転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

文字の大きさ
3 / 200

1・ゲームはオープニング、俺の人生エンディング

しおりを挟む
 ……待て。落ち着け。一回最初から思い出してみよう。
 パニックになりかける自分を抑え、きつく目を閉じて素数を数える。1、2、3、5、7、13、15……15って素数だっけ? まあいいや。ともかく真っ白になっていた頭がだんだん冷静になるにつれ、少しずつ記憶が蘇ってくる。

 そうだ。さっきまで俺は自分の部屋にいたはずだ。狭くて古い1Kの、この広間と比べたら目が潰れそうになるような俺のすみかに、コンビニバイト夜勤明けの俺は、ふらふらになりながら帰ってきたとこだったんだ。
 疲れ果てた体でベッドに倒れ込んで、でもソシャゲのログインボーナスだけは取っとかなきゃと思って、スマホを手に取って……そこで。

 通知画面で、変なものを見た。

 常識的に考えてあり得ない、誰が見たって違和感を覚えるはずの代物だ。最初は、幻覚かと思った。けれど何度目を擦っても消えなかった。理解した瞬間に思わず体が震えた、その通知の内容は──

「……コラボぉ!?」

 そう、コラボのお知らせだった。俺のやってるソーシャルゲーム『ジュエルズぷりんせす』と、最近ちょっぴり話題のボーイズラブゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈ランプ』が、よりにもよって合同でコラボを行う、と!

「何考えてんだよ運営!」

 思わずひとりでそう叫んだ。だってそうだろ、女の子いっぱいカワイイヤッターな萌え系ソシャゲと、よくわからんけど名前からしてキラキライケメン勢揃いっぽいBLソシャゲをなんでコラボさせる! 明らか客層違うだろ!
 どうやら運営会社が同じらしいけど、よくもまあこんな暴挙に出たもんだ。あーあー、これだから信用ならねえんだよなあ、ここの運営。公式ツイッターのリプ欄が七割トイレの絵文字で埋まってる状況、そろそろなんとかしてくんねえかな。

 しかしまあ、お知らせの内容を見る限りコラボとは言っても、いくつかのゲーム内ミッションをこなせばゲーム内通貨……いわゆる石がもらえるってだけらしい。お互いのキャラがお互いのゲームに出たり、ましてや絡んだりするわけではないですよ、と。それは正解。いいことなんて何もない俺の日々の、たったひとつの癒しであるプリンセスちゃんたちが、万一にでも向こうのキラキライケメンどもに頬の一つでも染めようもんなら、俺はちょっと平常心でいられる自信がない。あっちのプレイヤーにしたってそれは同じことだろう。普通の会社なら大事なドル箱コンテンツにそんな地雷は仕掛けないだろうけど、ワンチャンやりかねないんだよなあ、ここの運営。

「別々の山で平和に生きよう。石だけ一緒に採掘しよう……っと」

 なんてことを呟きつつも俺の手は自動的にアプリストアを開き、ゲームのダウンロードボタンをタップし終わっている。だってしょうがねえじゃん、貧乏フリーターにとって配布石はまさしく生命線。俺が有償石を買うのはSSR確定ガチャのときだけって決めてるんだ。選択の余地は無え。寝転がった姿勢のままスマホを構え、ゲームのインストールが終わるのを待つ。しかしやたら重いなこのゲーム、何ギガあるんだよ。

 ようやくインストールが完了したのは、三十分ほど経ってからのことだった。おっせえよ。とりあえずゲームを起動する。タイトル画面にて、剣を地に立てたポーズでずらりと並ぶのは、案の定のキラキライケメンたちだ。全員髪色がやたらキラキラしてるのは、モチーフが宝石だからか。しかし中央のたぶんダイヤモンドモチーフっぽい奴とか、髪の毛の色として相当無理がないか? 虹色のキラキラが散りばめてはあるけど、現実的に言えば白髪じゃん、これ。俺の推しであるジュエぷりのダイアちゃんは銀髪に虹色ハイライトの美しカワイイちゃんですけど、そういう感じにした方がよかったんじゃねえの~?

 まあ、二次元の髪色にあれこれ言う方が野暮ってもんか。どうもゲームの重さに対するイライラもあいまって、俺の中の悪い部分が顔を出している。いけないいけない、ステイよ鍮太郎。対抗を腐しても何もいいことないって、こないだのジュエぷり総選挙で学んだじゃない。
 いやもう、いいからさっさとミッションを進めてしまおう。早く終わらせてゲームを削除しないと、スマホの容量がもうパンパンだ。白髪男の顔面をタップして、ゲームデータの読み込みを始めた、その瞬間。

「ぐっ……!?」

 突然、心臓がギリッと痛んだ。取り落としたスマホが顔面に落下する。その痛みにすら反応できないほど、全身が押し潰されたように重くなる。ヤバい。これはヤバい。本能が爆音で警報を鳴らしている。でもどうすることもできない。痛い。苦しい。これは、あかん、死ぬ!

 遠くなる意識と入れ替わりに、脳裏に過去の記憶が蘇り始めた。アルバムの写真をばら撒いたみたいに、脈絡のない映像が浮かんでは消える。これ走馬灯か? 特撮より魔法少女に熱を上げた幼少期。バイトに明け暮れた高校時代。俺を捨てた母ちゃんが残した「自由な小鳥になります」の置き手紙。ダイアちゃん水着ガチャでの盛大な爆死。駄目だ、ろくな思い出が無え!

 枕元に落ちたスマホの中では、データの読み込みが終わったようだ。画面は見えないけどオープニングムービーが流れてるっぽい。ゲームはいよいよオープニングなのに俺の人生はエンディングですかってふざけんな!

 手足の先が、痺れるように冷たくなっていく。ああ、くそ、死ぬのか、俺は。誰かと恋愛したり、それどころか優しくされた思い出もろくにないまま、安アパートのベッドで、たったひとりで。嫌だ。嫌だ。俺だって、俺だって死ぬ前に、一回ぐらい誰かに……誰かと……

 遠くで音楽が止まる。知らんイケボ声優が、囁くように読み上げる。

『宝石の騎士と、七つの耀燈ランプ

 そのタイトルコールを聞き終わったところで、俺の意識は途切れた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...