オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

文字の大きさ
14 / 32

手術の日取りと思いがけない来客

しおりを挟む
✡✡✡✡✡

ジメジメと湿気の多い蒸し暑い日が続いていた。相棒も推定生後半年を過ぎて犬歯も大人の歯に生え変わっていたので、7月の最初の土曜日に相棒の去勢手術の日取りを決めるために、オレは相棒と一緒に動物病院へ訪れていた。

「来週ぐらいからは、雨の日も少なくなって少し過ごしやすくなりそうやし、手術するなら来週の週末でええんとちゃうかな?」
「ほんまですね。こいつもだいぶ大きくなってしもたし、来週がええかも知れませんね」
「心配無いですよ。チビちゃんは健康優良児やし、僕が責任持って手術しますからね」

少しオレが不安を感じていることを察してくれた若先生が、ニッコリ笑顔でオレの背中を軽く叩いて元気付けてくれていた。

「大丈夫です。先生のことは信頼してます。そしたら、来週の土曜日にこいつの手術。よろしくお願いします」
「うんうん。任せておいてください」

オレは若先生の両手を握り締めて頭を下げて、相棒のことをよろしくとお願いしてから診察室を出た。

「誠二さん、チビちゃんのことになるとほんま過保護なお母さんみたいになるよね。フフフ」
「え!? マジで? そんな風に見えるん?」
「うんうん。もう、チビちゃんが可愛くてしょうがないのがすぐ顔に出るし、今もやっぱりまだ心配そうに見えるもん」
「参ったなぁー。へへへ」

待合室に誰もいなかったので、彼女は受付から出て来てオレの顔をのぞき込んでクスクスと笑っていた。そして、キャリーの中で大人しくしている相棒を見つめながら、彼女はオレの耳元で呟いていた。

「たまにやけど、チビちゃんに私…ヤキモチ焼いてるしね」
「おいおい、猫にヤキモチ焼いてもしゃーないやろ?」

彼女の言葉にオレが笑って返しながら、立ち上がってドアを開けて外に出ると彼女は膨れっ面をして見せて「やっぱり誠二さんは、女心がわかってないわ」と言ってクスクス笑いながら受付に戻って手を振っていた。

✡✡

 オレは彼女の言葉に少し疑問を持ちながらも、深くは考えずに相棒を連れて伯母の店へ寄ることにした。

「あれ? せいちゃん? チビちゃんどうかしたんか?」

オレが店の戸を開けて中へ入ると、伯母が少し心配そうに聞くのでオレはちゃうちゃうと笑って相棒を座敷へ出してやった。

「あれや、あの。去勢手術の日取りを決めてきてん」
「ああ。去勢手術な。そやそや、もうそんな時期やったわ。大きくなるん早いよなー」
「もう、7月やからな。こいつを連れてきたんが、3月やったからね。あっという間やね」

座敷でがんもとミケに寄り添って丸くなってる相棒を眺めながら、オレは伯母が入れてくれた冷たい麦茶を飲んで一息ついていた。

「ところで。最近どうなん? ユイちゃんとは…」
「ははは。気になる? なんとか上手いことやってるで。大事にしたらなアカンとは、思ってるからね」
「せいちゃんのことやから、信用してるし、ユイちゃんのママの理緒ちゃんもほんまに喜んでくれてるから心配はしてないんやけどな…。それでも、高校生やからなぁ」

伯母は苦笑してオレの顔をジッと見つめて少しため息を吐いていた。すると、横で仕込みの手伝いをしていた比奈がクスクスと笑って、伯母の背中を軽く叩いて元気付けていた。

「オカンはせいちゃんが傷つかへんかを心配してるらしいわ。ほら、やっぱりユイちゃんも高校生やろ? どこでどう気持ちが変わるかなんてわからんやん!」
「ああ。まぁ…大丈夫やで。そのへんはオレも承知の上で付き合ってるし、振られるのにも慣れてるからな。へへへ」

 学生の頃からやけど、付き合ったとしても相手がオレに愛想をつかして去って行くんよね。共通点は「女心がわかってない」と言われることかな? オレもその辺は納得している。女心なんてわかるわけが無いしね。

残っていた麦茶を飲み干して伯母には、そんなに心配するなと念を押してからオレは相棒を連れて家に帰った。

家に帰ると部屋の明かりがついていて、オレが鍵を開けて入ると聞き覚えのある声で「おかえりー」と言われたので急いで中へ入って台所を見ると、母の光江が満面の笑顔でオレを迎えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...