生徒会長は隣のメガネ君

日向ナツ

文字の大きさ
2 / 35

転校生

しおりを挟む
 インターフォンを鳴らして家に入れてもらう。もうこの生活も今日までだ。

 父の転勤先は海外だった。高2なのに3年間の転勤には同意、いや同行できない。母は迷うことなく父について行くと言い出したので、一番近い叔父夫婦の家に居候させてもらうという話になった。叔父のところには子どもがいない。家の間取りもそう広い訳じゃない。そこに居座るのも気が引ける。かなり父と話し合いがあった末に叔父の家の近くに一人暮らしするという事で話がまとまった。

 私も父達も引っ越し先を見つけたり引っ越しの荷造り、私の転校手続きやらと父の転勤が決まってからは忙しくしていた。父の転勤と引っ越しと転校の日が上手くあわなくて、父達は先に引っ越ししたが、私はまだだったので少しの間叔父の家にいたんだけど。

 居心地最悪だった。まるで新婚なのか!  って突っ込まずにはいられないこの環境。叔父と叔母には私がいるのにもうそれが当たり前なんだろうな。父よ、娘に最悪な環境を与えるなよ!
 それもあって今日の待ち合わせに行ったし、一時間も待ったんだけどね。
 居づらいんだよね、ここ。

「アリスちゃん、あんまり帰り遅いとお父さんに怒られるよ」
「こんなことで一人暮らしになったら、どうなるか……」

 ああ、このままではせっかくの今までの私の我慢が無駄になる!

「ちょっと、前の学校の友達が来てくれてて、話してたら遅くなっただけで、明日からは大丈夫だから!」
「そうか。そうだよな。遠くなったし友達とはしばらく会ってないしな」

 なんとか納得させられたみたい。監視役になってるって過剰に反応し過ぎだよ。叔父さんも叔母さんも。


次の日の朝から心配そうな表情の叔父と叔母。
「アリスちゃん、これ地図と住所と家の鍵。本当についていかなくていいの?」
「そうだぞ!  一人分とはいえ荷ほどきは大変だぞ」

 叔父さんはやたらに張り切っているけど、叔父さんに私の荷物を開けられても困る。だからと言って叔母さんだけ来てくれ、なんて言ったら叔父さん凹むだろうし。

「いいよ。大丈夫。すぐに使う物はよけといたし、徐々にやるから。それに、困ったらすぐ呼ぶから」
「そうかあ」

 なんか叔父さん残念そうなんだけど……張り切り過ぎじゃない?



 叔父の家を出て徒歩でしばらく歩いたところで目的地に着いた。住所と地図をそしてマンションを見比べる。ここを選ぶ時に私は話に入れてくれなかった。叔父さんの家の近くで女の子が一人で暮らしても大丈夫なマンションを選んだと、父に問答無用で決められた。私がわがままを言い出すのが嫌だったんだろう。
 なので今日はじめてマンションを見た。荷物の搬入は叔母さんが立ちあってくれていて、今このマンションに私の荷物がある。
 最悪だ。906号室と書いてある。9階だよね。……。
 ここで立ち止まっても仕方ない。玄関からエレベーターへ。私は9のボタンを押す。
 ポーン
 という音と共にエレベーターの扉が開く。

 こんなはずじゃなかった。せっかくの新生活なのに。

 廊下を歩きながら確認する。これは……昨日はそこまで見てなかった。
 『905 榊』
 隣!?  ええ!   そう、ここは昨晩あの榊につれて来られたマンションだった。

 とにかく避けてみよう。高校生ぐらいだったし体格もいいからきっと部活してるはずだよね。だったら、帰宅部にすると決めてる私とは会わないだろう。朝だって朝練とかあるだろうし。休みの日だって偶然、たまたまってぐらいだろうしね。会うなんて。

 こうやって、自分に言い聞かせていた私は隣の
 ガチャガチャ
 って音に過敏に反応する。
 慌てて自分の部屋の鍵を開けて中に入る。

 ふー、助かった。ドアが向こう側に開く物だったんでドアを榊が開けてもこちらを見られずに助かった。
 一日目からこの偶然。偶然って怖いな。

 荷ほどきは叔父の言葉通りに厄介だった。荷造りも辟易してたのに、こっちの方が大変。お昼も晩もコンビニで済ました。どう考えても料理なんてまだ出来ない。明日学校に行けるようにするので精一杯だよ。


 朝になり昨日買っておいたパンで朝食を済ませた私は鏡の前にいる。今日から新しい学校。これでやっていけるのかな?

 登校初日は説明とかがあるんで早目に登校した。いろいろ説明されたけど、まあ学校はどこも同じだね。

 担任の先生が来て教室に案内されてそのままホームルームで自己紹介させられる。名前言っただけだけど。一番後ろの窓際の席に着くように担任に言われた。

 私が席に着くと本格的なホームルームがはじまった。

「という訳で、生徒会長の立候補は今日までだ。みんなドシドシ申し込んでくれ」

 どういう訳なんだかわからないけど、担任の口癖かな?  生徒会長にドシドシってダメじゃないの?   立候補してる人いないんだねきっと。

「吉田、あれ立候補いないんだぜ、絶対」

 近くの男子が雑談をはじめた。

「二年生だけだからな生徒会長になれるの」
「生徒会長になれる、ってお前なりたいの?」
「そんな訳ないじゃん」
「吉田、生徒会の顧問だから、立候補ないと二年生の帰宅部口説いて回るらしいぜ」
「良かった。クラブ入ってて」

 ええ!  私は帰宅部だけど。まあ、転校してきたばかりの私にはさすがに話は回って来ないよね。

 教科書がまだないので私は隣の席の男子に教科書を見せてもらってる。これってかなり迷惑だな。テレビのドラマとかで見てる雰囲気よりどうなんだろ的な空気が流れる。ページめくる度に気を使わせるし。教科書、いつ来るんだ!

 ありがちな転校生に対する興味は放課後までは持たなかったようだ。質問攻めにも軽く流して答える。そんな事答える義務ないだろう的な質問もあるし。転校生には人権がないの!?


 さて放課後に解放された私は帰途につく。いろいろなクラブにも勧誘された。特に人数が少ない部は熱心だったけど、最初から帰宅部希望の私は揺らぐ事もなく断っていった。見るだけって誘いも断る。私には山盛りの荷物と自炊生活が待ってるんだから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...