転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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67・金剛石強強剣

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 両手を頭の後ろに回し、前を行くニヤニヤと眺める。行きはあれだけ怖かった山道だけど、今はそれほどでもない。下りの方がより怖いってのもあるんだろうけど。

「やーマジ、いいこと聞いちゃったわー。素直じゃないですにゃージル君は」
「……ハフノンか。いらんことをいらん奴に吹き込みやがって」
「いらん奴って何よ! その言い方はお前、ツンデレにしてもさすがに傷つきますわよ?」
「喜べ、ツンデレのつもりは微塵も無い」
「ぐぬう……!」

 それもツンデレの一環じゃねーのー? ……なんて茶化すには、今の俺にはまだ経験値が足りない。つーかガチで嫌がられてる可能性もないではないし。こういうとき空気読めないで失敗するんだ、俺は。自覚はあるんだ。自重自重。

 崖沿いの道から浜辺へと目を落とす。来るとき見えなかった浜辺には、今は縞模様に昆布が並べられていて、さっきまで一緒に作業していた人たちが、辺りに座り込んで休憩しているのが見えた。中のひとり、顔まではわからないが髪色からしてたぶんハフノンさんが、俺たちに気づいて手を振ってくれる。俺も軽く手を振り返してから、立ち止まりもしないジルコンの後を追いかけた。

「……なんかさー、ジルコンって、こういうとこで育ったんだな。あのお城じゃなくて」
「そうだ。なんだ、意外だったか」
「意外……っちゃ意外だけど、納得っちゃ納得かな」
「ほう?」
「いろいろ腑に落ちたっつーかさ。仲間を大事にするとことか、あと……まあ、いろいろ」
「微妙に含みのある言い方だな」
「いやいやいや、ソンナコトナイヨ」
「まあいい。追求はしないでおいてやる」

 頭に思い浮かんでいたこと……プライバシーがどうとか荒っぽいとこがどうとかは、本人に言ったら怒られるだろうから内緒にしておく。でも、それもこれも含めて今日の出来事は、言ってしまえば俺の、ジルコンに対する解像度をグン上げしてくれるイベントだった。楽しかった。それだけに──いや、だからこそ。

「……なんかちょっと、申し訳なくなってきちゃったな」

 自然とこぼれた小さな独り言を、ジルコンは耳ざとく聞きつける。

「それは、どういう意味だ」
「あ、いや、うーんと」
「言え。隠すな」
「いや、その……ハーレムとか、攻略とか、そういうのが」
「は?」
「なんか……ただのイケメンキラキラ王子様だと思ってたジルコンにも、これまで育ってきた場所があって、家族がいて、大事に思う時間があって……とかさ。そういうのを考えると、今さらだけどなんか、軽々しく攻略ーなんてのに罪悪感を覚えるって言うか、自分が恥ずかしくなってきちゃったって言うか……」
「……お前」

 振り返って足を止めたジルコンの顔を、俺はまっすぐ見られなかった。盛大にため息をつかれたことだけは、気配でわかったけど。

「本っ当に、今さらだな」
「ぐっ」
「だったらどうする。むざむざミマに機会を譲って、廃課金ハーレムを築かせるのか」
「そ、それは……! それは……嫌だけど」
「なら、お前がやるしかないだろう」

 ずい、と一歩、ジルコンが俺に近づく。相変わらずのキラキラが瞳に刺さる。思わず顔を背けた先ですら、光る海のキラキラが目に痛い。

「何度も言うが、気後れするな。そこでお前が退けば、損害を被るのは俺たちなんだぞ」
「う、うー……」
「それに前にも言ったが、ハーレム云々を言えるのは全員がお前に惚れてからの話だろう。今のうちから罪悪感なんて皮算用にも程がある。お前、本当に騎士団の全員が、他ならぬお前に心を寄せると思っているのか? 正気か?」
「しょ……す、少なくともシステム的には可能だろうがよー!」

 あんまりな言い草に抗議の声を上げると、ジルコンは満足そうな笑顔を見せた。

「ほう。多少は覇気が戻ったじゃないか。その意気だ」

 ……ああ、くそ。毎回これで言いくるめられてる気がすんだよなあ。
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