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1・ゲームはオープニング、俺の人生エンディング
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……待て。落ち着け。一回最初から思い出してみよう。
パニックになりかける自分を抑え、きつく目を閉じて素数を数える。1、2、3、5、7、13、15……15って素数だっけ? まあいいや。ともかく真っ白になっていた頭がだんだん冷静になるにつれ、少しずつ記憶が蘇ってくる。
そうだ。さっきまで俺は自分の部屋にいたはずだ。狭くて古い1Kの、この広間と比べたら目が潰れそうになるような俺のすみかに、コンビニバイト夜勤明けの俺は、ふらふらになりながら帰ってきたとこだったんだ。
疲れ果てた体でベッドに倒れ込んで、でもソシャゲのログインボーナスだけは取っとかなきゃと思って、スマホを手に取って……そこで。
通知画面で、変なものを見た。
常識的に考えてあり得ない、誰が見たって違和感を覚えるはずの代物だ。最初は、幻覚かと思った。けれど何度目を擦っても消えなかった。理解した瞬間に思わず体が震えた、その通知の内容は──
「……コラボぉ!?」
そう、コラボのお知らせだった。俺のやってるソーシャルゲーム『ジュエルズぷりんせす』と、最近ちょっぴり話題のボーイズラブゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈』が、よりにもよって合同でコラボを行う、と!
「何考えてんだよ運営!」
思わずひとりでそう叫んだ。だってそうだろ、女の子いっぱいカワイイヤッターな萌え系ソシャゲと、よくわからんけど名前からしてキラキライケメン勢揃いっぽいBLソシャゲをなんでコラボさせる! 明らか客層違うだろ!
どうやら運営会社が同じらしいけど、よくもまあこんな暴挙に出たもんだ。あーあー、これだから信用ならねえんだよなあ、ここの運営。公式ツイッターのリプ欄が七割トイレの絵文字で埋まってる状況、そろそろなんとかしてくんねえかな。
しかしまあ、お知らせの内容を見る限りコラボとは言っても、いくつかのゲーム内ミッションをこなせばゲーム内通貨……いわゆる石がもらえるってだけらしい。お互いのキャラがお互いのゲームに出たり、ましてや絡んだりするわけではないですよ、と。それは正解。いいことなんて何もない俺の日々の、たったひとつの癒しであるプリンセスちゃんたちが、万一にでも向こうのキラキライケメンどもに頬の一つでも染めようもんなら、俺はちょっと平常心でいられる自信がない。あっちのプレイヤーにしたってそれは同じことだろう。普通の会社なら大事なドル箱コンテンツにそんな地雷は仕掛けないだろうけど、ワンチャンやりかねないんだよなあ、ここの運営。
「別々の山で平和に生きよう。石だけ一緒に採掘しよう……っと」
なんてことを呟きつつも俺の手は自動的にアプリストアを開き、ゲームのダウンロードボタンをタップし終わっている。だってしょうがねえじゃん、貧乏フリーターにとって配布石はまさしく生命線。俺が有償石を買うのはSSR確定ガチャのときだけって決めてるんだ。選択の余地は無え。寝転がった姿勢のままスマホを構え、ゲームのインストールが終わるのを待つ。しかしやたら重いなこのゲーム、何ギガあるんだよ。
ようやくインストールが完了したのは、三十分ほど経ってからのことだった。おっせえよ。とりあえずゲームを起動する。タイトル画面にて、剣を地に立てたポーズでずらりと並ぶのは、案の定のキラキライケメンたちだ。全員髪色がやたらキラキラしてるのは、モチーフが宝石だからか。しかし中央のたぶんダイヤモンドモチーフっぽい奴とか、髪の毛の色として相当無理がないか? 虹色のキラキラが散りばめてはあるけど、現実的に言えば白髪じゃん、これ。俺の推しであるジュエぷりのダイアちゃんは銀髪に虹色ハイライトの美しカワイイちゃんですけど、そういう感じにした方がよかったんじゃねえの~?
まあ、二次元の髪色にあれこれ言う方が野暮ってもんか。どうもゲームの重さに対するイライラもあいまって、俺の中の悪い部分が顔を出している。いけないいけない、ステイよ鍮太郎。対抗を腐しても何もいいことないって、こないだのジュエぷり総選挙で学んだじゃない。
いやもう、いいからさっさとミッションを進めてしまおう。早く終わらせてゲームを削除しないと、スマホの容量がもうパンパンだ。白髪男の顔面をタップして、ゲームデータの読み込みを始めた、その瞬間。
「ぐっ……!?」
突然、心臓がギリッと痛んだ。取り落としたスマホが顔面に落下する。その痛みにすら反応できないほど、全身が押し潰されたように重くなる。ヤバい。これはヤバい。本能が爆音で警報を鳴らしている。でもどうすることもできない。痛い。苦しい。これは、あかん、死ぬ!
遠くなる意識と入れ替わりに、脳裏に過去の記憶が蘇り始めた。アルバムの写真をばら撒いたみたいに、脈絡のない映像が浮かんでは消える。これ走馬灯か? 特撮より魔法少女に熱を上げた幼少期。バイトに明け暮れた高校時代。俺を捨てた母ちゃんが残した「自由な小鳥になります」の置き手紙。ダイアちゃん水着ガチャでの盛大な爆死。駄目だ、ろくな思い出が無え!
枕元に落ちたスマホの中では、データの読み込みが終わったようだ。画面は見えないけどオープニングムービーが流れてるっぽい。ゲームはいよいよオープニングなのに俺の人生はエンディングですかってふざけんな!
手足の先が、痺れるように冷たくなっていく。ああ、くそ、死ぬのか、俺は。誰かと恋愛したり、それどころか優しくされた思い出もろくにないまま、安アパートのベッドで、たったひとりで。嫌だ。嫌だ。俺だって、俺だって死ぬ前に、一回ぐらい誰かに……誰かと……
遠くで音楽が止まる。知らんイケボ声優が、囁くように読み上げる。
『宝石の騎士と、七つの耀燈』
そのタイトルコールを聞き終わったところで、俺の意識は途切れた。
パニックになりかける自分を抑え、きつく目を閉じて素数を数える。1、2、3、5、7、13、15……15って素数だっけ? まあいいや。ともかく真っ白になっていた頭がだんだん冷静になるにつれ、少しずつ記憶が蘇ってくる。
そうだ。さっきまで俺は自分の部屋にいたはずだ。狭くて古い1Kの、この広間と比べたら目が潰れそうになるような俺のすみかに、コンビニバイト夜勤明けの俺は、ふらふらになりながら帰ってきたとこだったんだ。
疲れ果てた体でベッドに倒れ込んで、でもソシャゲのログインボーナスだけは取っとかなきゃと思って、スマホを手に取って……そこで。
通知画面で、変なものを見た。
常識的に考えてあり得ない、誰が見たって違和感を覚えるはずの代物だ。最初は、幻覚かと思った。けれど何度目を擦っても消えなかった。理解した瞬間に思わず体が震えた、その通知の内容は──
「……コラボぉ!?」
そう、コラボのお知らせだった。俺のやってるソーシャルゲーム『ジュエルズぷりんせす』と、最近ちょっぴり話題のボーイズラブゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈』が、よりにもよって合同でコラボを行う、と!
「何考えてんだよ運営!」
思わずひとりでそう叫んだ。だってそうだろ、女の子いっぱいカワイイヤッターな萌え系ソシャゲと、よくわからんけど名前からしてキラキライケメン勢揃いっぽいBLソシャゲをなんでコラボさせる! 明らか客層違うだろ!
どうやら運営会社が同じらしいけど、よくもまあこんな暴挙に出たもんだ。あーあー、これだから信用ならねえんだよなあ、ここの運営。公式ツイッターのリプ欄が七割トイレの絵文字で埋まってる状況、そろそろなんとかしてくんねえかな。
しかしまあ、お知らせの内容を見る限りコラボとは言っても、いくつかのゲーム内ミッションをこなせばゲーム内通貨……いわゆる石がもらえるってだけらしい。お互いのキャラがお互いのゲームに出たり、ましてや絡んだりするわけではないですよ、と。それは正解。いいことなんて何もない俺の日々の、たったひとつの癒しであるプリンセスちゃんたちが、万一にでも向こうのキラキライケメンどもに頬の一つでも染めようもんなら、俺はちょっと平常心でいられる自信がない。あっちのプレイヤーにしたってそれは同じことだろう。普通の会社なら大事なドル箱コンテンツにそんな地雷は仕掛けないだろうけど、ワンチャンやりかねないんだよなあ、ここの運営。
「別々の山で平和に生きよう。石だけ一緒に採掘しよう……っと」
なんてことを呟きつつも俺の手は自動的にアプリストアを開き、ゲームのダウンロードボタンをタップし終わっている。だってしょうがねえじゃん、貧乏フリーターにとって配布石はまさしく生命線。俺が有償石を買うのはSSR確定ガチャのときだけって決めてるんだ。選択の余地は無え。寝転がった姿勢のままスマホを構え、ゲームのインストールが終わるのを待つ。しかしやたら重いなこのゲーム、何ギガあるんだよ。
ようやくインストールが完了したのは、三十分ほど経ってからのことだった。おっせえよ。とりあえずゲームを起動する。タイトル画面にて、剣を地に立てたポーズでずらりと並ぶのは、案の定のキラキライケメンたちだ。全員髪色がやたらキラキラしてるのは、モチーフが宝石だからか。しかし中央のたぶんダイヤモンドモチーフっぽい奴とか、髪の毛の色として相当無理がないか? 虹色のキラキラが散りばめてはあるけど、現実的に言えば白髪じゃん、これ。俺の推しであるジュエぷりのダイアちゃんは銀髪に虹色ハイライトの美しカワイイちゃんですけど、そういう感じにした方がよかったんじゃねえの~?
まあ、二次元の髪色にあれこれ言う方が野暮ってもんか。どうもゲームの重さに対するイライラもあいまって、俺の中の悪い部分が顔を出している。いけないいけない、ステイよ鍮太郎。対抗を腐しても何もいいことないって、こないだのジュエぷり総選挙で学んだじゃない。
いやもう、いいからさっさとミッションを進めてしまおう。早く終わらせてゲームを削除しないと、スマホの容量がもうパンパンだ。白髪男の顔面をタップして、ゲームデータの読み込みを始めた、その瞬間。
「ぐっ……!?」
突然、心臓がギリッと痛んだ。取り落としたスマホが顔面に落下する。その痛みにすら反応できないほど、全身が押し潰されたように重くなる。ヤバい。これはヤバい。本能が爆音で警報を鳴らしている。でもどうすることもできない。痛い。苦しい。これは、あかん、死ぬ!
遠くなる意識と入れ替わりに、脳裏に過去の記憶が蘇り始めた。アルバムの写真をばら撒いたみたいに、脈絡のない映像が浮かんでは消える。これ走馬灯か? 特撮より魔法少女に熱を上げた幼少期。バイトに明け暮れた高校時代。俺を捨てた母ちゃんが残した「自由な小鳥になります」の置き手紙。ダイアちゃん水着ガチャでの盛大な爆死。駄目だ、ろくな思い出が無え!
枕元に落ちたスマホの中では、データの読み込みが終わったようだ。画面は見えないけどオープニングムービーが流れてるっぽい。ゲームはいよいよオープニングなのに俺の人生はエンディングですかってふざけんな!
手足の先が、痺れるように冷たくなっていく。ああ、くそ、死ぬのか、俺は。誰かと恋愛したり、それどころか優しくされた思い出もろくにないまま、安アパートのベッドで、たったひとりで。嫌だ。嫌だ。俺だって、俺だって死ぬ前に、一回ぐらい誰かに……誰かと……
遠くで音楽が止まる。知らんイケボ声優が、囁くように読み上げる。
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そのタイトルコールを聞き終わったところで、俺の意識は途切れた。
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