転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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43・炙っておともにマヨネーズ

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 講義終了までの時間は、永遠みたいに思えた。

 またしてもゾンビのような足取りで寮に帰り着く。今日ダメージを受けたのは体じゃなく、もっぱら心の方面だけど。
 重すぎるドアを全体重で開けて、そのまま玄関ホールに倒れ込む。ちょうど廊下の掃除をしていたジルコンが、その音でこちらを振り返った。

「お帰りなさいま……なんだ、チュー太郎か」
「なんだじゃねえよお……俺にもお帰りなさいませって言えよお……」
「お帰りなさいませ。は、ずいぶんこっぴどくやられたようだな」
「うううう……」

 ぞんざい極まりない挨拶にも言い返す元気が出ない。自分が世界で一番ダメなやつみたいに思えてくる。や、実際そうなのかもしれない。そうなの? そうかも……うう。
 別に、怒鳴られたり叱られたりしたわけじゃない。スマラクトは親愛度最低なりに最大限、ていねいに優しく授業をしてくれた。ただあからさまに顔に出していただけだ、俺が質問の手を上げるたびに。「え? こんなこともわかんないの?」と言わんばかりの、素直すぎる驚愕と失望を。

「もうだめだぁ……俺は腐肉にたかるナメクジ以下の存在ですぅ……」
「ああ、感染うつったな。まったく、スマラクトの悪癖だ」
「一歩も歩きたくねぇ……ジルコンんん、すいませんけど部屋まで運んでくださいませんでしょうかぁ……お姫様抱っこでぇ……」
「……その図々しさが残っているなら上出来だ」

 ジルコンは前と同じように、俺をひょいと肩に担ぎ上げる。俺の希望、ガン無視。でもこの雑さが今の俺にはちょうどいい。こんなんでいいのよ俺なんかには。干しイカになってカサカサと揺られていると、ジルコンがおもむろに口を開く。

「チュー太郎。お前、スマラクトの経歴を知っているか」
「経歴ぃ……?」
「王立魔法学院首席入学首席卒業。魔素を利用した回復医療分野での年間発表論文数史上最多記録所持。スキア対策理論の論功と実践における功績で、いくつか褒章も受章している」
「はあ!? なにそれ、天才じゃん!!」
「そうだ。俗な褒め言葉の域を超えて、天賦の才を授かったと表現するに相応しい人間だろうな」
「なんだよそれぇえ……」

 信じらんねえ。全然ダメじゃないじゃん、じゃあなんなのあの無駄な自虐マジで無駄じゃん。ちょっとはフォローしてやろうとか思ってた俺がバカみたいだよ。
 鍵のない俺の私室のドアを、ジルコンはためらいも許可もなくがちゃりと開けた。そして肩に乗っていた丸干しチュー太郎くんを、居間のソファの上に雑に投げ捨てる。米袋でももうちょい丁寧に扱うぞ、おい。

「あれでも昔はなんというか、今とは真逆の意味で鼻持ちならない子供だったらしいが。俺が初めて会ったときにはもうああだったな」
「えぇ……なんで?」
「スキアとの戦争中に色々あって、鼻っ柱を木っ端微塵にされたと聞いている。百年戦争末期の激戦時に、後方支援専門とは言えまだ年端も行かない子供が駆り出されたんだ。いかに奴が天才であれ、ままならないことはいくらでもあっただろうさ」
「へえ……」

 なるほどね。案外重い理由だった。っていうかやっぱお前は普通に言っちゃうんだな、そういうの。俺的にはわかりやすくてありがたいけどさ。
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