オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

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彼女の不安とオレの責任

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12月になって、彼女の進路もしっかり決まってオレも彼女も何事もなく楽しくクリスマスを2人で過ごす予定やった。予定やったんやけど。それは予定であって確定では、無かった。

「どうしたんですか?」
「いや、あの。ちょっと考え事してて」
「藤田さん。さっきから僕の話を全然聞いてなかったでしょ?」
「すまん。聞いてなかった。色々とあれこれ考えてたらボーっとしてしもてな。すまん」

 昼休みに後輩の小笠原直之おがさわらなおゆきに相談があるといわれて、社食で昼飯を一緒に食べてたんやけど、今朝の彼女の様子が少し変やったからそのことが気になって、小笠原の話をほとんど聞いていなかった。

「もしかして? 彼女? ですか?」
「ああ。まぁ…そんなところや」
「ですよね。僕もこのクリスマスに彼女にプロポーズするかどうするか…マジで悩んでるんです」
「プロポーズか…。確かに、悩むよな」

 小笠原の相談というのは、交際中の彼女にクリスマスにプロポーズをするべきか? もう少し様子を見るべきか? という相談やった。

「彼女はどんな風なんや? 結婚を意識してる感じなんか?」
「そうですね。歳も32歳やから、若干あせってるように見えなくも無いです…」
「お前はどうやねん? 彼女と結婚したいんか?」
「それが。良くわからなくなってしまってるんです。1人は1人で自由で気楽でしょ? そやけど。彼女のことは好きやし、出来れば結婚したいと思ってはいるんです」

 何か小笠原の気持ちがわかるような気がした。オレも、もうこの歳まで1人で気楽にやってると、たまに彼女がわずらわしく感じることがある。そやけど…彼女のことは好きやねんな。

「若い頃と違って勢いがないから、なかなか先へ進めんのよな」
「そうなんです。責任やらなんやら、色々考えると腰が引けてしもて…」
「彼女と真剣に話してみたらどうや? 結婚についてどう思ってるんかとか? 価値観みたいなもんも、あまりにも食い違ってたら結婚しても上手くいかんやろ?」
「確かにそうですね。彼女に話してみます!」

 小笠原はオレのアドバイス通りに、クリスマスの前に彼女と結婚について話してみると笑って自分の持ち場へ帰って行った。

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 仕事を終えてオレがいつもの様に伯母の店の戸を開けて帰ると、聞き覚えのある声がしたので、座敷を見ると彼女が相棒と絵美里と楽しそうに遊んでいた。

「おかえりー!! せいちゃん、びっくりした? ユイちゃんがな、せいちゃんに相談したいことがあるらしくて待ってたんよ!」
「ただいまー!! そうなん? 何やろ? 今朝も何か思いつめたような顔をしてたから、気になってたんや」
「あら、せいちゃん気付いてたん? フフフ。さすがやわ」

 伯母にコートを預けてオレが座敷へ座ると、彼女も相棒と遊ぶのをやめて向かい合って座ると少し神妙な顔をして話を始めた。

「実は、私のママ。お母さんが、結婚するかもしれへんねん」
「え!? 理緒さんが? マジで?」
「うん。マジ…らしい」
「相手は? もう、会ったんか?」

 想像もしてなかったことを彼女の口から聞いてオレは少し驚いたが、良く考えてみたら理緒さんはオレとそんなに歳も違わんわけやから、結婚とかあってもおかしくはないと思った。

「相手は同じ会社の建築士さん。この前会わせてもらった。すごく優しい人で、ママを幸せにしてくれそうやった」
「それやったらええやん。何で悩んでるん?」
「だって…一緒に住むことになったら、なんか気まずいやん」
「ああ。たしかに…」

そらそうやわな。年頃の娘が、ラブラブの新婚夫婦と同居となると悩むわなぁ。

「うちへ来るか?」

 自然な流れで何の迷いも無くオレが彼女に聞くと、彼女の瞳からは涙があふれて止まらなくなっていた。

「どないしたんや? 泣くことやないやろ?」
「だって…誠二さんがうちに来るか? ってそんなん。そんなん。言うてくれると思ってへんかったから」
「なんでや? 行くとこなかったら、うちに来るんが自然やろ?」
「うん。…ありがとう」

 この後は、伯母に背中をつつかれて冷やかされてこうちゃんや麻由美ちゃんらにも同棲カップル誕生とか、わけのわからんことで盛り上がられるしで大変やったけど、これはこれでオレの責任やから後日、彼女の家へ訪れて理緒さんに事情を話して了解をもらって、オレと彼女は年が明けたら同棲することに決まった。

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