オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

文字の大きさ
24 / 32

彼女の不安とオレの責任

しおりを挟む
✡✡✡✡✡


12月になって、彼女の進路もしっかり決まってオレも彼女も何事もなく楽しくクリスマスを2人で過ごす予定やった。予定やったんやけど。それは予定であって確定では、無かった。

「どうしたんですか?」
「いや、あの。ちょっと考え事してて」
「藤田さん。さっきから僕の話を全然聞いてなかったでしょ?」
「すまん。聞いてなかった。色々とあれこれ考えてたらボーっとしてしもてな。すまん」

 昼休みに後輩の小笠原直之おがさわらなおゆきに相談があるといわれて、社食で昼飯を一緒に食べてたんやけど、今朝の彼女の様子が少し変やったからそのことが気になって、小笠原の話をほとんど聞いていなかった。

「もしかして? 彼女? ですか?」
「ああ。まぁ…そんなところや」
「ですよね。僕もこのクリスマスに彼女にプロポーズするかどうするか…マジで悩んでるんです」
「プロポーズか…。確かに、悩むよな」

 小笠原の相談というのは、交際中の彼女にクリスマスにプロポーズをするべきか? もう少し様子を見るべきか? という相談やった。

「彼女はどんな風なんや? 結婚を意識してる感じなんか?」
「そうですね。歳も32歳やから、若干あせってるように見えなくも無いです…」
「お前はどうやねん? 彼女と結婚したいんか?」
「それが。良くわからなくなってしまってるんです。1人は1人で自由で気楽でしょ? そやけど。彼女のことは好きやし、出来れば結婚したいと思ってはいるんです」

 何か小笠原の気持ちがわかるような気がした。オレも、もうこの歳まで1人で気楽にやってると、たまに彼女がわずらわしく感じることがある。そやけど…彼女のことは好きやねんな。

「若い頃と違って勢いがないから、なかなか先へ進めんのよな」
「そうなんです。責任やらなんやら、色々考えると腰が引けてしもて…」
「彼女と真剣に話してみたらどうや? 結婚についてどう思ってるんかとか? 価値観みたいなもんも、あまりにも食い違ってたら結婚しても上手くいかんやろ?」
「確かにそうですね。彼女に話してみます!」

 小笠原はオレのアドバイス通りに、クリスマスの前に彼女と結婚について話してみると笑って自分の持ち場へ帰って行った。

✡✡

 仕事を終えてオレがいつもの様に伯母の店の戸を開けて帰ると、聞き覚えのある声がしたので、座敷を見ると彼女が相棒と絵美里と楽しそうに遊んでいた。

「おかえりー!! せいちゃん、びっくりした? ユイちゃんがな、せいちゃんに相談したいことがあるらしくて待ってたんよ!」
「ただいまー!! そうなん? 何やろ? 今朝も何か思いつめたような顔をしてたから、気になってたんや」
「あら、せいちゃん気付いてたん? フフフ。さすがやわ」

 伯母にコートを預けてオレが座敷へ座ると、彼女も相棒と遊ぶのをやめて向かい合って座ると少し神妙な顔をして話を始めた。

「実は、私のママ。お母さんが、結婚するかもしれへんねん」
「え!? 理緒さんが? マジで?」
「うん。マジ…らしい」
「相手は? もう、会ったんか?」

 想像もしてなかったことを彼女の口から聞いてオレは少し驚いたが、良く考えてみたら理緒さんはオレとそんなに歳も違わんわけやから、結婚とかあってもおかしくはないと思った。

「相手は同じ会社の建築士さん。この前会わせてもらった。すごく優しい人で、ママを幸せにしてくれそうやった」
「それやったらええやん。何で悩んでるん?」
「だって…一緒に住むことになったら、なんか気まずいやん」
「ああ。たしかに…」

そらそうやわな。年頃の娘が、ラブラブの新婚夫婦と同居となると悩むわなぁ。

「うちへ来るか?」

 自然な流れで何の迷いも無くオレが彼女に聞くと、彼女の瞳からは涙があふれて止まらなくなっていた。

「どないしたんや? 泣くことやないやろ?」
「だって…誠二さんがうちに来るか? ってそんなん。そんなん。言うてくれると思ってへんかったから」
「なんでや? 行くとこなかったら、うちに来るんが自然やろ?」
「うん。…ありがとう」

 この後は、伯母に背中をつつかれて冷やかされてこうちゃんや麻由美ちゃんらにも同棲カップル誕生とか、わけのわからんことで盛り上がられるしで大変やったけど、これはこれでオレの責任やから後日、彼女の家へ訪れて理緒さんに事情を話して了解をもらって、オレと彼女は年が明けたら同棲することに決まった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...