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59・執事休業中お仕事進行中
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あ、そうだ。ふと思いついてぽんと手を叩く。
「なあ、そしたら明日一日は、俺がお前の手伝いをする、ってのはどうかな。お詫びもかねて」
「手伝い、だと?」
「家事とか料理とか、片手じゃやりにくいことの介助とか。いやもちろん、かえって邪魔になるってんなら遠慮するけど」
うん、我ながらいい考え……のはずだったのだが、口に出した途端コミュ障ゆえの弱気が襲ってきた。わかんねえ。ジルコンもせっかくの休みなんだから、俺なんかに構わずゆっくりしたいだろうか。拒絶を丸出しにされるのが怖くて、言い訳のように言葉を続ける。
「何のかんの言って俺、ジルコンには日頃お世話になってるし……どう、かな」
「……ふむ」
細い顎を撫でて思案するジルコンは、執事モードなのか王子モードなのかよくわからない声色をしている。緊張感が倍増する。ああ、やっぱ余計なこと言わなきゃよかったか? 俺の弱気が頂点に達した瞬間。
「なら、お言葉に甘えてお願い……いや、頼むとするか」
ジルコンはすっと立ち上がって言った。内心ほっと息をつく。わざわざ王子モードで言い直さなくていいだろとは思ったけど。
「明日は家に顔を出すつもりでいた。お前も付き合え」
「へいへい。……家?」
一度聞き流しかけた単語に首をかしげる。家ってなんだろ。ジルコンことディアマンテ殿下はこの国の王子サマなんだから、家っつったら城のことじゃねーの?
俺の疑問を見透かしたように、ジルコンは軽くため息をついた。
「明日になったらわかる。……言っておくが、考察と称して勝手な妄想を吹聴するなよ」
「し、しねーし! 俺だってそのくらいのデリカシーはあるし!」
「どうだかな。初めて顔を突き合わせたときの自分の言動、忘れたと言わせる気はないが」
「う、だから、それはごめんて……」
そこを持ち出されると弱い。くそう。やっぱ根に持つタイプなんだよなあ、こいつ。ぐぬぬ顔になる俺を放って、ジルコンは部屋を出るドアに向かう。
「出立は明け方になる。今夜は案内板をいじらず早めに寝るように」
「明け方!?」
「出先で仕事があるからな。俺の代わりに、手伝いをしてくれるんだろう?」
「ぐっ……!」
突きつけられた言質に言葉を失った。や、やっぱ余計なこと言うんじゃなかった! 今夜はジュエぷりブラウザ版の動向について、徹底的にパブサするつもりだったのに!!
しぶしぶ早寝を選んだ夜が明けて、日曜の朝。
「起きろ、チュー太郎」
「ふがっ」
鼻先の痛みで目が覚めた。視界には巨大なダイヤモンドと、それに劣らぬ輝きのキラキラ王子。だからダイヤをナックル代わりに使うんじゃないよこいつは。鼻脂で曇っても俺のせいじゃねーからな。
「んー……もう朝ぁ……?」
「遅い。五分で支度を終わらせろ」
「うぅ、鬼ぃ……ってか、『おはようございます、チュー太郎様』はどーしたよぉ……」
「生憎だが今日は完全オフなんでな。執事は休業だ」
「うぐぐ……」
眠い目を擦りながら、窓の外に目をやった。まだ日も登り切らない薄暗い時間帯。こんな時間から働くなんて……慣れてるっちゃ慣れてるけど、もうそういうのとは無縁だと思ってたのになあ。
それにしても、目の前で腕を組むジルコンときたら。完全オフとの言葉通り、今日の彼は洗いざらしの白いシャツに、細身の革ズボンというラフな格好だ。服だけなら俺と大差ないのに、それでも妙にサマになってるのはビジュアル強者の成せる業か。大して長くもない後ろ髪も、尻尾みたいにちょろっとまとめちゃって、まーイケメン様は休日スタイルまでおイケでいらっしゃる。無駄に卑屈になってしまう無課金フェイス俺。
「なあ、そしたら明日一日は、俺がお前の手伝いをする、ってのはどうかな。お詫びもかねて」
「手伝い、だと?」
「家事とか料理とか、片手じゃやりにくいことの介助とか。いやもちろん、かえって邪魔になるってんなら遠慮するけど」
うん、我ながらいい考え……のはずだったのだが、口に出した途端コミュ障ゆえの弱気が襲ってきた。わかんねえ。ジルコンもせっかくの休みなんだから、俺なんかに構わずゆっくりしたいだろうか。拒絶を丸出しにされるのが怖くて、言い訳のように言葉を続ける。
「何のかんの言って俺、ジルコンには日頃お世話になってるし……どう、かな」
「……ふむ」
細い顎を撫でて思案するジルコンは、執事モードなのか王子モードなのかよくわからない声色をしている。緊張感が倍増する。ああ、やっぱ余計なこと言わなきゃよかったか? 俺の弱気が頂点に達した瞬間。
「なら、お言葉に甘えてお願い……いや、頼むとするか」
ジルコンはすっと立ち上がって言った。内心ほっと息をつく。わざわざ王子モードで言い直さなくていいだろとは思ったけど。
「明日は家に顔を出すつもりでいた。お前も付き合え」
「へいへい。……家?」
一度聞き流しかけた単語に首をかしげる。家ってなんだろ。ジルコンことディアマンテ殿下はこの国の王子サマなんだから、家っつったら城のことじゃねーの?
俺の疑問を見透かしたように、ジルコンは軽くため息をついた。
「明日になったらわかる。……言っておくが、考察と称して勝手な妄想を吹聴するなよ」
「し、しねーし! 俺だってそのくらいのデリカシーはあるし!」
「どうだかな。初めて顔を突き合わせたときの自分の言動、忘れたと言わせる気はないが」
「う、だから、それはごめんて……」
そこを持ち出されると弱い。くそう。やっぱ根に持つタイプなんだよなあ、こいつ。ぐぬぬ顔になる俺を放って、ジルコンは部屋を出るドアに向かう。
「出立は明け方になる。今夜は案内板をいじらず早めに寝るように」
「明け方!?」
「出先で仕事があるからな。俺の代わりに、手伝いをしてくれるんだろう?」
「ぐっ……!」
突きつけられた言質に言葉を失った。や、やっぱ余計なこと言うんじゃなかった! 今夜はジュエぷりブラウザ版の動向について、徹底的にパブサするつもりだったのに!!
しぶしぶ早寝を選んだ夜が明けて、日曜の朝。
「起きろ、チュー太郎」
「ふがっ」
鼻先の痛みで目が覚めた。視界には巨大なダイヤモンドと、それに劣らぬ輝きのキラキラ王子。だからダイヤをナックル代わりに使うんじゃないよこいつは。鼻脂で曇っても俺のせいじゃねーからな。
「んー……もう朝ぁ……?」
「遅い。五分で支度を終わらせろ」
「うぅ、鬼ぃ……ってか、『おはようございます、チュー太郎様』はどーしたよぉ……」
「生憎だが今日は完全オフなんでな。執事は休業だ」
「うぐぐ……」
眠い目を擦りながら、窓の外に目をやった。まだ日も登り切らない薄暗い時間帯。こんな時間から働くなんて……慣れてるっちゃ慣れてるけど、もうそういうのとは無縁だと思ってたのになあ。
それにしても、目の前で腕を組むジルコンときたら。完全オフとの言葉通り、今日の彼は洗いざらしの白いシャツに、細身の革ズボンというラフな格好だ。服だけなら俺と大差ないのに、それでも妙にサマになってるのはビジュアル強者の成せる業か。大して長くもない後ろ髪も、尻尾みたいにちょろっとまとめちゃって、まーイケメン様は休日スタイルまでおイケでいらっしゃる。無駄に卑屈になってしまう無課金フェイス俺。
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