんが優しく甘い声で、霊を説得しているようだった。
「うううううううう…ううう……苦しい…」
愛衣ちゃんに取りついている女性の霊も
何かと…戦っているような感じだった。
すると、
突然店の戸が開いて、
色白でショートカットの小柄で可愛い
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これ又、綺麗な顔立ちの男性が入って来た。
「遅くなってすみません! 織衣さん! 間に合いました?
大丈夫ですか?」
彼女はこちらを見て
軽く僕らに会釈をしてから、
織衣さんが居る座敷へ駆け寄っていた。
「光ちゃん♪ ええタイミングやん。まだ、
悪霊化してへんから、光の先へ送ってやってくれる?」
織衣さんがそう言うと、
衝立てをどけて愛衣ちゃんから離れた。
「白い光が見えますか?…私を見て下さい。光が見えますか?」
彼女が愛衣ちゃんに話しかけると、
愛衣ちゃんが、ムクッと上半身を起こして
「…見える…優しい光…。暖かい…。向こうに
もっと大きな白い光が見える…見えます」
声がさっきよりも、優しい
普通の女の人の声に変わっていた。
「その大きな白い光の向こうへ進んで下さい…
きっと、貴方を待っている人もおられるはずです…」
すると…
愛衣ちゃんに取り付いていた霊は
ありがとうと彼女に一言残して
光の先へ行ってしまったようだった。
僕には、何も見えなかったけど…
気を失っている愛衣ちゃんの顔に生気が戻っていた。
「光ちゃん。ありがとう♪来てくれて助かったわ
…正直。少し疲れてたから、しんどかったんよ~~」
織衣さんが嬉しそうに
光さんに抱きついていた。
それにしても美形家族なん?
4人揃うとめっちゃ絵になる…。
一般人とは、思えない迫力があるし。
まあ、一般人では、無いようやけど…。
愛衣ちゃんの様子を確認して…
片付けをして帰ろうとする織衣さんを、
オカンが引き止めて、座敷へ座ってもらっていた。
「織衣さん、本当にありがとうございました。
忙しいのに、無理言うてすんませんでした。(笑)」
オカンがお茶を出しながら、
織衣さんにお礼を言って頭を下げていた。
「いえいえ、これが私ら祓い屋の仕事です。そやから、
気にしないでね。陽子ちゃんとは、長い付き合いでしょ?
あ、息子の龍安は知ってるよね…こっちが
下の息子の真澄で、そのお嫁さんの光ちゃん」
織衣さんは、とても気さくな人のようで
オカンに気にしないように言ってから
連れの3人を紹介していた。
…すると
「あ~~!! やっぱり光ちゃんや~!」
美花が、突然大声を上げて
光さんに駆け寄って、光さんの
手を握って顔を覗き込んでいた。
「わぁ~~♪ 美花ちゃんやん! うんうん。憶えてる~♪
久し振りや~♪ 凄い偶然やわ♪(笑)」
光さんも、声を上げて
美花に抱きついて喜んでいた。
「おやおや…光さんのお知り合いの方でしたか?」
「うん♪ 会社の研修で席が隣やってん。研修の
2ヶ月の間、ずっと仲良くしてくれてたんよ美花ちゃん♪
また、会えて嬉しいわ!」
喜んでいる光さんを見つめて
真澄さんは、嬉しそうに笑って
美花の手を取って「これからも光さんをよろしく」と
挨拶をしたら、美花が真っ赤になって
カウンターへ戻って来た。
「やばい…あれはヤバ過ぎる男前や…」
と、横に座ってるこうちゃんが僕に言った。
「うん…男の僕でも見惚れるもんね。…あんなに
綺麗な人が、この世におるんやなぁ~…愛衣ちゃんの
事でも驚いたけど…今日は、寝られへんかもな~」
「私も寝られへんかも…宗ちゃん泊まっていって
菜々美ちゃんおらんから…1人で寝るの怖い…お願い!」
僕が今晩、寝られへんかもて
こうちゃんに話してたら、美花が
僕の右腕にしがみついてきて
泊まってほしいと頼んできた。
美花があんまり真剣に頼むので、
僕は家に連絡を入れて、泊まっていく事にした。
織衣さんは、遅くなると
主治医に怒られるからと笑って、
またゆっくり遊びに来ると
オカンに約束して帰って行った。
織衣さんは、オカンが言ってた通り…
70過ぎたお婆ちゃんには、絶対見えなかった。
どう見ても40代後半か、50代前半の
上品な日本女性だった。
息子さんの兄の方は、和風の美男子で
弟さんは、洋風の美男子と言う感じで
タイプは違うが、本当に男の僕でも
溜め息が出るようなイケメン兄弟だった。
暫くして、愛衣ちゃんが目を覚ましたので…
意識を失っていた間のことを説明したら、
何となくぼんやりとは憶えがあるらしいけど…
殆ど意識がもうろうとしていたから、
よく憶えていないらしい。
「オカン…皆さん…ありがとう…」と
愛衣ちゃんは、皆にお礼を言って
迎えに来た彼氏と一緒に帰って行った。
僕と美花は…機会があればゆっくり
織衣さん達に会いたい気はするが…
絶対こんなことでお世話になりたくないな~と
話して、少し飲み直してから一緒に店を出た。
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ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
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📖2026.2.25完結
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