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26・頭部とセットがベスト
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「さて、そろそろ凱旋と行くか。みんな、お疲れ。ミマ、頑張ったな」
「あっ、ちょっと待ってください、ルビーノ様」
例に漏れず俺ガン無視で声をかけるルビーノを、ミマが懐から見上げる位置で引き留める。
「あの、僕ちょっとチュー君と話がしたいんです」
「えっ、俺?」
「このあと少しだけ、ふたりきりにしてもらえませんか? 皆さんは先にお帰りになってください」
「ああ……そうだな」
戸惑う俺を横目でとらえ、ルビーノは合点したように大きくうなずいた。
「確かに、今日の討伐に対するチュー太郎の姿勢は、お世辞にもあまり誉められたものじゃなかったな」
「は!?」
「あるいは何か、他人に言えない悩みでもあるのかもしれない。ミマ、悪いが灯士仲間のよしみだと思って、話を聞いてやってくれるか」
「おいちょっ」
「もちろんです、ルビーノ様っ」
ミマが笑顔でぐっと拳を握る。いや悩みならあるって言うかお前らの態度が主な原因なんですけど、そもそも俺本人を目の前にして言うことじゃなくない、それ!?
だが俺が何か言ってやろうとする前に、ルビーノはミマに微笑みかけて片手を上げる。
「頼んだぜ、ミマ。道中気を付けろよ。表通りを行けば危険はないはずだが、万一ってこともある」
「任せてください。僕だってもう、立派な耀燈騎士団の一員なんですから!」
「はは、頼もしいな。だが……そうだな、誰か……」
「大丈夫ですぅ! ボクがいるですぅ!」
甲高い声は、ルビーノのさらに頭上から降ってきた。ミマの表情が露骨に歪む。目を凝らせば、表通りにある街路樹のてっぺんから、何かが突撃するセミみたいにこちらに飛んでくるのが見えた。
「ボクがミマサマをお護りするですぅ! 騎士連中の出る幕なんかないですぅ、よ!」
「……コラル。いたの」
「当然ですぅ! ボクは影になり日向になり、ミマサマにお力添えすると誓った身ですぅ、から……っひゃぁっ!?」
丸っこいボディを目いっぱい反らしてふんぞり返っていたコラルが、突如奇声を上げる。頭に二本生えたコラルのツノが、突如むんずと誰かに掴まれたのだ。見れば瞳を輝かせたトパシオが、まるでウサギでも獲ったかのようにコラルを捕まえている。
「なっ、ななな何すっだてめえ!? 放しやがれアホカスボケぇ!!」
「へえ、すごいな、こんな街中でハイフェン族が獲れるなんて」
「獲れるだぁ!? ヒトをマグロかカツオ扱いしやがってッ!!」
「しかもツノ付きの全身標本なんて、市場でもめったにお目にかかれないぞ。今のレートだと最低五千万ジュエネル……いや、もっとか」
「ひょっ!?」
「いやー、ツイてるなあ。今日の快勝といい、やっぱりミマはオレの幸運の女神だな、ははっ」
暴れるコラルをものともせずに、爽やかに恐ろしいことを言ってのけたトパシオは、セリフとは裏腹に一点の曇りもない笑顔を浮かべている。前々からちょっと思ってたけど、やっぱこいつ……。コラルもコラルで口調変わってるし。本性出ちゃいましたね、どっちも。
「は、放してあげてください! 知性種族の売買は禁止されてますっ、それに、その……、……その人は、ハイフェン族の王子、だと思うので……」
「えー」
「えー」
慌てて止めに入ったランジンに、トパシオは不満げに唇を尖らせる。どさくさに紛れてミマまで唇を尖らせていた気がするが、ここは見なかったことにする。
いかにも渋々といった感じで、トパシオはコラルから手を離した。哀れな小動物は全力で逃亡した後、路地の曲がり角からひょこりと顔を出す。
「と、とにかく! ボクが全力でミマサマをお守りするぅですから!! カイガラ騎士どもはさっさと城に帰りやがれですぅ!!」
「……だ、そうだ」
ルビーノが軽く肩をすくめ、みんなを伴って城へと歩き始めた。サフィールは心配そうに、トパシオは未練がましく一度ずつ振り返り、やがて小走りで他の騎士サマの後に続く。結局俺は、彼らの態度の意味を聞くことも、今日の弁解をすることもできなかった。普通にへこむ。
そういや、気づけばジルコンの姿もなくなっている。先に寮に戻って夕飯の支度でもしてるのかもしれない。あいつだけは今日も普段と変わらない態度で俺に接してくれたけど、内心はどうだったんだろう。例え本当は俺を嫌いになってたんだとしても、彼ならばそれさえも完璧に隠し通してしまいそうだ。思わず疑心暗鬼になってしまう程度には、他人を信じられなくなっている今の俺である。しょんぼり。
「あっ、ちょっと待ってください、ルビーノ様」
例に漏れず俺ガン無視で声をかけるルビーノを、ミマが懐から見上げる位置で引き留める。
「あの、僕ちょっとチュー君と話がしたいんです」
「えっ、俺?」
「このあと少しだけ、ふたりきりにしてもらえませんか? 皆さんは先にお帰りになってください」
「ああ……そうだな」
戸惑う俺を横目でとらえ、ルビーノは合点したように大きくうなずいた。
「確かに、今日の討伐に対するチュー太郎の姿勢は、お世辞にもあまり誉められたものじゃなかったな」
「は!?」
「あるいは何か、他人に言えない悩みでもあるのかもしれない。ミマ、悪いが灯士仲間のよしみだと思って、話を聞いてやってくれるか」
「おいちょっ」
「もちろんです、ルビーノ様っ」
ミマが笑顔でぐっと拳を握る。いや悩みならあるって言うかお前らの態度が主な原因なんですけど、そもそも俺本人を目の前にして言うことじゃなくない、それ!?
だが俺が何か言ってやろうとする前に、ルビーノはミマに微笑みかけて片手を上げる。
「頼んだぜ、ミマ。道中気を付けろよ。表通りを行けば危険はないはずだが、万一ってこともある」
「任せてください。僕だってもう、立派な耀燈騎士団の一員なんですから!」
「はは、頼もしいな。だが……そうだな、誰か……」
「大丈夫ですぅ! ボクがいるですぅ!」
甲高い声は、ルビーノのさらに頭上から降ってきた。ミマの表情が露骨に歪む。目を凝らせば、表通りにある街路樹のてっぺんから、何かが突撃するセミみたいにこちらに飛んでくるのが見えた。
「ボクがミマサマをお護りするですぅ! 騎士連中の出る幕なんかないですぅ、よ!」
「……コラル。いたの」
「当然ですぅ! ボクは影になり日向になり、ミマサマにお力添えすると誓った身ですぅ、から……っひゃぁっ!?」
丸っこいボディを目いっぱい反らしてふんぞり返っていたコラルが、突如奇声を上げる。頭に二本生えたコラルのツノが、突如むんずと誰かに掴まれたのだ。見れば瞳を輝かせたトパシオが、まるでウサギでも獲ったかのようにコラルを捕まえている。
「なっ、ななな何すっだてめえ!? 放しやがれアホカスボケぇ!!」
「へえ、すごいな、こんな街中でハイフェン族が獲れるなんて」
「獲れるだぁ!? ヒトをマグロかカツオ扱いしやがってッ!!」
「しかもツノ付きの全身標本なんて、市場でもめったにお目にかかれないぞ。今のレートだと最低五千万ジュエネル……いや、もっとか」
「ひょっ!?」
「いやー、ツイてるなあ。今日の快勝といい、やっぱりミマはオレの幸運の女神だな、ははっ」
暴れるコラルをものともせずに、爽やかに恐ろしいことを言ってのけたトパシオは、セリフとは裏腹に一点の曇りもない笑顔を浮かべている。前々からちょっと思ってたけど、やっぱこいつ……。コラルもコラルで口調変わってるし。本性出ちゃいましたね、どっちも。
「は、放してあげてください! 知性種族の売買は禁止されてますっ、それに、その……、……その人は、ハイフェン族の王子、だと思うので……」
「えー」
「えー」
慌てて止めに入ったランジンに、トパシオは不満げに唇を尖らせる。どさくさに紛れてミマまで唇を尖らせていた気がするが、ここは見なかったことにする。
いかにも渋々といった感じで、トパシオはコラルから手を離した。哀れな小動物は全力で逃亡した後、路地の曲がり角からひょこりと顔を出す。
「と、とにかく! ボクが全力でミマサマをお守りするぅですから!! カイガラ騎士どもはさっさと城に帰りやがれですぅ!!」
「……だ、そうだ」
ルビーノが軽く肩をすくめ、みんなを伴って城へと歩き始めた。サフィールは心配そうに、トパシオは未練がましく一度ずつ振り返り、やがて小走りで他の騎士サマの後に続く。結局俺は、彼らの態度の意味を聞くことも、今日の弁解をすることもできなかった。普通にへこむ。
そういや、気づけばジルコンの姿もなくなっている。先に寮に戻って夕飯の支度でもしてるのかもしれない。あいつだけは今日も普段と変わらない態度で俺に接してくれたけど、内心はどうだったんだろう。例え本当は俺を嫌いになってたんだとしても、彼ならばそれさえも完璧に隠し通してしまいそうだ。思わず疑心暗鬼になってしまう程度には、他人を信じられなくなっている今の俺である。しょんぼり。
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