66 / 200
64・旦那様はガチムチ系
しおりを挟む
「要らん話をしすぎたな。お前もそろそろ仕事に戻れ」
「あ……」
ジルコンが俺の横をすり抜けて、床に置いた湯呑みをひょいと拾い上げる。そのまま台所に去ろうとする背中に、衝動的に声をかけた。
「あの、ジルコン!」
「なんだ」
「その、なんつーか」
「?」
「なんつーか……うまく言えないけど、ありがとな、話してくれて」
「……」
振り向いたジルコンは、なんとも言えない目で俺を見下ろしている。なんだか少しだけ、困っているようにも見える。
「別に……少なくともこの国の貴族なら誰でも知っている話だ。特別な意図をもって打ち明けたわけでもないんだが」
「いいよ、それでも。それでも、なんか……ありがとうなんだよ、俺にとっては」
なんとなく相好を崩す俺を、いつもみたいに鼻でひと笑いして。ジルコンはもう一度俺に背を向ける。照れ臭さに後ろ頭を掻いて、俺も浜に繋がる出口に向かう。
「……つくづく、変な奴だな」
ジルコンがぼそりと呟いた独り言は、俺の耳ではうまく聞き取れなかった。
浜の作業場に戻ると、ちょうど新たな昆布隊が浜に到着したところだった。砂利浜を急ぎ足でみんなのところに向かう。ハフノンさんが俺に気づいて軽く手を振った。
「どもっす。すいません、休憩もらっちゃって」
「いえいえ。大丈夫、続けられる?」
「あ、ハイ。すいませんね、ひ弱で」
「そんなことないよ。慣れてないと辛いでしょ」
「そうそう。無理はしないでいいからね。大事なこの国の灯士様を、昆布干しで潰したなんてことになったら大変だ」
網に山盛りされた昆布を運んでいた、背の高い筋骨隆々の男性が、通りすがりに俺に声をかけていく。
「いやいや、そんな。だいじょぶです、ハイ」
気遣いがありがたく、そしてぎこちない愛想笑いしかできない自分が情けない。っていうか、灯士だって知られてんの、俺?
「あれ、うちの旦那なの」
俺の疑問を見透かしたように、昆布を広げながらハフノンさんは言った。
「実は君のこと、ちょっと前にジルから聞いてたんだ。灯士寮の管理人をすることになったって報告されたから、どんな子なのって話になって」
「あ、なるほど。……なんて言われたんすか」
「真珠みたいに綺麗な美少年と、黒髪の地味で特徴ない奴の二人、って。それで今日、ジルが君を連れてきたから、たぶん君がその黒髪の方なんだろうなって……違った?」
「いや……合ってますけど」
「よかった。言い方ごめんね、ジルは無神経だから」
いや、それをそのまま俺に言っちゃうアナタもアナタですけど。しかしハフノンさんに悪びれた様子は微塵もない。うーん、やっぱりこの人も、優しそうに見えてしっかりあいつと血が繋がってる感はある。
「あ……」
ジルコンが俺の横をすり抜けて、床に置いた湯呑みをひょいと拾い上げる。そのまま台所に去ろうとする背中に、衝動的に声をかけた。
「あの、ジルコン!」
「なんだ」
「その、なんつーか」
「?」
「なんつーか……うまく言えないけど、ありがとな、話してくれて」
「……」
振り向いたジルコンは、なんとも言えない目で俺を見下ろしている。なんだか少しだけ、困っているようにも見える。
「別に……少なくともこの国の貴族なら誰でも知っている話だ。特別な意図をもって打ち明けたわけでもないんだが」
「いいよ、それでも。それでも、なんか……ありがとうなんだよ、俺にとっては」
なんとなく相好を崩す俺を、いつもみたいに鼻でひと笑いして。ジルコンはもう一度俺に背を向ける。照れ臭さに後ろ頭を掻いて、俺も浜に繋がる出口に向かう。
「……つくづく、変な奴だな」
ジルコンがぼそりと呟いた独り言は、俺の耳ではうまく聞き取れなかった。
浜の作業場に戻ると、ちょうど新たな昆布隊が浜に到着したところだった。砂利浜を急ぎ足でみんなのところに向かう。ハフノンさんが俺に気づいて軽く手を振った。
「どもっす。すいません、休憩もらっちゃって」
「いえいえ。大丈夫、続けられる?」
「あ、ハイ。すいませんね、ひ弱で」
「そんなことないよ。慣れてないと辛いでしょ」
「そうそう。無理はしないでいいからね。大事なこの国の灯士様を、昆布干しで潰したなんてことになったら大変だ」
網に山盛りされた昆布を運んでいた、背の高い筋骨隆々の男性が、通りすがりに俺に声をかけていく。
「いやいや、そんな。だいじょぶです、ハイ」
気遣いがありがたく、そしてぎこちない愛想笑いしかできない自分が情けない。っていうか、灯士だって知られてんの、俺?
「あれ、うちの旦那なの」
俺の疑問を見透かしたように、昆布を広げながらハフノンさんは言った。
「実は君のこと、ちょっと前にジルから聞いてたんだ。灯士寮の管理人をすることになったって報告されたから、どんな子なのって話になって」
「あ、なるほど。……なんて言われたんすか」
「真珠みたいに綺麗な美少年と、黒髪の地味で特徴ない奴の二人、って。それで今日、ジルが君を連れてきたから、たぶん君がその黒髪の方なんだろうなって……違った?」
「いや……合ってますけど」
「よかった。言い方ごめんね、ジルは無神経だから」
いや、それをそのまま俺に言っちゃうアナタもアナタですけど。しかしハフノンさんに悪びれた様子は微塵もない。うーん、やっぱりこの人も、優しそうに見えてしっかりあいつと血が繋がってる感はある。
2
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる