転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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63・ダイヤモンドの代用品

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「大層に語るほどのことでもない」

 いつも通りに感情の読めない、さらりとした口調でジルコンは言った。

「よくある話だ。女癖のよろしくない国王が、出入りの漁業組合で見つけた子持ちの未亡人に手を付けた。そのときの落とし胤が俺で、程なく命を落とした未亡人に代わり、俺を育て上げたのが姉、というわけだ」
「よ、よくある話なの、それ」
「よくある。お前の居た場所でどうだったかは知らんが、なんせこの国は百年戦のさ中にあったからな」

 話しながら立ち上がって窓を開けに行く。古い木枠の窓はガタつきながら開いた。まだ白い日差しと、潮混じりの風が広間に抜ける。

「人間同士であればまだしも和合の道も見いだせるだろうが、相手は言葉の通じない闇の権化だ。便宜上戦争と呼ばれてはいるものの、実質は獣の縄張り争い、ルール無用の食らい合いだ。貞操よりも繁殖を優先しなければ数が追いつかん。畢竟血筋を重視する貴族ほど倫理道徳は崩壊し、興味本位のお手つきすらも正当化される傾向にあったというわけだ」
「け……結構、壮絶なんだな」
「俺にはハフノンの他に十人の兄姉がいるが、うち四人は既に死んでいる。三人目がいなくなったあたりで俺は城に召され、同時にディアマンテの名を与えられた。死んだ血族……いや、これから先死ぬかもしれない血族の代用品としてな」
「代用品……」

 嚙みしめるように小さく繰り返す。刃みたいな言葉だ。語る当人のジルコンは、ひどく淡々としているけれど。

「まあ、それもこれも昔の話だ。百年にわたる戦争がようやく終結して以来、この国のありようは大きく変化を遂げた。騎士の中でもランジンやトパシオあたりの若い層には、戦時の記憶も価値観もあまり影響を及ぼしていないだろう」
「ああ……そっか。平和になったんだな」
「とは言えいまだ脅威は完全に去ったわけじゃない。スキアは人の心や夜の影、あらゆる闇から生まれる無形の怪物だ。形を成す前に適宜散らして、徒党を組ませないように計らわなければならない」

 窓枠に手をついて、ジルコンは浜辺を眺めている。白いシャツをまとった背中越しに、光る海がわずかに覗いている。

「栄誉のない地味な汚れ仕事だ。だが、誰かがやらねばならない仕事でもある。ちょうどその頃、有事の備えとして召し上げたものの、今となっては持て余している存在が城に居た」
「それって……」
「耀燈騎士団の成り立ちはつまり、そういうことだ。上がそうそう死ななくなった以上、役目を失った代用品は払い下げられて然るべし、というわけだな」
「そんな!」

 つい声を荒げてしまった。勢いに乗ってその場に立ち上がる。ジルコンはちょっと驚いたように目を丸くする。

「だ、だってあんまりだろ、そんなの! そっちの都合で勝手に名前まで変えさせて、時代が変わったからって一方的に面倒押し付けて!」
「落ち着け。急にどうした、お前」
「ジルコンもジルコンだよ! 怒れよ、代用品なんて! お前みたいな傲慢野郎が、権力者にいいように扱われてんなよな!?」
「……ほう?」

 本当に俺は、自分でも不思議なくらい頭に来ていた。理由はたぶん、自分で言った通りだ。ジルコンが、このキラキラ傲慢王子サマが、悪い大人の企みに翻弄されて、粗雑に扱われてるとこなんて見たくない。もしかしたらそれは俺の勝手な押し付け──単なる解釈違いです、ってやつなのかもしれないけど。
 ジルコンは興味深いものでも見たように顎を撫でている。七色にきらめく宝石みたいな髪が、潮風に乗ってふわりと揺れる。

「確かに、俺にも思うところがなかったわけじゃないが……しかし、いいようにされたと言うよりはむしろお互い様だ。俺も俺でこの地位に引き上げられた以上、王子の特権は存分に利用させてもらっているからな。無論、感謝しているとまでは言わないが」
「……そうなの?」
「それに俺はスキア退治の役目もそう嫌いじゃない。王族の末席に飾りつけられて、中身のない装飾具になるよりはよっぽどマシだ。幸い良い部下にも恵まれたことだしな」
「……」

 その言葉にたぶん嘘はないんだろう。ジルコンがいかに仲間を大事に思っているかも知っている。双方の思惑が一致しているなら、納得行ってないのは外野の俺だけだ。口を挟める話じゃない。……悔しいけど。
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