オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

文字の大きさ
15 / 32

母と相棒と彼女

しおりを挟む
✡✡✡✡✡


「ミャーン♪」

 突然、何の連絡も無しに勝手に息子の部屋に上がり込んでる母に向かってオレが非難の言葉を発する前に、キャリーの中の相棒が外へ出せと催促して一声鳴いた。

「あ。その子が、チビか? 可愛いやん♪」
「ああ、そやった。オカンにまだ会わせてなかったもんな。可愛いやろ?」

何故か相棒の一声でその場は和み。オレと母は相棒を見て笑っていた。

「それにしても、来るんやったら連絡してくれたら駅まで迎えに行ったのに。どうしたんや?」
「フフフフ。抜き打ちに決まってるやん♪ せいちゃんに可愛い彼女が出来たって、陽子ちゃんに聞いたからな。ひと目見たくて、こっそり会いに来たんよ」
「やっぱり、陽子さんに聞いてたんや。そやろなぁとは思ってたけど、抜き打ちて…オカンには参るわ」

母の話にオレが本気で呆れてると、母はケラケラと笑ってオレの好物の里芋とイカの煮物を器に盛り付けて出してくれていた。

「せいちゃんの大好物の里芋とイカの煮物やで!」
「お! そやそや! 家に入った瞬間にええ匂いすると思ったんや! さすが、オカンやわ。ありがとう」

 オレは洗面所で手を洗って食卓に着いて母が作ってくれた煮物を口いっぱいに頬張った。オレが上手い上手いと煮物を食べている間に、相棒も母が手土産に持ってきた子猫用の缶詰をお皿へ入れてもらって、美味しそうに平らげていた。

「それで? 今日は、ユイちゃんは遊びに来るん?」
「ああ。多分、そろそろ来ると思うねんけど…ほんまに会うんか? まだ、どうなるかわからんで? なんせユイは女子高生やからな!」
「わかってる。わかってるけど、陽子ちゃんがええ子やでって言うてくれてるし、それやったら、うちもユイちゃんと会って仲良くしたいなぁーって思ったんよ」

 母が突然訪れた理由を聞かされたオレは、心の中で「オカンらしいなぁー」と思いながら、少し胸が熱くなった。母も伯母と本当に良く似ていて、とても人好きのする性格の陽気で明るい優しい人やから、ほんまに心の底から彼女と仲良くなりたくてわざわざ家の用事を放って会いに来てくれたに決まってる。

なんかこれって、彼女にとってもええ展開なんちゃうか? とオレが喜んでいると、良いタイミングでその彼女からLINEが届いた。

[あと30分位で行くけど、何かいるものありますか?]

 オレは、特に何もいるものは無いと返信して彼女を驚かすことにした。

「ユイちゃんからやったん? 何て? 来るって?」
「ああ。あと30分くらいで来るってLINE来たわ。オカンのことは内緒にしてるねん。驚かしてやりたいからな!」
「せいちゃんも、イケズやなぁー! フフフ。ほんなら、楽しみに片付けしながら待ってよ♪」

彼女が来ると知った母は、嬉しそうにニッコリ笑ってテーブルの上の洗い物を片付け始めた。

✡✡

 そして、オレが…彼女が、来るまでにシャワーを浴びて、汗を流している間に、母は片づけを全部済ませてくれていた。母の足元をチョロチョロしていた相棒は、スッカリ母に慣れてしまっていて猫じゃらしで楽しそうに遊んでもらっていた。

「さすが、猫好きなだけに猫の扱いが上手いな。今は実家に何匹おるんやったっけ?」
「家の中には3匹やで! 外は、庭に5匹位は毎日ご飯食べに来てるのがおるわ」
「そう言えば、家の中の猫は去勢手術とかしてるん?」
「中も外もうちの猫は皆、手術は済んでる。子猫生まれても貰い手見つけるん大変やし、自然の摂理に反してるんかも知らんけど。共存していく為やと思ってやってるんよ。ご近所さんも猫が好きな人ばっかりやないしなー」

 母がずっとずっとオレなんかよりも、猫たちのことを真剣に考えて向き合っていることを聞かされて、オレはマジで自分の母親を凄いと思って感動していた。

✡✡

「ただいまー!」

オレが、相棒と遊んでいる母の横でソファーに座って缶ビールを片手にテレビを見ていると、彼女がいつもの様に鍵を開けて帰って来た。

「おかえりー!! おつかれさん!」
「え!?  誠二さんのお母さん?」
「フフフフ♪ びっくりした? 初めまして、誠二の母の光江です。よろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。若林ユイと言います。誠二さんにはお世話になってます」

オレの狙い通り、彼女は驚いて目をパチクリさせて、母と挨拶を交わしていた。その足元で、相棒がなんだか嬉しそうに母と彼女を見比べて一声「ミャーン♪」と鳴いて、その場を和ませてくれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...