転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

文字の大きさ
88 / 200

86・さしもしらじなさしもぐさ

しおりを挟む
 まごまごしている俺が切り出す前に、ジルコンが先に口火を切った。

「大方のところは予想がついている。闘技場イベントの話だな」
「……っ、そ、それ!」
「俺がミマと組むことを耳にして、後先考えず問いただしに来た。そんなところだろう。違うか?」
「う……」

 一言でさらっとまとめられてしまった。口ごもる俺に、ジルコンは大袈裟なため息をひとつつき、長い脚を見せつけるように椅子の上で組んだ。

「安心しろ。俺は別にミマに肩入れしているわけじゃない」
「じゃ、じゃあなんでっ」
「……確かに、イベント上の選択肢として、俺がミマのパートナーに選ばれたのは事実だが」

 ジルコンはおもむろに立ち上がり、書棚から一枚の書類を取り出した。紋様の描かれた丈夫そうな紙。俺たちが結んだのと同じ、トパシオとの契約書だ。

「俺は俺で一度トパシオに灸を据えておかねばならないと思っただけだ。いかに合法、いかに合意の上とは言え、このところの奴のやり口は少々目に余るものがあるからな。王子として、騎士団を束ねる長として、団の品格を傷つけかねない行為は止めねばならない」
「……それだけ?」
「ああ、それだけだ。この俺が理由もなくミマにほだされるなど、断じてありえない」
「ぐ……」

 膝の上でぐっとこぶしを握る。確かに、理屈の上ではそういうことになるのかもしれない。でもこの世界は、ゲームの世界だ。それもイベントの進行に従って、主人公とキャラが仲を深めていく恋愛ゲームだ。
 何も言わない俺に、ジルコンは不服そうに眉根を寄せる。

「なんだ。まだ俺が信じられないとでも言うつもりか」
「や、そうじゃねーけど……そうじゃねーけど、いや、そうなのかもしんねーけどぉ……」
「は?」
「だって……だってさぁ~! 今のお前がどう思おうが、そんなイベントあったら否応なく親愛度は上がるじゃん!?」
「それは……まあ、そうなるが」
「だろぉ~!? そんなんわかっててさぁ、よかった! あなたを信じてます! いってらっしゃい! って送り出せるほど人間できてねーのよ俺はさぁ~!!」
「お前……」

 机に突っ伏して身悶える。ジルコンの呆れたような視線が頭頂部に刺さる。わかってる。ジルコンが約束を違えるような奴じゃないってことも、理不尽なのは俺の方だってのも理解してる。
 でも、事実として。この物語の主人公は俺じゃなくてミマだ。みんなの称賛を受けるのも、ジルコンとの仲を深めていくのも、本来のストーリーでは俺じゃなくて、彼のはずなのだ。
 俺の不安なんてまるっきり無視して、ジルコンはどかりと椅子に腰を下ろす。

「つくづく理解しがたい生き物だな。お前も少しは公私の別というものを覚えろ」
「あぁ!? 生き物ってなによ!!」
「俺はジルコン個人ではなく、王子としてミマと組むんだと言ってるだろう。そこに俺自身の感情が介在する余地はない。数値上の親愛度がどう左右されようと、だ」
「わ、わかってるよ! わかってるけど!」
「本当か? いらん杞憂に振り回されるくらいなら、少しは魔法の練習でもしたらどうだ。試合は一月後に迫ってるんだぞ」
「ぐにゅ……」

 確かに。ジルコンの言葉には理しかない。でも裏返して言えば、つまり感情の方面は全然考慮に入れてくれてないってことだ。俺の感情はもちろん、ミマと行動を共にすることによって、芽生えるかもしれないジルコン自身の感情にすら。正直俺が怖いのは、そこだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...